第1章 タクミとリンドブルムの記念日
第2話 少年は竜の夢を見る
その年のリンドブルムの記念日がおとずれる2日前の夜、タクミは竜に乗って宇宙を飛ぶ夢を見ました。
遠くに星がまたたく宇宙で、タクミがのった白い竜は翼を広げて飛んでいます。
リンドブルムと同じ白い竜は幸運のしるし。
だから、行くさきがまっくらでも恐いとはかんじません。
それに竜に乗るのは宇宙の男の子なら誰でも憧れることなのです。
星を行く船を守るドラグーン――竜に乗って戦う人のことをこうよびます――になりたがる男の子はたくさんいましたし、タクミもその1人でした。
ただ、乗っているタクミは小学生の男の子のままでした。
(どうせ夢なんだから、もっとカッコいい大人になっていればいいのに)
タクミはそんな風におもいましたけれど、自分がカッコいい大人になったところはうまくおもいうかべることができませんでした。
無重力の空にはたくさんの岩がうかんでぃしたが、白い竜はすいすいとそれをさけて飛んでいきます。
いきなり、岩のうしろから黒い竜が飛び出してきました。1匹ではありません。何匹もです。
「わあ!」
「安心してよ、タクミ。あんなやつらに負ける僕じゃないよ」
竜が言いました。
そして、その言葉のとおり、たくさんおそってきた黒い竜のあいだを白い竜はかんたんにすりぬけてしまいました。
とおりぬけるときに、しっぽで攻撃して、追いかけてこられないようにふきとばしてしまいます。
「うわー、すっげー! さすが××××××!」
タクミは白い竜の名前を呼ぼうとしました。
けれども、たしかにタクミは竜の名前を知っているはずなのに、その声は言葉になりません。
どうしてなのかはわかりませんが、名前をおもいだすこともできないのです。
へんだなあ、とおもいましたけれど、タクミはすぐにかんがえるのをやめてしまいました。
なにしろ夢の中なのです。記憶だってあいまいなのに決まっています。
そんなことを考えているあいだにも、黒い竜はつぎつぎにタクミと竜へおそいかかってくるのですから。
白い竜がたおしてもたおしても黒い竜がいなくなることはありません。
「ファーブニルが呼んでいるんだよ。僕たちを近づけないようにしてるんだ」
竜が言いました。
「……ファーブニル」
タクミが呟きます。
はじめて聞くはずの名前なのに、なんだかイヤな名前だとタクミはおもいました。
その名前に気をとられてしまったときのことです。
なにか見えない、強い力がタクミを白い竜から押しのけました。
「あっ……!」
「タクミ!」
とっさに白い竜へと手を伸ばします。竜も短い手を伸ばしてきます。
でも、とどきません。
竜のむこうに見える暗闇の中、赤くかがやく2つの光が見えます。
目です。
真っ黒な竜がいて、目だけがかがやいているのです。
その目ににらみつけられながら、タクミは白い竜から落ちていきます。
「気をつけて!」
白い竜がさけびます。
「ファーブニルに気をつけて!」
だんだんとおくなっていく声を聞きながら、タクミは落ちていきました。
ビクッと体をはねさせて、タクミはベッドから飛びおきました。
いきおいよく体をおこしたので、あやうくベッドからおちるところでした。
「あー……夢の中だし、勝たせてくれればいいのに」
落っこちてめざめたので、なんだかゲームで遊んでいて、ゲームオーバーになったみたいな気持ちでおきることになりました。
時計を見てみると、まだおきる時間までずいぶんあります。
外はまだまっくらでした。
(ファーブニルに気をつけて!)
白い竜の声が、耳にのこっています。
なんだか体がふるえてしまって、タクミはまた布団にもぐり込みました。
すぐにまた寝てしまって、おきたときにはタクミは夢のことなんてすっかり忘れてしまっていたのでした。
男の子にはよくあることですが、竜にのる夢なんて、今までにも何度も見ていましたから。
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