第6話 出発の日
その日のかえりと、次の日にはフランツとケンカをすることもありませんでした。
シーリンも話しかけては来ません。
ブラウンと旅行について少し話しただけで、次の日も学校は終わりました。
帰ったら、お父さんの車で出発です。
リンドブルムの記念日と週末であわせて3日間の休みですけれど、行きとかえりにそれぞれまる1日かかるので、学校が終わったらすぐ行く計画なのでした。
エアカーが道を走っていき、やがて港が見えてきました。
前の席にお父さんとお母さんがすわっていて、タクミとナミは後ろの席です。
お父さんがすわっているのは運転席です。ただ、宇宙の車は行き先を決めたらかってに進んでくれるので、ハンドルはにぎっていません。
「竜は見えないのかなあ」
タクミは窓から身を乗り出しますが、船がとまっている場所はまったく見えません。どうやら建物の向こうにあるようです。
「船が見える場所にあったら、空気がそこから出ていっちゃうだろ? 外には空気がないんだから」
前を向いたまま父さんが言います。
「自由に見られたらいいのに。つまんないの」
「タクミが大人になるころには、アニメみたいに見えないスクリーンだけで空気を逃がさないようにできるかもしれないけどね。技術は進歩しているんだから」
「ふーん。本当かなあ」
窓の外を見たまま、タクミはいちおう返事をしました。
「本当だよ。このアルファ・ケンタウリでは、街は宇宙に浮かんでるだろ?」
「うんうん」
「でもね、技術が進んだおかげて、これから行くアルファエーではちゃんと星の上に街が作れるようになったんだよ」
「へー」
いちおうお父さんのせつめいは聞こえていましたけれど、あんまりわかってはいないままで、タクミは答えました。
もっとも、お父さんもちゃんと聞かせるつもりでしゃべっていたわけではないようで、なにも言いません。
いくらながめていても、やっぱり建物のそばに船は見えてきませんでした。
駐車場にエアカーが入っていきました。空いている場所は車がかってにさがしてくれます。
エアカーのあまり柔らかくないシートに、タクミはよりかかりました。
隣ではナミがイヤホンで音楽を聴いていました。
なにを聴いてるのかわかりませんが、きっといつも聴いているロックバンドの曲なんだろうとタクミは思っています。
シーリンも同じバンドが好きで、それで2人は学年がちがうのに仲がいいのだと聞いたことがあります。
タクミにはその曲のどこがいいのかさっぱりわかりません。
でも、きっとブラウンと彼がいっしょに遊んでいるゲームは、ナミたちにはどこがおもしろいのかわかってもらえないでしょう。
兄妹だからって同じものを好きになる必要はありませんし、そうでなくたって、タクミとナミはケンカをすることもなくうまくやっています。
「ほら、ついたぞ。降りろよ、ナミ」
タクミに声をかけられて、妹はすぐに音楽をとめ、カバンを手に取りました。
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