第73話 魔神の復活祭⑤
「長野、埜口くんを預かっておれ」
子猫でも渡すみたいに親友を押しつけられた永野が渋面を作る。
「私に男のお守りをしろとお命じになるのですか?」
「少しでも傷がついていたら今度こそ
「ゴミバコ……!」
「忘れるな。待たせたね根室くん」
側近にとって最も忍耐を要する命令を下して、奴は俺たちへ向き直った。
「さあ! どこからでもかかってきたまえ」
マントを翼のように広げる姿はまさに漆黒の孔雀。全身から立ち昇る禍々しい黒煙は奴の観音(神音)力か。戦意を凍結されかかるほどの威圧感だ。
「さあ! さあ! さあ!」
如斎谷が一歩踏み出すと情けなくも後ずさってしまう。
「重光ちゃん、まずわたしが……」
冷や汗まみれの幽香が拳を握る。
「いい! 小手調べで戦力を削がれるのは避けろ!」
いきなり最大火力で潰す。新型菩提銃を構えてハイモードで発砲、ミドル四発ぶんのソフトボール大の火球が発射された。
しかし、奴は左手で自分を扇ぎながら、右手で神音力の光球をはじいた。
「バケアマがあ!」
突き出した右の掌に浮かぶ文字は〝遮〟。
「ちょっと熱かったかな? ロケット弾すら止める外道法術・
如斎谷は唇をすぼめて手を舐めた。
たったこれだけ。敵陣とはいえ月天子と月読の神電池を併用した
「私の結界内では月光の加護すら大幅に削減されてしまうのさ。せっかくのフルムーンだというのに惜しいねえ」
「ど、どうしましょう……?」
青ざめる幽香に自らを鼓舞するつもりで気合を発した。
「何でもしろ!」
撃ちながら俺は前進する。
「つづけ! 休まず攻めろ!」
「お……おお~っ!」
臆病なだけに感化されやすい性格も手伝って、我が従妹も拳を振りかぶって魔王ジョサイヤへ突撃を開始した。
神電池の加護で致命傷だけは避けられる。最も危険な肉弾戦の
「また技に磨きがかかったね」
怒涛の銃剣ラッシュを余裕綽々で捌かれる。
華麗な弧を描く幽香のフックも首を傾けるだけで対応した。
「殺せ! 殺せ!」
「いいぞ! いいぞ!」
俺がダウンを取られるたびに歓声が沸き起こる。前後および両側面からの同時攻撃を試みては鉄扇に打ち据えられることは数回に及んだ。
「
「甘いよ」
銃を捨てての拳打を指一本で止められた。なんたる圧力、着面積が拳よりはるかに狭い中指を圧し返せない。
「学校で倒したときは手抜きしてやがったな」
「手抜きというより遊び過ぎたんだね──ハッ!」
後ろから突っ込んできた幽香に鉄扇で衝撃波を飛ばす。
俺たちは対角線上を逆方向へ吹っ飛び、神楽殿の柱に叩きつけられた。
「根室の野郎、ざまあねえや!」
嘲笑する信者たちを見て俺は黒いオーラに気づいた。艶のある真っ黒な煙が彼らの体から湧き出ているのだ。
「見えたかい? 信者たちの負の感情が生み出すオーラを」
「これも祖霊復活に利用する算段だったのか」
「アシャラ様好みの邪欲のオーラだ。これだけ大量の負のエネルギーなら生贄を捧げずともアシャラ様は復活されるかもな」
空中に溜まったオーラは大穴へ流れていく。
「お話中を狙って人間魚雷!」
「私に道連れ自爆攻撃は悪手だ」
頭から突っ込んできた幽香を鉄扇チョップで叩き落とした。
「悪いが君は
「幽香ちゃん!」
リングもとい舞殿へ駆け寄ろうとした半六がねじ伏せられる。
床板が割れるほどの勢いで顔面を打ち付けたので、命冥加なタフガールもこれで撃沈かと思いきや、数秒後に打たれた部分をさすりながら幽香は立ち上がった。
「こ……こんなもんじゃわたしは倒れませんよ」
「さすがは我が同胞。脳漿をぶちまけてもおかしくない兜割りを受けて、出るのが涙だけとは大したものだ」
「甘くみないでください。わたしが頭が悪いのは頭蓋骨の厚みが普通の人の二倍半あって、そのぶん脳の容量が小さいからなんです」
「知ってるよ。私も同じだから」
「アシャラの血族の女は頭骨が厚くなり、天然の兜と化すにともない脳髄が縮小する傾向にある。代わりに私はニューロンの密度が極めて高く、脳容積の小ささを補うに十分な高速思考を可能にする。生体コンピューターと言ってもいい」
なんて
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