寒空の下、たばこがうまい。

 僕は冬が嫌いだ。


 だけど、冬にも良いところはある。


 なんとなく街が白く見えるところとか、浮かれる街とか、なんか雰囲気が良い。正月明けの雰囲気は特に良い。物寂しいような、浮かれているような感じが良いんだよ。


 あとは……寒空の下吸う煙草がうまいことかな。


 甘い煙草は特にうまく感じる。なんでだろうね、冬のタバコが妙にうまいのは。特に冬の夜は最高。意味もなく外に出て煙草を吸いたくなる。今、僕は紙巻きを吸わずヴェポライザーだけど、それでも冬のほうがうまく感じる。寒い冬の夜に吸うコルツバニラは最高。


 多分、冬の夜は僕の心をセンチメンタルにさせるから煙草がうまいんだ。


 全く論理的じゃないかもしれないけど、物思いに耽ると煙草がうまくなるという実感がある。過去を思い返しながら懐かしい曲を聞いてみたり、将来の不安に思いを馳せてみたり。そんなときに吸う煙草はいつだってうまかった。


 冬特有の白い街の雰囲気。冬の夜、寒空の下でひとり佇んでいる寂しさ。冬の季節に隠れた僕の嫌な記憶。全てが喫煙のスパイスになり、よりおいしく感じられるのかもしれない。


 煙草がうまい。


 そう考えると、冬も悪くない。


 だけど、冬を好きになれば、この煙草の旨さは霞んでしまう気がするんだ。


 だから、僕は冬を嫌い続けるだろう。少なくとも、僕が喫煙者である限りは。

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