第79話 永遠に遊べ月世界で⑤
「結界を維持できる間に倒さないとな」
相棒は凛々しいまなざしでアシャラの正面に立った。
『みんな月を狙え! 奴の実体を叩くんだ!』
親父が指示を出す。なるほど一番効果がありそうだ。各々が飛び道具で月面を攻撃、磔になっている如斎谷の抜け殻が一斉掃射に晒された。
『身動き一つ取れぬ私の体を攻めるとは卑怯な! 私に万一のことがあったら王女ジョセフィーヌの続きが読めなくなるのだぞ!』
悪書根絶のため俺も憎しみビームを撃ちまくった。
『もう許せん!』
再び二枚扇の陣形が出現する。
「今度は僕もいるのに全方位攻撃なんかしていいのかな?」
『あ、しまった』
さっきは射程外にいた半六の靴に触れた途端、攻撃抑制の条件が発生、攻防を兼ねたマラカイトの火炎地獄が消滅した。
「あなたに染められた髪で一矢報いとかないとね」
これで足元の心配をせず月面の本体をタコ殴りにできる。
「十字砲火だ! 髪の毛一本残すな!」
『やや、これはいかん!』
たまりかねた如斎谷の魂魄が月へ戻っていく。
『今のうちにアシャラの腕を封印せよ!』
「容保先生、わたしにフィニッシュを決めさせてください」
幽香が明星棍を火砲のごとく肩に担いだ。
「おし根室妹、一献いけ」
浩蔵が腰に下げた瓢箪を差し出した。
「うちで扱ってる酒だ。ガソリン補給と思ってグッとやれ」
「わたし未成年ですし、お酒は……」
「おまえの崇敬神は祇園さまなんだろ?」
吽の宗田も口添えする。
「素戔嗚命が八岐大蛇を征伐した際、蛇を酔い潰れさせた酒は松尾明神が作ったという設定のお神楽もあるのだ」
「飲め幽香、降魔の聖酒だ」
逡巡する義妹の背中を叩く。悪遮羅を倒せるなら飲酒にも目をつぶろう
「じゃ……じゃあ」
飲み干すなり幽香の体がどんっと膨張した。
球体の棘が引っ込んで代わりにバーニアが噴き出す。
「なんか熱いです……」
幽香の足元から陽炎が立ち上る。神酒の効果は絶大で、空気を屈折させるほどの神音力が生まれたのだ。
「皆さん、わたしに触れてください。神様仏様を想いながら」
「わかった。みんな頼む」
右肩に半六が、左肩に俺が手を置いた。
確かに熱い。体温が上がっている。
「禊ぎ祓へし時に生り坐せる
「諸々の禍事、罪、穢れ有らむをば」
「守り給へ清め給へ」
半六の肩には阿吽バランスが手を当てて、俺の肩には夜歩くが手を当てる。皆口々に祓詞を唱え、信心が腕を伝って幽香へ集中した。
「
お住持さまの読経が聞こえてきた。隣で携帯ラジオを見せて半六がニヤリと笑う。
「重光、幽香ちゃんにキスしてあげな」
「はあっ⁉ 何の冗談だ?」
とめどなく送り込まれる信仰エネルギーに、幽香の体が破裂するのではないかと危ぶまれる状況で、親友がとんだ悪ふざけを口にする。
「すでに彼女の体内の神音力は満タンだが念押しのためにね。君のチューに優るドーピング剤があると思うかい?」
「んん……」
風もないのに波打つ銀髪は、自己制御が困難なほどの力の蓄積を意味している。撃つタイミングを誤れば味方を巻き込んで自爆しかねない。
「やってやるよ。好きだぜ幽香」
さっと横に回って左頬を唇でつついた。
「
乙女盛りの十五歳、火鉢の上の鉄瓶のごとき真っ赤な顔から蒸気をほとばしらせると明星棍の鉄球が柄を離れた。
「
住職と埜口父を含め、ここにいる者すべての念を費やした神音力が推進剤となって破魔のロケット弾を形成、アシャラの掌で炸裂した。
『始祖さまああああああっ⁉』
鬼女の手は浄化の雷火に包まれた。素晴らしき哉友情パワー。
六指を悶えさせながら穴の底へ沈んでいく。
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