第53話 鬼女の胎動⑤
「追ってくれ諸君! 捕まえた者には褒美を出すぞ!」
「イエッサ!」
催眠術にでもかかっているのかこいつら。
如斎谷の指す方向へ全生徒たちも走り出した。
「あいたっ!」
期待を裏切らぬ鈍さで幽香が蹴つまずく。
「しっかりしろ!」
掴まれと手を差し伸べるが、幽香はなかなか起き上がれない。
「足くじいちゃったみたい」
「どこまで世話焼かすんだアホ! 輪姦されちまえボケカス!」
ひととおり罵ってから背負ってやる。
「重光ちゃんやさし~い」
「もうちょっと軽くなれよ」
「ぎゃんっ⁉」
目から火花でも散ったような声をあげた。
「どうした」
「石が当たったあ」
追手が投げたか。おんぶされていれば礫の霰をもろに受けるのが必然。
「痛い痛い痛い!」
「背負い賃に投石を防いでくれ」
「カリフラワーみたいな頭になるう~!」
それからどこをどう逃げたか記憶が曖昧である。
青銅の孔雀の信徒に下った同校生たちを振り切るべく、ひたすら町内を右へ左へ迷路のように走り回った。
前方に立誠の制服が見えたので歩道橋の下に身を隠す。
複数の足音が階段を駆け上り、幽香には息をひそめろと言い含めた。
「あっちか?」
「いたか⁉」
「おらんぞ!」
「どこ行きやがった妖怪兄妹!」
好き勝手言いやがる。狂女の下僕どもが。
俺を目の敵にするだけなら故あってのことと大目に見れるが、学外になだれ出てまで兎狩りに興じる連中には、ほとほと愛想が尽きた。
しかし、これで一応はまいたかなと安堵したのも束の間、
「へっくしっ!」
バカ妹が盛大なくしゃみをかましてくれた。
「聞こえたらどうすんだ!」
「だって、さっきからずっと裸に近い恰好だったんだもの」
馬鹿のくせに風邪とは生意気だが、羽織るものぐらい貸してやるかとブレザーを脱ぎかけたところを
「歩道橋の下にいたとはね」
髪を逆さに垂らした芦屋が意地悪く微笑んだ。
「みんな! ここにいたわよ!」
手すりを乗り越えて、階段を上がる途中の奴らが下りてきた。
退路を絶たれたので強行突破だ。
「道をあけろ!」
菩提銃の迫力に気おされて後ずさった連中の間を駆け抜けようとするが、またしても幽香が転んでしまった。
「今日は普段に輪をかけてトロくないか貴様⁉」
「足をかけられたのよ」
「死ね疫病神!」
隙ありと猪名川がバットを振るう。肘打ちで路面に叩き伏せるも、バットを受けたはずみで菩提銃を取り落としてしまった。
「やりやがったぞこいつ!」
十数人と対峙する形になった。芦屋も含めて女子も四人ばかりいる。当然の話だが襲いかかってくれば遠慮無用で殴り倒す。
それにしても、こいつら目つきが妙だ。瞳が消えて白く発光している。
典型的な〝操られている人〟の目ではないのか。
「おまえらあいつに術をかけられたのか?」
「失敬な」
芦屋の目に如斎谷の顔が映った。
「私が魔を退けるかたわら催眠効果も備えた外道法術・下請け
「ハイハイ、自分からネタばらしご苦労さん」
「ここはわたしが」
痛む足をさすって幽香が立ち上がる。
スカートがストンと落ちた。とっくにボロ切れ同然だったから構わないか。
「何個も石ぶつけられて頭にきちゃった」
「いい。一般人は俺が引き受ける」
素の姿に戻ってはいるが興奮した幽香では相手を殺しかねない。この人数なら俺だけでもやれる。
突然、地鳴りがした。遠くで獣が吠えている。
「うわっ!」
空間を裂いて現れたメカ獅子に猪名川たちが飛び退く。
そうメカ獅子。俺のヒトトビのような動物型ロボットが、幌に覆われたリヤカーを牽引して急停車した。
『根室くん、幽香ちゃん、乗って』
獅子から聞こえてきたのは懐かしい声。
「埜口……」
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