第2話 歳の差を埋めたくて

 妹みたい。ユウくんにそう言われた次の日。わたしは学校でそれを思い出しながら、ちょっとだけ悲しい気持ちになっていた。


 わたしだってユウくんのことはお兄ちゃんみたいに思ってるし、少し前までは、妹みたいって言われたら嬉しかったはずなのに。


 ううん。本当は、どうしてこんな気持ちになるのかなんて分かってる。確かにわたしは、ユウくんをお兄ちゃんみたいに思ってる。だけど、それだけじゃない。


 好きだから。


 もちろん、兄妹みたいな好きとは少し違う。マンガやドラマであるような、恋人に対して使う好き。そんな形の好きを、わたしはユウくんに持っていた。


「でも、ムリだよね」


 教室を見渡すと、同じクラスの子達が騒いでいる。当たり前だけど、全員わたしと同じ小学四年生。とても、高校生と恋なんてできるとは思えなかった。


 それはしかたないこと。高校生のユウくんから見たら、きっとわたしはすごく子供に見えるんだろうし、実際その通りだ。

 そしてわたしが子供でいる限り、きっと妹からは抜け出せない。それくらいは分かっていた。


「大沢さん、だったっけ?」


 ユウくんが連れてきた、同じクラスの友達。彼女じゃないって言ってたけど、それでもちょっとう羨ましいって思っちゃう。


 もしわたしが大沢さんみたいに、ユウくんと同い年で、同じ学校の同じクラスにいたら、きっと妹じゃなく一人の女の子として見てくれる。

 そんなありえない事を考えていると、一人の男子の騒ぐ声が聞こえてきた。


「だから、そうすると別の世界に行けるんだって!」


 叫んでいるのは、三島啓太って言う一人の男子だ。三島は自分には霊感があるって言っていて、普段から幽霊を見たとか妖怪がいるとか言っている。本当かどうか分からないけど、今言ってる別の世界は、さすがに嘘じゃないかな?


「ねえ、それってどんなとこなの?」

「えっ?……えーっと、行くやつの願いが叶う世界かな?」


 訪ねてみると、三島は少し慌てたように答えてくれた。けれど、そんな都合のいい世界なんて、ますますホントかなって思ってしまう。

 なのに次の瞬間、わたしは食い入るように聞いていた。


「そこ、どうやったら行けるの?」


 その日の放課後、わたしはある空き家の前にいた。たまたまわたしの家の近所にあったそこは、もう何年も人が住んでいなくて、すっかり廃墟になっている。

 三島の話だと、この周りを三周してから中に入る扉を開くと、彼の言う願いがかなう世界に行けるらしい。

 実に嘘臭い話だ。


 別に、三島の言うことを信じた訳じゃない。もしも違う別の世界があったとしても、願いが叶うなんて、そんな都合のいい世界的があるとは思えない。

 それでも試してみようと思ったのは、叶えたい願いがあるから。普通じゃ決して叶わないないと分かっている願いがあるから。


 だからたとえ嘘みたいな話でも、願いが叶うと言うなら、それにすがりたいって思ってしまった。


 家の周りを三周して、願いを、そしてユウくんの顔を思い浮かべた。


 ユウくんと同い年にしてください。


 それがわたしの願いだった。七歳も年下のわたしは、いくら頑張っても妹にしか見てもらえない。だけど同い年なら、ユウくんの隣にいて釣り合うだけの女の子になれたら、きっと振り向かせることができるはず。


 そう信じて、わたしは扉を開けた。

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