第11話 竜舎を見にいこう!
ナミを忘れずに迎えに行ってから、タクミはお父さんたちのところに戻りました。
そのあとは大きな食堂でディナーです。
今まで食べたこともないような料理が出て、どうやって食べればいいのか迷ってしまいました。
お父さんやお母さんが教えてくれましたけど、2人もちゃんとわかっているわけではないようです。
ほかの人たちはまよってはいませんでした。くじで当たったわけではなく、ふつうにこの船に乗れる人はテーブルマナーなどもちゃんと知っているのでしょう。
味はけっこうおいしかった気がしますけれど、よくわからないというのが正直なところです。
だって、タクミはご飯なんて味わう気分ではありませんでしたから。
食事が終わると、タクミは約束していた場所に向かいました。
ナミも誘ったのですけれど、興味はないそうです。それより星がまた見たいというので、タクミは一度妹をテラスまでつれていってやらなくてはなりませんでした。
「よう、またせたな、タクミ」
走ってもどってきたところで、クリスが片手をあげて姿を見せました。
「ううん、来たばっかりだよ。妹をテラスにつれていかなきゃいけなくてさ」
「ほう、いい兄さんじゃないか。さあ、行こうぜ、タクミ」
クリスのあとを追いかけ、関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉の前にたちます。
扉のそばにあるパネルに手をかざしたあと、クリスはそこに顔を近づけます。
「警備部のクリス・エバーフロウ。同行者1名の通行許可を頼む。目的地は竜舎」
ひとことひとこと、ゆっくりと発音しています。なんだか先生が生徒に、言い聞かせているみたいに見えました。
すると、扉の上で青いランプがつきます。
なにか起こるのかと思って、タクミはそのランプを見上げました。
「そのままあのランプを見てるんだ」
クリスに言われたとおりに見ていると、シャッターを切るような音が聞こえます。そして、音もなく扉が開きました。
「こっちだ。すぐにつくからな」
お客さん用のエリアとちがってかざりけのない通路を、クリスといっしょに歩いていきます。
「今の、なんだったの?」
「乗客リストと照合して、身元を確認してたんだ。許可を出して問題ないかってね」
「お父さんたちに連絡したってこと?」
「いや、タクミが事件をおこさなきゃそんなことにはならないよ。安心しろ」
クリスによると、船が作られたころは竜を見たがるお客さんがたくさんいたのだといいます。
だから、コンピュータにちょっと指示するだけで許可を取ることができるようにしたのだそうです。
もっとも、今となっては見たがる人もすくなくなっていて、クリスが見学させてあげた人はタクミで3人目だと言いました。
案内されるままについていくと、竜舎と書かれた扉へすぐにたどりつきました。
見学しやすいように、わかりやすいところにあるのだそうです。
「わかりやすいところにあると、緊急のときすぐに戻ってこられるからな」
「キンキューのとき?」
「悪い竜がおそってきたり、大きな岩にぶつかって故障したときのことだよ。めったにないことだけどな」
扉を開ける操作をしながらクリスがいいます。
(おそってきてくれたら、カッコよく戦うとこを見られるのかな)
そんな風に考えているうちに、扉が開きました。
金属でできた通路が左右に伸びています。
通路の向こうは壁ではなく、さくがありました。
そして、さくから先は体育館みたいに広い空間になっているのでした。もっと下の階から、もっと上の階まで、床も天井もなくつながっているのです。
青色をした翼が少しだけ見えて、タクミはさくまでいっきにかけよりました。
「わあ、竜だ!」
大きな声は部屋の中じゅうにひびいて、いそがしく仕事をしていた人たちのうち何人かがタクミとクリスをふりむきました。
でも、まわりの人たちの目なんて気にしているヒマはありません。
なにしろあこがれの竜がそこにいるのです。
青い色をした竜が4匹に、赤いのが1匹います。いずれもコウモリを大きくしたみたいな翼をたたんでくつろいでいるようです。
体とおなじ色をしている大きな瞳はすきとおっていて、まるで宝石みたいにキラキラして見えました。
鋭い爪は台所のほうちょうよりもはるかに大きくて、しっぽはおとなの胴体よりもふとく見えます。
くつろいでいても、竜たちは見た目だけで力強いとわかるのです。
「見学できるのはこの通路までだ。それと、写真をとるのは禁止。こっそりとるとつかまるから気をつけろよ」
「写真をとっちゃダメなの? 友だちに竜が見られたら写真とってくるって約束したんだけどな」
「その友だちには悪いけど、自分でとるのはダメだ。船の売店に売ってるのがあるから、おみやげに買ってやったらどうかな」
ごねてみてもダメだと言われたので、本当にダメなのでしょう。
せめてしっかり覚えておこうと、タクミは竜たちを見つめました。
『あんまりじろじろ見ないでくれよ。緊張してしまうじゃないか』
「え?」
『そこの君だよ。見てもいいけど、もう少しさりげなく見て欲しいな』
竜が話しかけてきたのだと、タクミは気づきました。
「ご、ごめんなさい」
あやまって目をそらすと、竜はまんぞくげに目を閉じました。
できるだけさりげなく思えるように注意しながら、タクミはまた竜に目を向けてみました。
そのとき、さくの向こうからとつぜん黒い肌をした男の人があらわれたので、タクミはびっくりしてしまいました。
「わっ!」
通路にすわりこんでしまったタクミの目の前で、彼はさらにのぼっていきます。どうやらホバーリフターに乗っているようです。空気の力でうごく足場です。
「仕事をほうりだして、誰を連れてきたんだ、クリス?」
さくをのりこえた彼もドラグーンのバッジをつけていることに気づきました。
「見学希望のお客さんさ、ハシム。めずらしいことに、竜に興味があるんだってよ」
「それはめずらしいな。この船にのるような金もちの子どもは、竜なんてべんりな道具だとしか考えてないやつばかりだと思っていたよ」
ハシムと呼ばれた彼はタクミのことをじろじろと見てきました。
「俺のうちはお金もちじゃないですから。たまたま、くじで当たっただけなんです」
「なるほどな。まあ、ゆっくりしていくといい。仕事のじゃまはしないでくれよ」
「はい、わかりました。さっき竜にもおこられちゃったし、気をつけます」
すなおにあやまったつもりだったのですが、クリスもハシムもふしぎそうな顔をしてタクミを見ました。
「竜に?」
「うん。あんまりじろじろ見るなって」
クリスに聞かれて、タクミは答えます。
「めずらしいな。訓練なしで竜の言葉がわかるのか」
ハシムも言います。
「えっと……誰でもわかるわけじゃないんですか?」
「ああ。感性の強い子だとまれにわかることがあると教わったことがあるが、じっさいにそういう子どもに会うのははじめてだ」
「めずらしいんだ……じゃ、しょうらいドラグーンになるのに役に立ちますか?」
問いかけたタクミにクリスがなにか言おうとしましたが、ハシムが止めました。
「役に立たないわけではないが、訓練すればだれでもできる。勉強や運動をがんばらないと、ドラグーンにはなれないな」
「おいおい、子ども相手にそんな言い方はないだろ」
「子ども相手だからといって無責任にたきつけるような言い方は、俺は好きではない」
2人の話を聞いて、タクミにもさすがに答えがわかりました。竜の言葉がわかるだけでは、ドラグーンにはなれないのです。
ちょっと残念ですが、特別なことができるのはまちがいないので、タクミはうれしくなりました。ブラウンに自慢できるかもしれません。
タクミはまた竜へ視線を向けようとしました。
ビーっという大きな音が鳴りひびいたのは、そのときのことでした。
笑顔を見せていたクリスとハシムの顔がすぐにけわしくなります。
「タクミ、悪いが見学はここまでだ。すぐにお父さんたちのところに戻れ。いいな?」
真剣な顔をしてクリスがいいました。
ハシムはホバーリフターに飛び乗って、近くにいた男の人にタクミを連れて行くように指示しています。
『ファーブニルだ。ファーブニルが来たんだ』
また、誰かの声が聞こえました。
タクミはそれが誰の声か確かめようとしましたが、そのヒマもないままに彼は竜舎から連れ出されてしまいました。
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