第21話 クリスとの再会
さらに次の日、タクミの学校で事件が起きました。
悪い事件ではありません。
ドラグーンが学校に来たのです。
朝、学校に行くと、門のあたりに人だかりができていました。
なるべく目立ちたくなかったので、タクミはそれをさけていこうとしました。
「おい、そこにいるのはタクミじゃないか?」
ですが、タクミは集まっている人たちの中から呼び止められてしまったのです。
呼び止めてきた声には聞き覚えがありました。
「……クリス?」
宇竜船で会ったドラグーンのクリスです。
「やっぱりタクミか。ひさしぶり……ってほどでもないな。元気だったか?」
集まっている子どもたちをかきわけて、クリスはタクミへと近づいてきます。
前に会ったときとおなじ、ベージュ色をしたダブルのジャケットを着ています。それが軍服なのだということは、タクミにももうわかっていました。
「うん、俺は元気だよ。クリスは……だいじょうぶだった?」
見たところ、ケガをしている感じはありませんでしたが、タクミはいちおう聞いてみました。
「俺はエースで、あの船のなかでは最強だったからな。なんともないさ」
そう言って、クリスはさわやかに笑います。
「どうして、今日は学校にいるの?」
「ああ、それなんだが……そうだ、みんなにも聞いておこうか」
クリスはみんなを見回して、問いかけました。
「このなかに、週末に街で黒い生きものを見た人はいるかい?」
顔をみあわせたり、首をひねったりしたあと、なんにんかが手をあげます。
タクミもゆっくりと手をあげました。
「次に見かけたら、すぐ逃げること。ホールでみんなに話すけど、そいつらは竜なんだ。小さくて鳥みたいに見えるけどな。しかも、人間を嫌ってる悪い竜だ」
全員に聞こえるように、クリスはゆっくりとしゃべります。
おどろきの声がみんなから聞こえました。
『黒くて小さい竜……?』
ランドセルのなかでブルムゾーンがしゃべります。
思わずちょっと首をかたむけて、それからタクミはクリスのほうをまた見ました。
クリスの青い目がこちらを見ていました。
「今、しゃべったのはタクミかい?」
クリスはさっきまでとおなじ、おだやかな顔をしていました。
でも、どうしてかわからないけれど、タクミはそのクリスの顔が、とてもこわく見えてしまったのです。
「そうだよ。……あ、ごめんクリス、俺トイレに行きたかったからもう行くね。また会えてうれしかったよ」
「ああ、俺もだよ。これからしばらくこの学校にいることになるから、時間があったらまた話そうぜ、タクミ」
まるで逃げ出すようないきおいでタクミは走ります。
うしろをふりむくと、ほかの子どもたちに囲まれたまま、クリスはじっとタクミのほうを見ていました。
寒気がして、タクミの体がふるえます。
宇宙の町は人工なので、常に快適な気温に保たれています。地球みたいに四季はありませんが、かわりに寒いと感じることもないはずなのです。
でも、たしかにタクミは背筋がこおるおもいをしていました。
玄関を抜けて、ランドセルをせおったままトイレに入りました。
個室に入ってカギをかけます。
大きな大きな息を吐いて、それからタクミはブルムゾーンに話しかけました。
「ねえ、ブルムゾーン。もしかして、黒い竜って……」
『たぶん……ううん、ぜったいにそうだよ。ファーブニルの子どもが僕を追いかけてきたんだ』
ランドセルからブルムゾーンが答えました。
「クリスは、俺たちを守りに来てくれたのかな」
『うん。君たちになにもないように守ろうとしてるんだと思う』
でも、その守ろうとしている相手のなかに、ブルムゾーンはきっとふくまれていないのです。
「……ブルムゾーンとナミは、俺が守らなきゃ」
どうすればいいかわかりません。なにもできるとは思えません。でも、どうにかしなければなりません。
だから、タクミは自分にそう言い聞かせました。
黒い竜の姿を思い出そうとしてみました。
とても小さかったのを思い出すことができました。
「だいじょうぶ」
つぶやいて、タクミはトイレから出てロッカーへと向かいました。
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