第23話 大きくなった竜

 ブルムゾーンはいろんな場所にぶつかりながら動いていたようです。

 ちょっとさがすだけで、壊れているところがたくさん見つかりました。学校の外へと出てしまっています。

(いったい、どうしちゃったんだよ……)

 学校の外に走っていくと、なんだか街がざわめいている気がします。

「あれがうわさになってる黒い竜なのかな」

「でも、白かったみたいにみえたよ」

 うわさ話が聞こえてきます。ブルムゾーンを見た人たちが、話をしているのです。

 歩いていると声が聞こえてきました。

『どうして?』

 疑問の言葉をひたすら発している竜の声です。なんとなくどちらから聞こえてくるかわかったので、タクミはそれをたよりにブルムゾーンを追いかけました。

 どうやらブルムゾーンは学校の近くにある公園に向かっているようでした。

 もし、みんなが冷静だったなら、タクミはとっくに止められていたでしょう。

 なにしろ、危険な竜がいるはずの公園に、小学生の男の子が1人で近づこうとしているのです。

 でも大人たちは竜を見たことを話すのに夢中になっていて、タクミが公園へと近づいていこうとするのをじゃまする人はいませんでした。

 公園の入り口には金属の棒が並んでいます。のりものが間違って入ってしまわないように、入り口をせまくしている棒です。

 いつもじゃまだと思いながらよけていたあの棒が、ねじまがっていました。

 ブルムゾーンは金属製のがんじょうな棒を曲げてしまうくらいのいきおいで、この公園に入り込んだということなのでしょう。

 入り口から一歩はいると、土をふむかすかな音がくつの底から聞こえてきました。

 宇宙の街の公園は、地面をすこしふかくほって土でうめてあります。地球の公園と同じように子どもたちが遊べるようにしたのだそうです。

 公園の中には大きな花壇がありますが、そこを踏み荒らしたあとがありました。

 それから、公園のすみに植えてある木々やしげみが、強いちからで押しのけられ、こわされているのが見えました。

「ブルムゾーン?」

 タクミは声をかけました。

 木々のあいだから、白い姿が見えているように思ったからです。

『……タクミ?』

 竜の声がタクミにこたえました。

 ふみくだかれてしまっているしげみをのりこえて、ひびのはいった木をさけて、のぞきこみます。

 ブルムゾーンの姿を見て、タクミはおどろいてしまいました。

 なぜなら、朝までは子犬みたいに小さかったブルムゾーンの体が大きくなっていたからです。

 今やブルムゾーンは、タクミと……小学生の男の子と、そんなに変わらないくらい大きく見えます。

 でも、体は大きくなったとは反対に、不安そうに体をちぢめていました。

 だれだって、いきなり体が大きくなったら、不安になってしまうのもしかたのないことでしょう。

「どうしたんだよ、ブルムゾーン?」

 優しく話しかけたつもりでしたが、タクミの声はなんだか非難しているみたいな感じになってしまいました。

『わからない。わからないんだよ、タクミ』

 よわよわしいブルムゾーンの返事を聞いて、タクミはすこしおちつきました。

「ごめん、そうだよね。わかってることだけでいいから……なにがあったのか、教えてくれよ」

 はやくなにがあったのか知りたいというきもちはありましたが、ブルムゾーンを急がせないように、タクミはだまって話してくれるのを待ちました。

 なん分くらいたってからでしょうか。

 ブルムゾーンがゆっくりと話しはじめました。

『気がついたら、ランドセルのなかにいるのがきつくなってたんだ』

 竜がしゃべりはじめます。

『だからランドセルから出たんだけど、だんだんロッカーのなかにいるのもきつくなっちゃって……』

 つまり、体がいきなり大きくなったのだということなのです。

 ロッカーはもちろん人が入るようにはできていません。あのロッカーにはいっていたら、きついに決まっています。

『とにかく出なくちゃっておもって、扉をこわしたんだ。それからかくれなきゃいけないとおもって走りまわって……』

 やっと見つけた場所がここだったのでしょう。

「……お墓まいりをしたから、かな?」

『そうかもしれない……あそこには、たぶんリンドブルムの体を作っていたチリがたくさんあったから……』

 ブルムゾーンの体は、リンドブルムの体を作っていたチリからできているのだと教えてもらったのを、タクミは思い出しました。

 竜の体のしくみのことはわかりませんけれど、そんなこともあるのでしょう。

 とりあえず事情はわかりました。

 では、次に考えなければいけないのは、ブルムゾーンを助けるにはどうすればいいかということです。

 考えようとしましたけれど、なにを考えればいいのかさえ、タクミにははっきりとわからなかったのです。

(そうだ、クリスに……ううん、クリスの仕事は、学校を守ることなんだ。迷惑かけちゃダメだ)

 携帯電話をポケットから取り出しかけて、タクミははげしく頭を振りました。

 そこで、タクミの目のはしに、なにか黒いものが見えたのです。

 しげみの外を見たタクミは、そこに黒い影が浮いているのを見てしまいました。

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