未練がないように、は無理だから……。

 誰かに言われたことがある。


「未練が無いように生きなさい」


 だけど、未練が無いように生きるのは無理だ、と僕は思う。未練というのはどうせ残る。いつ死んでも残るのだ。たとえ100歳まで生きようと残る。ギネスブックに載るほど生きても残るだろう。

 自分のやりたいことを人間の短い一生で全て成し遂げることはできないからだ。人間のやれることには限りがある。

 全ての職業に就けるわけではないし、この世の全ての本を読むことができるわけでもない。

 僕にはたくさんのやりたいことがある。生きている間にやりたいことリストを作っているが、ひとつ達成してもまた新しく増えていく。増えるペースの方が早い。わざわざリスト化していないだけで細々とした目標や希望などは無数にある。

 現状リスト化しているものだけでも、全部達成するのに何年かかるかわからない。十数年かかるかもしれないし数十年かかるかもしれない。

 しかも、生きている間にやりたいことというのは人生を積み重ねていけばいくほどに増えるのだ。24歳の今では思いつかなかったようなことを、25歳になったときに思いつくだろう。30歳になったときにやりたいことがどれだけ増えているかなんて、想像もできない。十数個? 数十個? もしかしたら三桁かもしれないじゃないか。

 だから、未練がないように生きるなんて無理だ。僕はどれだけ生きたって、どれだけのことを経験したって満足しないだろう。死ぬときに「もっとあれやっとけばよかったなあ」と思うのは目に見えている。 

 だからこそ、僕は「今」を精一杯面白おかしく生きようと決めている。未来を想像すると怖いから今しかいらないとネガティブなことを言いながら、僕は今を楽しく積み重ねようとしているのだ。

 僕がそういう人間だからだろうか、若い時分から「人生満足、未練なし」と言っている人間を信用できない。なぜ満足できるのだろうか。この世には面白い物事がたくさんある。面白い人もたくさんいる。視野を広げれば「あれしたい」「こうしたい」と思うことなんて無数に出てくるというのに一体何を満足している。満足して死について考えている暇があればもっと貪欲に周囲を見渡せ。楽しめ。人間なんて放っといたって死ぬんだからさ。

 ……と、昔信用できない野郎だった自分自身に対して言い聞かせて生きている。未練がないように生きるのは無理だから、いつ死んでもいいようにその時々に叶えられる物事を叶えていこうじゃないか。

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