第9話 まっくらな宇宙をながめて
白い制服を着こなした船員さんに、タクミは外が見える場所を聞いてみました。
展望テラスは上のほうと下のほうにあるそうです。
船員さんは上のほうは人がいっぱいだって教えてくれたので、タクミたちはすいているほうに向かいました。
案内してくれるかんばんが船のいろいろな場所にあるので、それを見ながらタクミは歩いていきます。
船はとっても広いのですけれど、3次元エレベータがあるので子どもの足でもそんなに時間をかけずに移動することができます。
3次元エレベータというのはエレベータと同じで部屋のことです。普通のエレベータと違うのは、上下だけでなく左右にも動くというところです。
この船ではだいたい3つならんでいる部屋がどうやってぶつからないように動いているのかタクミにはわかりません。
でも、たいていのおとなだって、まわりにあるいろんな機械がどうやって動いているか知らないのだとお父さんが前に言っていました。
おとなは子どもより多くのことを知っているけれど、なにもかもすべて知っているわけではないのだそうです。
ただし、お父さんはそう言いながら、1時間かけてタクミが聞いた機械のしくみについてパソコンでしらべてくれましたけれど。(ちなみに、がんばって説明してくれたしくみは、タクミにはむずかしすぎてさっぱりわかりませんでした)
「ナミ、こっちに行けばテラスにつくみたいだよ」
「うん。そう書いてあるね」
3次元エレベータから出て、目の前にあった大きなかんばんをタクミとナミはならんで見ていました。
案内のとおりにタクミはあるいていきます。
ナミはタクミのあとをついてきています。タクミはあんまり道に迷うことがないのですけれど、ナミはよく迷います。
なので、タクミはナミとはぐれないように気をつけて歩いていきました。
それからすぐにわ大きな扉があけっぱなしになっているところが見えてきました。
向こうには星空が広がっています。
光より早く飛ぶ船の中ですので、たくさんの光が川の水みたいにどんどん流れていっているように見えます。
ナミが部屋のなかに走ってはいっていきました。
「わあ、すごい」
部屋の壁はぜんぶすきとおっています。
入ってきた入り口がわをのぞいて、どこを見ても外が見えるのです。窓のわくも濃い紺色をしていて、星空とすぐにはみわけがつかないほどでした。
天井には明かりがついていましたけれど、船のどこよりも暗い明かりでした。
タクミはナミのあとから、ゆっくりと入っていきます。実のところ、暗すぎて、すこしこわいと思ってしまったのです。
もちろん、声に出していうことはありませんでしたけれど。
「星、よく見えるね」
タクミはゆっくりとテラスに入っていきました。
光の速さで何年、何十年、何百年とかかるはるか彼方からの光なのです。壁にかこまれた街からはぜったいに見えない光が、タクミの目にとどいていました。
もし、部屋を明るくしていたらあの光は消えてしまうのでしょう。だからテラスはこんなに暗いのです。
星にみいっているナミとちがい、彼はまわりをながめながら部屋に入りました。
2人以外にも何人かお客さんがいるみたいでしたけれど、船員さんが言ったとおりここはすいているようです。
壁だけでなく床も透明になっているようです。ただ、床の窓わくは……床にあっても窓のわくというのかはわかりませんが……白色で見失わないようになっています。
見回しているうちに、他の星よりもずいぶんと明るい星が2つ見えることにタクミはきづきました。
最初に入ってきた場所から見て、まっすぐ前のほうと、そこから少し右がわにずれたほうとに1つずつ。あれがこれから向かう星なのでしょう。
「あっ!」
タクミは声を上げてしまいました。
向かっている星のほうに、青色をしたものが浮かんでいるのがちらっと見えたのです。
ちょうどナミのすぐ隣へと走っていって、タクミも窓に顔をはりつかせました。
「どうしたの、兄さん?」
ナミが聞いてきました。
「あそこ! 竜がいるんじゃない?」
青色をしたなにかを指さしてタクミは言います。
かつて宇宙を切り開いた人たちを運んだリンドブルムは白い竜でしたけれど、その子供たちはなぜか白くないのです。
きっと竜なのだと思いますけれど、しっぽや翼らしきものがチラチラと見えるだけで、目を凝らしてもはっきりそれが竜だとは言えませんでした。
「もう1つのテラスからだとよく見えるのかな? 行ってみない?」
「私はいいよ。ここで待ってるから、兄さんだけ行ってきたら」
ナミを残して行ってしまっていいのかどうか、タクミは少し悩みました。
(待ってるって言ってるし、だいじょうぶだよな……)
でも、竜がどうしても見たかったので、タクミはけっきょくナミを残して行ってみようと思いました。
(だいじょうぶ、ナミだってもう4年生なんだ。なにかあったら電話だってできるし)
子ども用にいろいろ機能が制限されているものですけれど、タクミもナミももちろん携帯電話くらい持っています。
プロキシマ・ケンタウリの街や、これから行くアルファエーの街にかけるなら専用の電話が必要になりますが、宇竜船の中なら普通の携帯電話でかけられます。
「それじゃ行ってくるよ。なにかあったら、俺に連絡しろよ」
「うん、わかった」
ナミを残して、タクミは扉のほうに向かいます。
『――気をつけて』
誰かに声をかけられた気がして、タクミはふりむきました。でも、ナミは外を見ていますし、ほかの人たちもタクミのことなんて見ていません。
(気のせいだよな)
そう考えて、タクミはテラスから出ていきました。
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