第3話 ユウくんと同い年

「藍、いつまで寝てるの。いい加減起きなさい!」


 お母さんの呼ぶ声が聞こえて、眠い目をこすりながら布団をはぐ。


 あれ。わたし、いつの間に寝てたんだっけ?


 願いが叶う世界に行けるって方法を試したはずなのに、それから先の記憶がない。

 もしかして、あれは全部夢だったのかな。そう思いながらベッドから下りると、なんだかいつもより視線が高いことに気づく。


「えっ、なんで?」


 まだ寝ぼけているのかな。そう思いながら、部屋のすみにある鑑を見て、わたしはさらに驚いた。

 わたしが映るはずのそこには、全く知らない女の人が映っていたから。


 ううん。初めて見るはずなのに、なんだかどこかで見たような気がする。っていうかこの人、わたしに似ている。まるで、わたしをそのまま成長させたような……


「えぇぇぇぇぇっ!」


 ようなじゃない。鑑の中のその人は、まんまわたし自身だ。ただし、少し大人になったわたしだ。多分、ユウくんと同じ高校生くらいになっている。


 これって、三島の言ってた別の世界に来たってこと? わたしが、ユウくんと同い年になった世界に?


「お母さん、わたしって今何歳なの!?」


 パニックになりながらリビングに駆け込むと、それを聞いたお母さんが呆れる。


「まだ寝ぼけてるの? 17歳の高校2年生! なのにいつまでたっても成長しないわね」


 ため息をつくお母さんだけど、途中から話なんて聞こえていなかった。ユウくんと同じ17歳になれた。それがただ嬉しくて、他のことなんて頭に入ってこなかった。そのはずだった。

 部屋の隅の、ソファーに座るユウくんを見るまでは。


「おはよう、藍」

「ユウくん、なんでうちにいるの!?」


 夕方毎日のようにうちの喫茶店にご飯を食べにくるユウくん。だけどこんな朝早くにいるなんて初めてだ。


「なんでって、迎えに来るのなんていつもの事じゃないか。学校一緒なんだし、前からそうしてるだろ」

「そ、そうだっけ」


 どうやらこの世界では、もしわたしとユウくんが同い年だったら、そういう事になっているらしい。ってことは、毎日ユウくんと一緒に学校に行けるってこと!?


 思いがけない幸せに、思わず顔が緩むけど、そこで再びお母さんの声がとんだ。


「藍、いい加減にしなさい。だいたい、いつまでそんな格好でいるの」


 改めて自分の姿を見ると、髪は寝癖が跳ねていて、着ているものはパジャマのままと言うありさまだ。


「キャッ! い、今すぐ着替えてくるから!」


 慌てて自分の部屋へと駆け出し、バタンとドアをしめる。

 そして、改めて聞いたことを確認する。

 自分が今17歳で、ユウくんと同じ学校だと言うことを。


「本当に、同い年になったんだ」


 夢じゃないかと思って、ほっぺたをつねってみるけど、ちゃんと痛い。


 制服に着替え終わると、改めて高校生になった自分を確認する。紺のブレザーにグレーのスカートって言う、ユウくんの通っている学校の制服だ。

 そしてそれを着こなすわたしは、伸びた手足に、少し大人っぽくなった顔つきと、見違えるような成長を遂げていた。


 気づけば興奮から、心臓がドクドクと激しい音を鳴らしはじめ、それを抑えるように、そっと胸に手を当てた。


「………………あれ?」


 小学生の頃と全く変わっていない平らな部分を見つけたせいか、少しだけ心臓の音が落ち着く。うーん、高校生ってもう少し成長しているものだと思ってたけど、まだこれからなんだね。


 何はともあれ、これでわたしはユウくんと同級生。これならきっと、もっと仲良くなれるし、妹じゃなくて一人の女の子として見てくれるはず。


 ワクワクしながら、再びユウくんの待つリビングに向かっていった。

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