星わたる竜の後継者
青葉桂都
序章 宇宙をわたる竜
第1話 宇宙をわたる竜
宇宙を移動する乗り物と言えば、なにを思いうかべるでしょうか。
丸くて飛行機みたいな翼があるロケットですか? それとも、宇宙人が乗ったなぞの円盤でしょうか? 銀河を走る鉄道を思い浮かべる人もいるかもしれませんね。
でも、じつははちがうんです。
遠い遠い未来……今はまだ子どものみなさんが、大人になって、さらにおじいさんやおばあさんになるよりも、もっととおい未来。
人は、竜に乗って宇宙を飛ぶようになるんです。
トカゲをおもいきり大きくして、羽を生やしたような形の、あの竜のことです。
物語には竜が出てくるものがたくさんあるのに、どうして自分たちのまわりには竜がいないのか、気になったことがある人はいませんか?
理由はとってもかんたんです。竜は、本当は宇宙に住んでいるものだからです。
たまに、気まぐれで地球におりてくる竜がいたので、竜がでてくるいろんな物語が作られました。
でも、人間の数がとってもたくさんになったので、竜たちはもうほとんど地球に来ることがなくなってしまったのです。
竜がまた人間とであったのは、人間がようやく地球と太陽からはなれて、プロキシマ・ケンタウリという星をめざしていたときのことでした。
ふつうなら、光はなによりも速く進みます。
そんな光のスピードでも、プロキシマ・ケンタウリという星は何年もかかる場所にあるのです。
だから、プロキシマ・ケンタウリに行こうとした人たちは、もう地球へは帰ることができないと考えていました。
でも、その人たちはたった1年くらいで帰ってきたんです。もちろん、プロキシマ・ケンタウリにたどり着いてから。
竜のおかげです。
たまたま地球と太陽を見にきていた竜が、運んでくれたのだと聞いて、地球で待っていた人たちはたいそうおどろきました。
えらい学者さんたちも知りませんでしたけれど、宇宙で竜は光よりもはやく飛ぶことができるのだそうです。
リンドブルムという名前のその竜は、言ったとおり真っ白くて大きな翼を羽ばたかせて、宇宙船をかかえて星から星へかんたんに移動してみせたのです。
しかも竜は、自分の子供たちも呼んで人間に協力してくれるというのです。
地球の多くの人たちは、リンドブルムを信じませんでした。絶対になにかたくらんでいると決めつけました。
大人の多くは、人をだましたり、だまされたりした経験があまりにもおおくて、竜なんて信じられるわけがないと決めつけてしまったのです。
リンドブルムは寂しそうな顔をしましたが、怒ったりはしませんでした。
でも、さいしょに竜に会ってプロキシマ・ケンタウリまで連れていってもらった人たちはちがいます。
その人たちはリンドブルムがいい竜だと知っていました。
だから、がんばって説得して、竜を信じてくれる人をふやしていきました。
少しずつリンドブルムを信じる人はふえました。
ついには、またプロキシマ・ケンタウリへと向かえるだけの仲間ができました。
たくさんの人が彼らを笑いました。きっと竜はすぐに本性をあらわして、みんな殺されてしまうと決めつけました。
それでも、リンドブルムに宇宙船を運んでもらって、彼らは旅立ちました。
1度だけではありません。何度も。何度もです。
行くたびにさまざまな材料を運んでいき、とうとう竜と、竜を信じた人たちはプロキシマ・ケンタウリに人が住める基地を作ったのです。
もちろんぜんぶが順調ではありませんでした。地球の人たちはなかなか材料を売ってくれませんでしたし、他の竜に邪魔されることもありましたから。
でも、みんなはなんとかやりとげました。
基地を作り始めたとき子供だった人たちが、おじいさんやおばあさんになって死んでしまうくらいの時間がかかりましたけれど、作り上げたのです。
リンドブルムと、彼の何十、何百という子供たちはずっと力をかしてくれました。
プロキシマ・ケンタウリは三つ子の星だったので、人々は他の2つにも同じように基地を作りました。
他の星は太陽と同じくらい大きな星でしたし(プロキシマ・ケンタウリは太陽よりもずいぶん小さいのです)、2回目の挑戦だったので、両方あわせて最初の基地を作るのと同じくらいの時間でできました。
そのころには、プロキシマ・ケンタウリの基地は街になっていました。
リンドブルムとの別れの時が来たのは、そのあとのことでした。
竜は人間よりもずいぶん長く生きられますけれど、それでも永遠ではないのです。
「どうしてあとすこししか生きられないのに、手伝ってくれたんですか?」
ある人が寝たきりになったリンドブルムに聞きました。
「たいした理由なんてないよ」
リンドブルムは答えました。
「はるか昔、私がはじめて君たちを見たとき、君たちは空を飛ぶことはもちろん、海をわたることさえできなかった」
ゆっくりとリンドブルムは語ります。
「なのに、久しぶりに見た君たちは、空どころか宇宙まで飛べるようになっていた」
元気がない声でしたけれど、はっきりと聞こえる声でした。
「だから手伝ってあげたいと思ったんだよ。君たちだって、がんばってる人たちを見て、助けてあげたいって思うことはあるだろう?」
リンドブルムが目を細くしました。笑ったのです。
それからリンドブルムは眠って、もう目を覚ましませんでした。
残ったリンドブルムの子供たちは、それからも人間に協力してくれました。
だから、人間たちは三つ子の星からさらの離れた場所にある2つの星にも基地や街を作ることができました。
竜が死んだ日はリンドブルムの記念日というお休みになりました。
地球以外のすべての星では、誰もがお休みする日です。
そして、物語はとある年のリンドブルムの記念日に、始まるのでした。
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