第78話 永遠に遊べ月世界で④

 ナキワスレの第三脚にセットされた機銃が火を噴いた。

 ヒトトビも残像を生み出す敏速さでかき回す。

 「怪我すんのが嫌な奴ァ、尻尾巻いて帰りな!」

 阿吽バランスの玉乗り攻撃が狂女の信者どもを蹴散らしてゆく。

 さらに夜歩く《ナイトウォーク》が落とす五色のダイスに頭頂部を直撃されて倒れる者が続出、たちまち敵は数を減じて、如斎谷が憑いた巨腕のみとなった。


 「ちょっとは手加減してくれよ。利用されてる一般人だからな」

 「ほんの肩慣らしよ。あのウデゲルゲも任せとけ!」

 猛る烈火のごとき浩蔵の好戦性と自負心は頼もしいが如斎谷昆は真正の鬼畜、勢いだけで倒せるほど甘い敵ではない。


 空間が歪みそうな眼力で赤髪の男たちは鬼女の腕と対峙する。

 「夢に見たぜ、てめえと相まみえる日を!」

 ミレーとソワレも自己顕示欲では負けておらず、傘を突きつけ啖呵を切った。

 「月夜にわたくしたちと出会ったのが運の尽きでしてよ!」

 「あなたを華麗に討ち取って、夜歩くの功名を魔術界の津々浦々にまで轟かせるのですわ!」


 『烏合が大口叩きおる』

 「烏合──⁉」

 中指のせせら笑いが攻撃の火蓋となった。

 「行け曲水! 蓬莱!」

 「回転亀甲弾ローリングトータス!」

 浩蔵と兵蔵が球形態の神使をサッカーボールのように蹴る。

 『このダンゴムシが霊亀のつもりかね?』

 デコピンの要領ではね返され、毬は術者の顔面を襲った。


 「ゼリーダイスポンチ・グランデ!」

 次は自分たちの番だと夜歩くが空中に五色の箱を出現させる。

 一メートル四方はある立方体が雨のように降り注いだ。しかし、特大のダイスも敵を圧し潰すどころか片っ端から投げ返され、淑女コンビも阿吽バランスの二の舞となった。

 『宴会芸にしてはまずまずだ』


 俺たちも行動を起こしていた。半六が沙羅双銃を乱れ撃ち、俺は銃剣をセットし、幽香と一緒にジャンプした。

 悪遮羅の上を取ると、剣先で満月を意識した金色の円を描いて、魔神の人差し指を縦に切り裂いた。幽香も棘々鉄球兜割りで小指と薬指を砕く。

 『無駄さね。すぐ治るよ』

 何たる再生力、ダメージを負った箇所が瞬時に復元した。

 『オン・マユラ・キランディ・スヴァーハー!』

 巨腕の生える大穴周辺がぐるりと鮮やかな孔雀色マラカイトに彩られ、挑みかかった全員が地底から噴き上げる緑の火柱をまともに浴びた。


 『あはは! 射程内を焼き払う二枚扇はいかがかな?』

 撃墜された俺たちの頭にヒトトビとナキワスレが落ちてきた。所々が焼け焦げた阿吽バランスと夜歩くも地面を転がる。

 「バカ野郎……!」

 「まとめて地を這わせるとは……!」

 「なんてわかりやすい強さの演出ですの?」

 「嫌味もいいところですわ!」


 結界内の陣地補正がおかしい。三機の神使と四名の援軍らと総攻撃を仕掛けても鬼の腕に浅傷をつけることすら叶わないとは。

 『根室くん、君の神域に変えられても、ここは祖霊の肉体の一部、いわば我が守護神の聖遺物が眠る場所でもあるんだからね』

 「……地下からエネルギー供給されていたってわけか」

 かくなる上は──ポケットの中の丸薬を摘まんだ。

 アシャラの血から精製されたドーピング剤。地下道で凶悪さんが飲み下した際にこぼれ落ちた一粒をこっそり拾っておいたのだ。


 もうこれに頼るしかないと口に含みかけた手を握られた。

 「半六……」

 側には親父が映る水晶玉を持った信南子先生もいる。

 『やっぱり持っていたんだな重光』

 「そんな物飲んだら、神音力も体力も爆発的に増大するだろうけど廃人になりかねないぜ。あの男の末路を見たろう」

 「他に火力不足を補う手段がないじゃないか!」

 「もう敵が強化したから、こっちも強化するのインフレバトルはたくさんだ。僕たちにいい考えがある」

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