第3章 タクミの友だち

第14話 帰宅したタクミ

 ブルムゾーンやナミといっしょに船にもどったあと、タクミはかけつけた船員さんに助けてもらいました。

 そして、泊まっている部屋までつれていってもらったのです。

 もちろん、約束通りブルムゾーンのことは誰にも話しませんでした。

 あとから聞いたことですが、お父さんはタクミやナミを探して走りまわっていたし、お母さんは何度も連絡しようとしていたそうです。

 でも、通路もネットも混乱していて、どちらもけっきょくつうじませんでした。タクミが送ったメッセージも、届いていなかったようです。

 そこに、意識のないナミがつれてこられたので、2人はもうパニックになってしまいました。

 いっぱいになっている船の保健室に、あわててかけ出していったのです。

 でも、おかげでタクミはブルムゾーンをかんたんに部屋に入れて、荷物にかくすことができました。

 それから、タクミたちが乗った宇竜船は目的地だったアルファエーには行かずに、帰ってしまいました。

 黒い竜から攻撃されていろいろなところが壊れてしまったので、それ以上進むことができなかったのです。

 もっとも、べつにとなりの星までいけなくても、竜やブルムゾーンに会えたことでタクミはまんぞくしていましたけれど。

 ナミは帰るとちゅうで目を覚ましました。テラスにいたときのことは、こわくて思い出せないと言っていました。

 ナミもぶじでしたし、ドラグーンたちががんばったおかげで死んだ人はいないということです。

 武勇伝を聞きたいと思いましたが、クリスやハシムとは一度も会えませんでした。

 ブルムゾーンはそのままプロキシマ・ケンタウリまでタクミといっしょに来ることができました。

 アパートメントまでもどったのは出発の翌日。リンドブルムの記念日の、午後になってからです。

 つかれたと言って部屋にもどるタクミを、お父さんやお母さんはひき止めません。

 それよりも、2人はナミを心配していたのです。

 タクミに留守番をたのむと、お父さんたちは2人でナミを大きな病院へとつれていきました。

「ブルムゾーン、出てきてだいじょうぶだよ」

 旅行用のカバンから、ブルムゾーンの白い顔が出てきました。

『ありがとう』

 そう言って、ブルムゾーンはゆっくりカバンを抜け出します。

 あらためて聞くと、竜の声はなんだかへんなふうに聞こえるのがわかりました。耳で聞くのではなく、頭のなかで音がひびいている感じなのです。

 きっとしゃべり方が人間とはちがうのでしょう。訓練しなくちゃ聞こえないというのは、本当のことみたいです。

『へえ、ここがタクミの部屋なんだね』

 白く幼い竜が部屋をながめていました。

 タクミの部屋は、あんまり広くはないですが、1人部屋です。

 でも、ベッドと、クロゼットと、パソコンを乗せている机で部屋のほとんどがうまっています。

 のこりすくないスキマに、アニメや子供向けドラマのおもちゃがおいてあるのでさらにせまくなっています。

「うん。せまい部屋だけどね。なにか食べる? ずっとかくれてたから、なにも食べてないだろ」

『ううん。こないだ……君たちの暦で2週間前くらいに食べたから、動きまわらなかったら半年くらいはなにも食べなくても平気だよ』

「そんなに食べないで、おなかすかないの?」

『僕らは長生きだからね。食べ物をあまり食べなくても平気な体になってるんだ』

 部屋の床にしいているラグにブルムゾーンがすわりました。

 サイズは小さいですけれど、翼も、しっぽも、爪もしっかりはえています。

 あの竜舎で見た竜たちとおなじです。

 ただ、ちがうのは、ブルムゾーンがとてもキレイな白色をしていること。

(伝説のリンドブルムも、きっとこんなにキレイな色だったんだろうな)

 タクミはそう考えました。

 リンドブルムは本当にいた竜ですけれど、彼が生きていた時代を知らないタクミたちにとっては、もうおとぎ話みたいな相手なのです。

『といっても、戦ったり長い距離を飛んだりしたら、もっと早くおなかがすくけどね。それでも、あと半月はなにも食べなくても平気かな』

「そうなんだ……ねえ、竜ってなにを食べるの?」

『なんでも食べるよ。動物でも植物でも。食べ物がある星はすくないから、なんでも食べられないと死んじゃうし』

「そっか。竜もたいへんなんだね……。ねえ、もっといろいろ聞いてもいい?」

『うん。でも、あとでもいいかな? もしできたら、すこし寝たいんだ』

 ブルムゾーンが、大きく口を開けました。

 あくびをしたのだと、タクミにもわかりました。

「ごめん、眠たいのに話しかけちゃって」

『僕のほうこそ……ごめん、ここが安全そうだっておもったら、ちょっと、たえられなくて……』

 竜の頭がゆれはじめました。

『それにこの布が気持ちいいから……。ねらわれてたから、僕、しばらく寝てない……』

 声がだんだんとぎれとぎれになり、ブルムゾーンはラグの上にあごをのせて目を閉じてしまいました。

「寝ちゃったの?」

 タクミはブルムゾーンを起こさないように、慎重に近づきます。

 口のあたりに手をやると、寝息を立てているのが感じられました。

「おやすみ、ブルムゾーン」

 お父さんたちがいないうちに話せないのは残念でしたけれど、タクミはゆっくり寝かせてやろうと思いました。

 なにしろ、ナミの命の恩人です。

「でも、どうしてブルムゾーンはねらわれてるんだろ」

 ねらっているのはもちろん、あの黒い竜でしょう。

(リンドブルムの子どもだから?)

 最初に会ったときにブルムゾーンはそう名乗っていました。

 でも、宇竜船を引いていたり、ドラグーンたちをのせている竜だって、リンドブルムの子どものはずです。

 ブルムゾーンだけがねらわれている理由は、タクミには想像もつきません。

「聞いたらおしえてくれるかな……」

 ねむっている白い竜を見て、タクミは言いました。

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