第2章 幼竜ブルムゾーンとのであい

第8話 宇竜船の旅

 戻ったときにはギリギリの時間になっていて、タクミはお母さんにすこしおこられてしまいました。

 だから、クリスとの出会いを家族につたえる時間はありませんでした。

 外が見えない通路を通って船に乗り込むと、赤いじゅうたんがしかれている通路が左右に広がっています。

「わー、すごいね」

 移動中ずっと音楽を聴いていたナミが、はじめておどろいた声を出しました。

 たしかに、外側はなんだかのっぺりしていてあまり印象に残りませんでしたが、船の内側は意外に豪華な造りです。

 壁は天然石風の……あくまで、風の、ですけれど……材質でできていましたし、天井にうまっているやわらかい色のライトの表にはこまかくて美しいもようがついています。

 壁のところどころにある額ぶちには、なんだか学校の授業で見た気がする有名な絵がかざられていました。

「この赤いじゅうたんって、くつのまま歩いていいのかな?」

「もちろん。くつをぬがなきゃいけないのは、おじいちゃんの家のなかだけだよ」

 おそるおそる足をふみだすタクミに、お父さんが言いました。

 まわりをながめてみますと『白竜の女王号へようこそ』と書かれた横長の旗が壁にはりついているのも見えます。

 それを見て、タクミははじめてこの船の名前を知りました。

「外はあんなに地味なのに、中は豪華なのね」

 お母さんがいいます。

「もしも外に飾りをつけたりしたら、岩がぶつかって壊れちゃうからね。宇竜船は光よりもはやく飛ぶから、なにかぶつかっても平気なように作られているんだよ」

 お父さんはそう教えてあげていますが、お母さんがちゃんと聞いている様子はありませんでした。

「そんな風にいろんなものがぶつかっちゃって、竜は平気なのかな?」

「竜はだいじょうぶだよ。とってもかたいうろこがびっしり生えているもの」

 なるほど、とタクミは思いました。

 でも、よくかんがえてみると、いくら竜だからって、うろこが金属よりかたいなんてこと、あるのでしょうか?

 もしも約束通りクリスに会えたら、教えてもらおうとタクミはおもいました。

「タクミ、ナミ。にもつを部屋においたら、ごはんの時間までは船の中であそんできてもかまわないよ。ただ、迷子にはならないように気をつけるんだよ」

「はーい。ごはんは何時から?」

 お父さんに聞きかえすと、あわててガイドブックを探し始めました。

 でも、お母さんがすぐに7時半からだと教えてくれたので、お父さんはとちゅうでさがすのをやめました。

「それじゃ、どっかから竜が見えないか探しに行こうぜ」

 タクミはナミにいいました。

「わたしは竜はべつに見たくないな。でも、おそとが見えるところがあるなら、いってみたい。宇宙ではお星さまが見えるんだよね?」

 ナミがそう答えます。

 じつは、プロキシマ・ケンタウリではほとんど星が見えません。

 なにしろ、最初に作った基地ですから、空気を逃がさないようしっかりと密閉する形にしかできなかったのです。

 ちょうど男の子が竜を見たがるのと同じように、宇宙の街に住む女の子たちは星や太陽が見たいとよくいうのです。

 タクミは走り出そうとしましたが、ナミを連れていったほうがいいと思ったので、妹と歩くはやさをあわせて動き出しました。

 フランツに妹をちゃんと守ってやれと言われたことが、もしかしたら頭のすみっこにあったからかもしれません。

「こら、荷物をおいてからだっていっただろ」

「お父さんおねがい!」

 後ろから声をかけてきたお父さんにタクミは言いました。

 タクミのお父さんはやさしいので、お願いすればきっと聞いてくれるはずだと、わかっていたからです。

「しかたないなあ……」

 大きなため息をついたのが聞こえたので振り向いてみると、お父さんが子どもたちの荷物をつかんだのが見えました。

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