第4話 記念日の予定
タクミは廊下にあるロッカーにランドセルを置いて教室に入り、いつもの席に向かいました。
宇宙の学校では、自分がどこに座るか決まっていません。もっとも、学年がはじまってしばらくすると、だいたいみんな同じ席に座るようになります。
「おはよ、タクミ」
いつも通り、となりの席にはブラウンがいました。
名前に合わせたわけではないでしょうが茶色い髪をしていて、ちょっと太っている少年です。
「ブラウン、おはよう!」
元気よく友人にあいさつをして、タクミはイスにすわりました。
机の上には大きな画面のコンピュータがあります。宇宙の学校では、勉強はぜんぶこのコンピュータでやるのです。
ブラウンは画面に映っている手のひらマークに手をかざしていました。
「はやくログインしないと、もうすぐ先生が来るよ」
「だいじょうぶだよ。まだ時間あるって」
コンピュータのスイッチを入れると、タクミの前にある画面にも手のひらマークが出てきます。
タクミは首からぶら下げていたIDカードを、画面のまんなかに出てきた四角いわくに押しつけました。
たいていは子どものうちから、コンピュータに自分を確認してもらうために、目に見えない小さな機械を手の中に注射しています。
でも、タクミやナミはそうしていません。
「俺も早くみんなみたいに手だけでログインできるようにしたいなあ」
「毎日言ってるね、それ」
「だって、毎日毎日カードを忘れるなって言われるし。手をかざすだけのがぜったい楽じゃん」
手に機械を注射するのはお父さんやお母さんの許可がないとできないのです。
本当は、タクミのお父さんたちはしていいと言ったのです。でも、おじいさんが猛反対してやめさせられてしまいました。
そんなわけで、タクミは毎朝ふべんなやり方をしなければならないのでした。
手のひらに続いて目のマークが出てきて、そこをのぞきこむとログイン完了です。
「そうだ、リンドブルムの記念日はうちに来れるの?」
同じくログインを終えたブラウンが聞いてきました。
記念日はみんなお休みする日です。学校ももちろん休みなので、彼の家に遊びに来ないかと誘われていたのです。
今年の記念日は週末の直前にあって、連休になっています。遊びに行くにはもってこいの日です。
タクミもできればブラウンといっしょに遊びたいと思っていました。でも、残念ながらことわらなくていけないのでした。
「悪い、家族ででかけることになったんだ」
「そっか。ドラグーンレイドの新しいのを買ってもらったから、タクミといっしょにやりたかったのに」
ゲーム好きなブラウンは、子どもたちに人気の新しいゲームの名前をあげました。タクミはまだ買ってもらってないゲームです。
「うわー、やりてー!」
でも、家族みんなで旅行に行くのに、1人で家に残るわけにはいきません。
それに、旅行だってタクミはとっても楽しみにしていたのでした。
「でかけるんじゃしょうがないよね。またこんど遊ぼうよ」
ブラウンは優しいので、遊びにいくのをことわったくらいでおこったりしません。
「どこにでかける予定なの?」
ニコニコした顔のまま、彼はタクミに聞いてきます。
「それがさ、聞いておどろけよ。実は……」
話そうとしたとき、教室の扉が開きました。
ひょろりとした体格のシーノ先生が入ってきます。
「おはよう、みんな」
先生のおちついた声がスピーカーをとおして聞こえてきます。
話は後にしようと、タクミは目であいずします。
「シーノさん、おはよう!」
そして、ほかの子どもたちと声をあわせて先生にあいさつしました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます