第13話 ブルムゾーンとのであい

 巨大な岩にぶつかりそうになったので、タクミはとっさに目を閉じて両手を前につきだしました。

 でも、想像したほどのいたみはありませんでした。

 小惑星は宇竜戦よりだいぶ小さいですし、ものを引き寄せる力はそれほど強くないのです。ですから、船で階段から落ちたときよりずっといきおいが弱いのでした。

「どこにいるんだ?」

 タクミは呼びかけながらまわりを見回しました。

 もっとも、酸素ボンベをくわえたままだったので、『ぼぼびびぶんば?』みたいな意味のわからない声になりましたが。

 少年の身長よりも高い、とがった岩の影をのぞいていくと、そのうち1つにナミがいました。

 そばには子犬みたいにちいさな白い竜がすわっています。

 竜舎で見た竜とおなじく、いえ、それ以上にきれいな、金色の宝石ににた目がタクミを見上げます。

 堂々としたようすですけれど、竜はまるで子犬のように小さいのでした。

「子どもの……竜?」

 また意味不明の言葉でしたけれど、竜には意味がわかったようでした。

『そうだよ。産まれたばかりのね』

 竜がうなづきます。

『でも、よかった。この子を助けに来てくれたんだね。……ここは空気があるから、しゃべっても平気だよ』

「こっちこそ、助かったよ。ナミは俺の妹なんだ」

 少しはっきりした声でしゃべりながら、体がういてしまわないよう慎重に、タクミはナミへ近づきます。

 意識を失っているみたいですが、胸が動いているので息はしているようです。

「こんな小さな星でも空気があるんだね」

『ううん、ここに空気なんてないよ。竜は太陽の光や、いろんなものをふくんだ風から空気を作り出すことができるんだ。それをわけてあげてるんだよ。知らないの?』

 タクミはうなづくことしかできませんでした。

 竜は空気がなくても生きていけるのだと思っていたのです。でも、竜が自分でそう言っているのですから、きっとそのとおりなのでしょう。

『まあいいや。みんながなんでもかんでも知ってる必要はないものね。それより、はやくこの子を連れかえってあげなよ。いそがないと、おいていかれちゃうよ』

 竜がいいます。

「わかった。どうすればいい?」

『この子をかかえて、ジャンプすればいいんだ。ここは星の上じゃないんだから、かんたんにもどれるよ。がんばってね』

 うなづいてから、タクミは竜の言葉の意味に気づきました。

「君はいっしょに来ないの?」

『うん。あの黒い竜たちは僕をねらってるんだ。だから、僕はかくれてなくちゃいけないんだよ』

 タクミは、あらためてまわりを見てみました。

 今のところ、黒い竜は小惑星の近くにはいないみたいです。

 ここからは見えませんけれど、きっとクリスやハシムたち、ドラグーンががんばっているのでしょう。

「でも、のこってたら見つかっちゃうかもしれないだろ。宇竜船にかくれたら、君もいっしょに逃げられるんじゃない?」

 竜ともっと話したいという想いもありましたけれど、それ以上にタクミは、竜とはいえこんな小さな子どもをおいていくわけにはいかないと思ったのです。

「だいたい、君も来てくれなきゃ、船にもどるまでにナミは息ができなくなっちゃうじゃないか」

 少しかんがえてから、竜はうなづきました。

『そうか……うん、そうかもね』

「見つかるのがイヤなら、俺のカバンに入ってるといいよ。ムダに大きいから、君が入れるスキマくらいあるよ」

「じゃあ、お言葉に甘えるよ。僕はブルムゾーン。リンドブルムの子。君は?」

 ブルムゾーンの名乗りを、タクミは気にかけませんでした。人間に味方してくれる竜がみんなリンドブルムの子どもであることは、当たり前のことだったからです。

「俺はタクミだよ。よろしくな、ブルムゾーン」

 ナミとブルムゾーンをかかえたままで、タクミは船に向かって小惑星からジャンプしました。

 体がどこにもささえられていないふしぎな感じをまた味わいながら、タクミはテラスの穴へと飛び込みます。

『ねえ。僕のことはだれにも話さないって約束してくれる?』

 船に入ったところでブルムゾーンが聞いてきました。

「もちろん」

 すぐにタクミはうなづきます。

『君のお父さんやお母さんにもだよ。あいつらがどこで聞いてるかわからないもの』

 心配しすぎだって思いましたけれど、タクミはそれでもうなづきます。

 そして、ナミをせおい、妹の大きな白い帽子にブルムゾーンをかくして、タクミは走り出します。

 タクミは子どもでしたし、ブルムゾーンもおなじでした。

 だから、黒い竜にねらわれている竜の子どもを連れていくことで事件がおきるなんて、このときは考えてもいなかったのです。

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