第22話 ブルムゾーンの逃亡
ドラグーンと話していたといううわさが流れたようで、タクミは教室でみんなにかこまれてしまいました。
となりのブラウンとろくに話せないままでシーノ先生が来ます。
「えー、今日はみなさんにお知らせすることがあります。ぜんいん、グラウンドへ行きましょう」
先生にうながされて、みんなは席を立ちました。
グラウンドに出てみると、校長先生をはじめとしたえらい人たちに混ざってクリスがいました。
「あー、はじめまして。俺はクリス・エバーフロウ。ドラグーンだ」
マイクなしでもグラウンドいっぱいに広がるくらい大きな声でクリスがしゃべりはじめます。
お話の内容は、朝も聞いた内容と、その追加です。
鳥くらいのサイズの――鳥は宇宙の町にはいないので、みんなホログラフィーで見たことがあるだけでしたが――竜がプロキシマ・ケンタウリに出現していること。
危険なのでけっして近づいてはいけないこと。小さくても竜なので、爪でひっかかれたり食いつかれると大ケガをすることになります。
連絡用のアドレスを用意したので、もし見つけたらすぐにそこに連絡すること。
「それから最後に。君たちの安全な学校生活は、俺とそこにいる相棒が必ず守って見せる。信じてくれ」
クリスが手で示した先にはハシムがいました。相棒と言われて、黒い顔にぶぜんとした表情を浮かべています。
(ハシムもいたんだ。宇竜船でもいっしょ
だったし、本当に仲がいいのかな?)
タクミはそう思いました。
クラスにもどり、みんなコンピュータのスイッチをあらためてオンにします。
ブラウンがとなりにいるのは朝とおなじでしたが、逆がわのとなりにはなぜかフランツがすわりました。
「おい」
ふきげんな声でフランツが言いました。
「なんだよ」
ふきげんの声でタクミもこたえます。
「ナミはケガしたのか?」
「なんで知ってるんだよ」
フランツもタクミも、お互いのほうを見ないで話しています。
彼がナミを好きでからんできたのはわかりましたが、今さら仲よくしゃべるような関係になるのは簡単ではないのです。
「見ればわかるだろ。足をかばいながら歩いてたじゃねえか」
「なんでわかるんだよ。キモチワルイなあ」
「んだと!?」
大きな声を出してたフランツに、ほかのクラスメートたちの視線が集まりました。
シーリンもじっとこっちを見ていることに気づき、タクミとフランツは1度だけ顔をみあわせました。
大声を出すのはやめようと、視線が語っています。
「……わかるだろ、ふつう。へんな歩きかたしてたぜ」
「俺にはふつうに歩いてるようにしか見えなかったけどな……」
運動のとくいなフランツには、歩き方のちがいがよくわかるのかもしれないとタクミはおもいました。
朝、スクールバスの乗り場までナミといっしょに歩きましたが、タクミにはふだんと同じように歩いているようにしか見えなかったからです。
でも、わかる人にはわけるくらい足をかばって歩いているなら、やはり気をつけていなければならないでしょう。
黒い竜のことやクリスのこと、気になることはありますけれど、それよりも大事なのはナミのことです。
帰りはナミといっしょに帰ろうと考えながら、タクミは先生の指示にしたがってテキストを画面に表示させました。
学校の授業は、なにごともなく進んでいました。
黒い竜が学校内に出るといったこともなく、昼休みが近づいてきています。
事件がおきたのは、タクミのお腹が鳴りはじめたころのことでした。
『タクミ、たすけて!』
ブルムゾーンがさけぶ声がかすかに聞こえました。
宇竜船でナミのために助けを呼んでいたときとおなじような声でした。
それから、授業中の教室のなかまでとどろくほどの大きな音が、廊下から聞こえたのです。
「今のは、なんの音ですか?」
シーノ先生が廊下のほうを向きました。
でも、廊下を見に行ったのは、シーノ先生よりもタクミのほうが早かったのです。
(さっきの音……ブルムゾーンじゃなかったらいいんだけど……)
そんな風にねがっていましたけれど、じっさいのところ外に出てみれば、ロッカーがひどいことになっていました。
各教室の外、廊下にはたくさんのロッカーがならんでいます。カバンをはじめ、荷物をしまっておくための場所です。
そのうちの1つがむりやり開かれていました。
タクミが使っているロッカーです。
ロッカーに近づいていきました。扉には、内がわから、体当たりをしたあとがのこっていました。
さいしょ、タクミは黒い竜がブルムゾーンを見つけたのだと思いました。
でも、ちがうのです。
(ブルムゾーンが開けたんだ。でも、なんで?)
授業中でしたから、見ていた人もいそうにありません。
目に見えない固いものを胸に押しつけられているような気がしました。不安な気持ちがまるで、形を持っているみたいです。
(とにかく、さがさなくちゃ!)
タクミは走り出しました。
玄関の扉にもぶつかったようすがあります。
だから、まずタクミは玄関へと走っていきました。
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