第42話 如斎谷昆の逆襲⑦
教室に悲鳴が響き渡った。
「組長の
乱入者たちの数は十といったところ。なるほど組員には不満分子もいるわけだ。
後に知ることになるが、如斎谷が暴力団を配下に収めたのは、教化や教導の結果ではなく、シンプルに力で組長の屋敷を乗っ取ったそうだ。
「ちょこざいな!」
古風な言い回しで如斎谷は鉄扇で銃弾を叩き落とす。
「所詮チンピラはチンピラか。みんな撃て!」
命令一下、女給たちも隠し持っていた銃器で応戦する。
「粛清だ! 仕留めた反逆者の数だけボーナスを出すぞ」
「ひるむな! 俺たちも撃ちまくれ!」
「ここであの女を殺さねえと俺たちに明日はねえぞ!」
教室を二分して壮絶な銃撃戦が始まった。利き手が使えぬメイド2号だけが、もたもたと狙いを定めあぐねている。
襟首を掴んで如斎谷が自分の側へ引き寄せた。
「何をしている! 戦えぬなら私の弾除けになれ!」
「ええっ⁉ こ、昆さま、そんな殺生な⁉」
慌てふためく2号にも無情の銃撃が襲いかかる。
純白のエプロンに三つの真っ赤な花が咲き、メイド2号ががくりと
死んだ! 明らかに死んだ!
「よくも私の部下を殺ったなあ!」
「おまえのせいだろうが!」
ロクデナシ同士で潰し合うのは大いに結構だが、学校でドンパチ始めるなんて正気かよ。
もはや教室は阿鼻叫喚の騒ぎであった。
机の下で念仏を唱える男子。抱き合って震える女子たち。
「おまえらここは学校だぞ! マンガじゃないんだ!」
喉を振り絞っての制止の叫びも銃撃戦の中では蚊トンボの羽音も同然。
「根室くん安心したまえ。君だけは我が身に代えても守ってみせる」
「おまえが外へ出ればいいんだよ! 他人を巻き込まない場所で殺し合え!」
せめて菩提銃があれば。俺は祓詞を唱えて自分の神電使を呼んだ。
(祓ひ給へ浄め給へ……我がもとへ馳せ参じよヒトトビ!)
神使の到着を待つ間も敵が次々倒され、メイド側も二人が倒れた。
とうとう反旗を翻した組員は残り一人になってしまった。
「さあて、貴様はどう料理してやろうか」
「畜生! 死なばもろともだ!」
リーダー格らしき男は手榴弾を握った手を高く掲げた。真空波が首を裂いて男を倒すが、床へ転がり落ちた爆弾は不吉な音をたてて時を刻む。
「あ、あと十秒で学校ごと吹っ飛ぶぜ……げぶっ⁉」
「止める方法を教えんか痴れ者があ!」
謀反の首謀者の口にトゥキックが叩き込まれた。
「言わぬか痴れ者! 教えたら命だけは助けてやる痴れ者!」
「教えられるわけねえだろ痴れ者!」
顎を砕いた上に完全に失神させてどうする。
「すごい音がしたけど何事ですか⁉」
実に間の悪いことに最も修羅場に似つかわしくない人が来てしまった。
如斎谷はこれ幸いとばかり爆弾を拾って投げ渡す。
「先生、これの処理を頼みますぞ」
時限式爆弾を託された不運な人は信南子先生だった。
「な、な、なんですかこれ⁉」
「爆弾をご覧になったことがないのですか。爆発まであと十秒」
「ひいいいいっ⁉ どうしようどうしよう!」
手榴弾を両手に乗せて、先生は右往左往するばかりだ。そこへ先生の頭を飛び越えてプラチナ色の兎が現れた。
「先生こっちへよこして!」
「根室くん! 君が犠牲になるつもりか?」
「うるせえ!」
投げ渡された手榴弾をノッポの口へ押し込んだ。さらにヒトトビが背面からの延髄蹴りを食らわす。
「――んがっ⁉」
「ヒトトビ、窓を開けろ!」
後は勢い任せで二階の窓から奴の体ごと外へ投棄した。
俺の神使に蹴られた上、何発か被弾して体力を削られていたので、割とたやすく事は運んだ。
「ふがあああああっ⁉」
狂女がグランドに激突すると同時に火柱があがった。
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