第77話 永遠に遊べ月世界で③
『我が祖霊といえども腕だけでは思考に不自由されると考えてな。畏れ多いことだが私の魂を憑依させて司令塔となった次第』
歯ぎしりしたくなる解説に俺たちは恐れおののいた。
最悪だ。魔神の右腕に痴女の頭脳、考えうる限り最悪の組み合わせだ。
「昆さま! なんと勇ましい御姿に!」
鹿鳴喚の痛苦も癒えたか永野兵美が巨腕の前で膝を折る。リーダーの代わりに祖霊を出迎えるのは自分の役目と思ったようだ。
「アシャラ様と一体化されるとは、どこまでも我々の予想のはるか先を行かれるお方。ここに集いし者どもをお導きくださいませ」
巨腕は意外な返答に出た。
「こ、昆様⁉」
六本の指で掴まれた永野が焦る。
「お……お待ちを昆様、いやアシャラ様! 私はあなた様の忠実な僕、生贄はあの男どもにございます!」
『黙れ』
永野が掌中に押し込まれる。数秒かけてのシェイクの後、くしゃくしゃに丸められた紙屑みたいに投げ捨てられて校舎の壁に激突した。
「わあっ……!」
信徒たちが雪崩をうって逃げ出した。教祖の側近さえゴミ屑同然の扱いでは、到底自分たちに好意的な存在だとは思えまい。
『今更逃げられると思ったかたわけ!』
六つの指先から黒い人魂のようなものが迸った。次々逃げる連中に追いつくと耳から体内へ侵入、信徒たちはくるりと踵を返す。
「何なりとご命令をアシャラ様」
全員目が発光している。またしても洗脳されたか。
『あの困った子たちに大怪我させない程度のヤキ入れを』
「御意」
瞬く間に散開して神楽殿を取り巻き、じりじり距離を詰めてくる。
「操られている人たちもやっつけるんですか?」
「そのつもりで来たんだが……」
月光の加護の下ならば蹴散らすのも容易いが、狂女の催眠下にある同級生たちが大半を占めるとあっては、気遣いしながらの戦いにならざるを得ない。とんだ縛りプレイを強要される羽目になった。
どうしようかな。本当に撃ってやろうかな。
その時である。雄々しい獅子吼が聞こえてきたのは。
『
「オドシちゃん!」
正門に建てられた即席の鳥居から幽香の狛犬型神使が現れたのだ。
続く小柄な神使が二機。三本脚の烏型と白銀の兎型。
「ナキワスレ!」
「ヒトトビ!」
オドシが雷鳴も霞ませる迫力の咆哮で信徒たちを右へ左へ追い散らし、神楽殿の真横で止まると牽引する貨車の扉が開いた。
まず顔をのぞかせたのは真っ赤な髪の長躯と短躯の男。
「待たせたな這月那月の! いや三星のか⁉」
「阿吽バランス!」
八幡社で決闘した松尾明神を祀る男子チーム。
続いて下りたのは縦ロール髪にミニハットの女たち。
「わたくしたちをお忘れになっていませんこと?」
「
月読を祀るゴスロリファッションの女子チーム。
「あんたたちどうして⁉」
「どうかしてんのはてめえの方よ。俺たちゃ元々悪遮羅の復活に備えて招集された退魔師チームだってのに声をかけねえ法はねえだろ」
「んっ」
巻き舌で憤る澤合浩蔵の隣で相方の宗田兵蔵が同意を表わす。
「こんな最大の
「非礼にも程がありましてよ?」
六曜ソワレと築地ミレーも怒りの視線を向ける。
「そうか……ここ一番の勝負に乗り遅れたくないよな」
理由はどうあれ、かつての敵のピンチに馳せ参じてくれた連中から、ひしひしと〝
阿吽バランスが亀甲模様の毬に乗って近づいてきた。浩蔵が乗るのは確か曲水というメカ亀で、兵蔵を乗せたもう一体は初見の神電使である。
「ひさしぶりっす埜口の
「
特攻役と半六が気軽に挨拶を交わし合う。
「二人とも知り合いか?」
「埜口家は昔から
「松風苑とは我々が勤務する酒屋のことだ」
浩藏の解説に口の重い宗田兵蔵が注釈を添える。
「後はオレたちに任せて観客気分でいな! 行くぜヒョウ!
「上古とかいう狛犬型神電使はどうしたんだ?」
「チャリオット型に改修中だ!」
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