第41話 如斎谷昆の逆襲⑥
「恥の上塗りとはこのことだ」
3号が粗大ゴミ同然に運び出されると、如斎谷はため息をついた。
「転校初日からこの様では先が思いやられるよ」
「そりゃこっちの台詞だ――って台詞をマジで使う日が来るとは思わなかったわ!」
「根室くん許してやってくれ。恰好だけ整えた即席メイドゆえ」
「どうせ給仕を連れて来るんなら、ちゃんと礼法を習った本職にしろ」
「プロは
どうやらこの女給たちはタダ働き同然らしい。
「奇抜な行動を売りにしているくせに経費を惜しむな!」
「すっかり怒らせてしまったなあ……そうだ!」
悩める栗毛のデカ女は、眉間をつまんでいた指を離した直後、グッドアイディアが閃いたとばかりに身も凍る提案をしやがった。
「本日づけで君を私の暫定フィアンセに任命しよう。それで今日の無作法は水に流してくれたまえ」
流すどころか怒りが塞き止められる一方である。流れるとしたら涙だけだ。
「私のことは遠慮せずダーリンと呼んでいいんだぞ」
「おまえに何の権利があって、俺にそんな重刑を課すんだよ!」
こいつアホだ。幽香とはベクトルが異なるだけで真正の阿呆だ。
むしろ幽香が天使のような少女にさえ思えてくる。
「俺はみだりに泣くことを是とはしない主義だが、おまえのフィアンセだけは号泣しながら土下座してでも辞退させてもらうわ!」
「素直じゃないなあ君は」
「混じりっけのない純金のような素直さで拒否してるんだ!」
「これ以上どのような誠意の示し方があると……はっ! まさか私に成り代わって時期法主の椅子まで要求しているのか? 美男子に弱い私といえど譲歩できる限界というものがある。取り消したまえ」
「血の匂いがする椅子なんていらねえから質問を続けさせろ」
菩提銃を持ってくりゃよかった。この狂女に断罪の痛打を与える武器が欲しい。
「凶悪さんに他の退魔師を襲わせていたのはアシャラの復活に邪魔だからか?」
「もうそんな無粋な手段をとる必要もなくなった。君の妹さんの力を借りれば祖霊を封印から解放するに足るエネルギーが確保できそうだ」
「アシャラを蘇らせると、あんたにとってどんな利益がある?」
「私のめざす理想国家の崇敬神にうってつけだからね。もういいじゃないか。そう何でも性急に知りたがるものではないよ」
如斎谷は石でも噛み砕けそうな白い歯を見せた。
「仲直りの
六方焼きを一つ口の中へ投げ入れ、ぐしゃぐしゃ咀嚼する。
「程よくペースト状になったぞ」
「これ以上、俺から不気味がられてどうすんだよ!」
嫌すぎる。この女は嫌すぎる。
「ほら、あーん」
「やめーい!」
椅子を踏んでジャンプ、見上げた如斎谷の顔面めがけ蹴りを放った。
「怖跳拳・芒の原で休む月兎の夢!」
ただのミサイルキックではない。掌中には神電池を握りしめてある。
「おはあっ⁉」
長躯が床に叩きつけられる。スリーカウント以内に立ち上がってこられることを想定して追撃の姿勢を維持したが、奴は完全に白目をむいていた。
とうとうやった。初めてこの女にダメージを与えることができた。
星願寺で妖魂を殴ったときと同様、神電池を仕込んでおけば素手や手近な武器の攻撃にも大幅な補正がかかるようだ。
しかも俺の格闘スキルも、あの時点よりは上昇している。虎顔の妖魂は痛がらせるのがやっとであったが、今ならまともな勝負になるだろう。
「こ……ここまで過激な愛情表現をもらえるなんて光栄だなあ~、バルバル液が漏れてしまうじゃないか~」
訳のわからないことをほざきながらも手足は痙攣している。
よし、何とかやれる。神電池を身につけた状態で、かつ隙を突けば、徒手空拳でもこの大女に通用する攻撃が繰り出せる。
反撃成功の余韻に浸った数秒後のことである。教室のドアが開き、銃器を持った男たちが次々突入してきたのは。
全員迷彩服に身を包み、ヘルメットには蘇鉄の紋章がペイントされている。
これも如斎谷のパフォーマンス部隊かと思いきや意外な台詞を吐いた。
「如斎谷昆! お命頂戴!」
手にした拳銃や短機関銃を発砲、教室に弾丸をばらまいた。
壁や床が酷く抉れる――明らかに実弾!
「蘇鉄組の残党か!」
顔にくっきり靴跡の着いた如斎谷が跳ね起きる。
「組長の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます