第18話 ブルムゾーンの理由
シーリンが帰ったあとのぞいてみても、ブルムゾーンはまだねむっていました。
よっぽど長いことねていなかったのでしょう。
(どんな事情があって、ねらわれてるんだろうな)
ブルムゾーンと友だちになりたいなら、彼のことを理解しなくてはいけないのだろうと、タクミはおもいました。
でも、ブルムゾーンははたして自分の事情をタクミに知ってほしいと思っているのでしょうか? それは、起きてくれるまでわからないことでした。
しばらくしてお父さんが帰ってきました。『ナミは問題なさそうだけど、念のため一晩病院にとまることになった』と言います。
お母さんとナミの服を病院に持っていって、それから帰ってくるそうです。
お父さんが再び出かけているあいだに、タクミはシーリンへとナミの帰りが明日になることを伝えました。
ブルムゾーンはその間、ずっとねていました。
お父さんに見つからないようにタクミはベッドに移しましたが、そのときもめざめるようすはありません。
目を覚ましたのは、ナミやお母さんが帰ってきた翌日の夜でした。
『ふわーあ……よくねた……』
リビングで晩ごはんを食べていたタクミは、自分の部屋から聞こえてきた声におどろいて、立ち上がってしまいました。
「どうしたんだい、タクミ?」
ふしぎそうな声でお父さんに聞かれて、タクミは竜の声がだれでもきこえるものではないことを思い出しました。
「ううん、なんでもないよ。ただ……えっと、部屋の電気を消し忘れたかなって」
下手なうそでしたけれども、お父さんはうたがいいませんでした。
「じゃあたしかめてきなさい。地球とちがって電気を作るのもたいへんなんだから、なるべく節約しなくちゃいけないよ」
「はいはい、わかってるよ」
タクミはそう言って、自分の部屋にもどりました。
「ブルムゾーン?」
『ああ……おはよう、タクミ……』
大きくあくびをしながらブルムゾーンがあいさつをしてきました。もっとも、今はおはようというにはずいぶんとおそい時間でした。
「おはよう、ブルムゾーン。でも、今はこんばんわの時間だよ」
『そうなんだ……僕、もしかしてずいぶん寝てた?』
「うん、丸1日以上ねていたよ。ごはん食べてるから、ちょっと待ってて」
またラグに横になったブルムゾーンをのこして、タクミは一度リビングへともどります。そして、手早くご飯を食べて部屋へ行きました。
『ひさしぶりに、ゆっくりねられたよ。ありがとう』
「どういたしまして。いったい、どのくらいねてなかったのさ?」
『うーん……2週間くらいかなあ。ときどき仮眠はとってたけど、追われてたからちゃんとはねむれなくて』
まだあくびをしながら、ブルムゾーンは言いました。
「……なんで追われてたのかは、聞いてもいい?」
『僕が、リンドブルムの子どもだからだよ』
ねぼけたようすでも、はっきりした声でブルムゾーンは答えました。
「でもリンドブルムの子どもってたくさんいるんじゃないの? 宇宙飛行に協力してくれてる竜はぜんぶそうだってならったけど」
『ああ、そこを区別してあげなきゃいけないんだね。あのさ、竜はどうやってうまれるのかは知ってる?』
「それは、たしか学校でならった気がする。ええと……」
すこし考えたけれど、思い出せなかったので、タクミは教科書をしらべてみることにしました。
「フォロン、サーチ。教科書から、竜の生まれ方」
ポケットの中で携帯電話が反応しました。
タクミははみだしたホログラムの画面をつかんで、机の上にあるパソコンへと押しやります。
すると、パソコンの画面に教科書の画面が表示されました。
ホログラム・ディスプレイは小さくてみづらいので、パソコンの大きな画面にうつしたのです。
「ええと……竜は、宇宙のチリに、息吹をふきこんで生まれるって書いてあるね」
画面を見ながら、タクミはイスにすわります。
「でも、息吹をふきこむのはリンドブルムにしかできないから……リンドブルムの死後はあたらしい竜は生まれていない?」
タクミはブルムゾーンを見ました。
あたらしい竜が生まれないのだとしたら、彼はいったいなにものなのでしょう。
『その説明はちょっとちがうね。子どもを作れる竜はリンドブルムだけじゃなくて、もっとたくさんいるよ。宇宙じゅうにね』
ブルムゾーンが言いました。
『ただ、竜が生み出した竜に、子どもを作る力はないんだ。竜を生める竜を、君たちがリンドブルム以外知らないだけだよ』
タクミはイスからおりて、ブルムゾーンの話をまじめに聞き始めました。
『仮に子どもを作れる竜を母竜って呼ぼうか。そういう竜は、広い広い宇宙全体にちらばって生きてるんだ』
ブルムゾーンの説明によれば、ほとんどの竜は、地球も人間も知らずに生きているのだと言います。
たまたま、リンドブルムが地球のあたりをなわばりにしていただけなのです。
「生まれたばかりなのに、君はくわしいんだね。竜ならみんな知ってる話なの?」
タクミは聞きました。
『ちがうよ。僕は特別なんだ』
ちょっと誇らしげにブルムゾーンは言いました。
『竜は死んだらチリに還る。でも、リンドブルムみたいな母竜のチリからは、時間がたつとまた母竜が生まれるんだ。それが僕なんだよ』
ブルムゾーンは言いました。
『チリになったときにほとんどの記憶は消えちゃうけど、竜は長生きだからね。ちょっとのこってる記憶だけでも、生まれたときから物知りになれるんだ』
「そうなんだ……じゃあ、君はあたらしく竜を生めるってこと?」
『いずれはね。何十年……いや、何百年か先になると思うけど』
まるで子犬のように小さなブルムゾーンの姿からは、その日が来ることなど想像もつきません。
でも、タクミにはブルムゾーンが嘘をついているようには感じられませんでした。
「ずいぶんと未来の話なんだね。でも、君はリンドブルムのあとつぎってことか」
おとぎ話みたいな話だとタクミは思いました。
『その表現は悪くないね。リンドブルムのあとつぎ……リンドブルムの後継者か。リンドブルムの子よりも、人間にはわかりやすいかも』
ブルムゾーンが、『ぐっぐっ』といった感じのへんな声を出しました。笑ったのだと気づいて、タクミも笑い声をあげました。
それから、タクミは真剣な表情でブルムゾーンに話しかけました。
「あのさ、これは聞いていいことかどうかわからないんだけど……」
『なんだい?』
「君が黒い竜にねらわれてるのは、リンドブルムの後継者だから?」
『そうだよ』
おそるおそる聞いたタクミとは反対に、なんでもないことのようにブルムゾーンは答えました。
『弱いうちに僕を殺しておきたいんだろうね。特にあの黒い奴らは、リンドブルムとケンカしてたから』
「竜にもケンカなんてあるんだ……」
『ケンカしない生き物なんていないよ。まあ、あいつらとリンドブルムのケンカは君たち人間のせいだけど』
「えっ、そうなの?」
『竜はあまり星の上に住む生き物にはかかわらないんだ。でも、リンドブルムは気まぐれに人間に力をかした。ファーブニルはそれが気に入らなかったんだよ』
ファーブニル。
それが、あの黒い竜たちの母竜なのでしょう。
リンドブルムやブルムゾーンの敵だと思うと、なんだか名前だけでもイヤなやつみたいな気がしてきます。
「そっか。じゃあ、ブルムゾーンがたいへんな目にあってるのは、おれたちのせいでもあるんだ」
タクミは言いました。
「なあ、なにか俺に手伝えることがあったら言ってくれよ」
『人間に力をかすのは、リンドブルムが好きでやったことだ。君が責任を感じる必要はないよ。それに、タクミがリンドブルムとかかわってたわけじゃないんだし』
おだやかな声でブルムゾーンは言いました。
「うん……そっか……。でも、俺はブルムゾーンのためになにかしたいんだよ。友だちになりたいから」
また、ブルムゾーンが『ぐっぐっ』と笑い声をあげました。
『友だちか。うん、それならありかな』
立ちあがり、タクミの前に立ちました。
『本当は、ちょっと行ってみたいところがあったんだ。よかったら、つれていってもらえないかな?』
「うん、もちろん! あ、でも、今日はおそいからまた明日でもいいかな? 今からじゃ、お父さんたちにおこられちゃうから」
『ああ、だいじょうぶ。どうせ、僕にはすることがあるわけじゃないからね』
タクミが伸ばした手に、ブルムゾーンは軽く頭を押し当てました。
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