第27話 神電池実戦・対夜歩く

 曲がり角からのぞいた足首は細かった。

 これでよく全身を支えられるものだと感心するほど細い。

 踵の高い革靴に、三日月柄のニーソックス。

 「お初お目にかかりますわ」

 ゴシック&ロリータな衣装の女が二人、全身を現わした。

 ロココとか、アリスとか、ビスクドールとかいった言葉が俺の頭の中で渦巻く。


 「チーム〝夜歩ナイトウォークく〟の築地ミレーですわ」

 「同じく六曜ソワレと申しますの」

 こぎれいな顔は双生児のように似ているが、小さなシルクハットを飾るコサージュの色で見分けがつく。赤い花がミレーで白い花がソワレだ。

 「わあ……幽香もあんな服欲しいです」

 「欲しけりゃ勝て。勝てば金がもらえる」

 足を踏んづけて気合を入れる。


 「勝負よろしくて?」

 挑戦的な四つの瞳は拒否権は与えないと主張している。

 「よろしくなくてもやるんだろ?」

 「ご承知なら野暮な混ぜっ返しはやめていただきたいものですわ」

 このお嬢語もしくは淑女弁みたいな言葉遣い、俺の育ちがよっぽど悪いのか、実際向き合って聞いてみると睫毛を引っこ抜きたくなる衝動にかられた。

 「一応、理由は聞いておこうか。あんたたちは青銅の孔雀の被害者リストには入っていなかったはずだ。俺たちとバトルしたいのは、やはり新参のくせに……」

 「生意気でしてよ?」

 つけ睫毛がくどい二人はタイミングをぴったり合わせて俺たちを指さした。


 「いいぜ、闘ろう。三光宮へ戻るか?」

 「お賽銭を入れるならこちらに」

 白コサージュのほうが募金みたいに手製の賽銭箱を出したので俺は舌打ちした。なるべく鎮守さまのお膝元で闘いたいこっちの思惑は筒抜けだ。

 「鳥居も必要だろう」

 「結界は自前で用意できますの――はっ!」

 ミレーというほうががパラソルを広げ、路面を蹴った。


 これは如何なる幻術か。俺たちは青い世界へ連れ去られた。

 空中で開いた傘は、内側に星座や月輪がフレスコ画のごとく描き込まれ、みるみる範囲を拡大、俺たちを包む天幕テントと化したのである。

 傘の柄にぶら下がるミレーの手にはラムネ色のランタン。まばゆくも冷たい光が満ちて、内部を真っ青に照らしているのだ。

 「わたくしども夜歩くが織り成す人工夜会へようこそ」

 「ここまでできる神音力を貯めるには苦労しましたのよ?」


 「ちょっと待て。道の真ん中に巨大なテントなんか張ったら目立ってしょうがないだろ」

 口に出してから馬鹿なことを言ってるなと後悔した。

 パラソルが作る結界が発生した時点で空間ごと別世界にワープしたに決まっている。通行人には何も見えていないし何も気づかないだろう。


 「幻想的だが病的な世界だな」

 「あら、この方面白いことをおっしゃる!」

 「わたくしたちは夜にしか生きられない夜行族ナイトウォーカーでしてよ」

 「万物に恵みをもたらす太陽には、いくら感謝を捧げても足りないほど。でも膨大な光量は、わたくしたちにはあまりにも眩し過ぎて……まるで赤子を圧死させる抱擁の如しですわ」

 「月のきれいな夜のお散歩のみで十分な光が得られますの」

 いかにも紫外線への抵抗力が低そうなモヤシ女どもは典雅に笑う。


 「ただの虚弱体質自慢じゃねえか。まあいい、敵を自陣へ誘うのも作戦だしな」

 「では、任せましてよソワレ。だって、わたくしは結界を作るのにお空にとどまっていなければなりませんもの」

 「承りましてよミレー、わたくしとポンチだけでも勝算はありますわ。ポンチ1号、これへ!」

 ソワレが手を叩くと幽香がキャーッと叫んだ。

 「ウサギさんです!」

 跳んできたのは白いボディに紅玉の両眼、大きな耳が一対。

 夜歩き女どもの神電使は兎型だった。


 「機械の悲しさで、もふもふ系というわけには参りませんけれど、可愛くできてるでございましょう?」

 「かわいーです! かわいーです!」

 キツツキみたいにアホは首を振る。手刀食らわしたいな。

 「ポンチ、もっとこの方々を歓待してあげなさいな」


 指を鳴らすと、メカ兎が次々現れて合計五体。

 最後に現れた一体がすッ転ぶ。この個体だけ片耳が折れ曲がっており、メカ兎団のドジ担当みたいに思われたが、すぐ起き上がって合流、ぴょこぴょこ動いてダンスを始めた。

 「わたしも入れてくださーい……ぐうっ⁉」

 仲間入りをしようと駆け寄っていった幽香は蹴りを食らった。


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