第7話 根室重光が如斎谷昆に会うこと

 「あーん、重光ちゃーん」

 戦いが終わると、結界が解けて神社は元へ戻る。

 泣きながら駆け寄ってきた幽香を、俺は優しく抱擁した。

 「おお、よしよし」

 いい子いい子となだめてやった上で、密着状態の当身を入れまくる。


 「おまえ本気出せば、めちゃくちゃ強いじゃねえか!」

 「だって……わたし怖がりだから……」

 「男が同様の腰抜けぶりを発揮したら生存権すら否定されるんだぞ」

 「それはわかってます……幽香のために重光ちゃんが一度死んでることも……」

 「死ぬ手前だっただけだけどな。何にせよ同じ失態を繰り返すようなら娼婦宿で稼がせる。肝に命じとけ」

 「がががんばります! がんばりますから娼婦宿は許して!」


 「許すよ。あとの三人を倒してくれたらな」

 「三人?」

 「四人いるって言ったろ」

 「言いましたけど、境内には三人の気配しか感知できなかったから変だなあって……」

 「自信を持て。そっちの勘はおまえのほうが働くんだ」

 夜風が頭上を通り過ぎ、大ケヤキが物々しくざわめく。

 俺はカマをかけてみるべく、照妖燈を借り受けると大樹を照らした。

 「出てこいよ。いるんだろ?」


 嫌な予感ほど的中する。神木の陰から三人の女が現れた。

 いずれも印象に残るタイプだった。中でもセンターに立つ女は、大柄な体全体からリーダーの資質を放ち、存在感においては群を抜いていた。

 左右には、いかにも側近といった雰囲気の少女たちが付き従う。


 半月ながら雲がないのと光が当たる場所まで歩いてきてくれたおかげで衣装まで観察できた。三人とも孔雀の紋が刺繍された白小袖に黒袴を着用している。

 チームで活動する退魔師たちは、連帯感から神音力の共鳴効果をもたらす同一モチーフを取り入れた衣類をまとうことが多い。この弓道着みたいな服が連中の礼装のようだ。

 「わたしたちもあんな揃いのユニフォームが欲しいですね」

 幽香がつぶやく。先立つものがあれば検討してやってもいい。


 「青銅の孔雀のリーダー、如斎谷昆じょさいやこんだ」

 銀縁の眼鏡の位置を直し、長躯の女は名乗った。

 彫りの深い顔立ちは、奸悪なエッジが効いてはいるが、よく整っている。西洋人かと思うほど色が白く、オールバックにして後ろで編み込んだ髪も栗色だった。


 「……重光ちゃん」

 幽香は本能で苦手なタイプとわかるのか俺の後ろに隠れた。

 「右の不愛想なのが橋本卯奈はしもとうな、左の小さいのが片岡杏かたおかあんずだ」

 紹介された左右に控える二名が、対照的な反応を示した。

 「フン!」

 「……うふん」


 橋本という稲妻状にうねったポーニーテールの女は殺意を滲ませた視線を、片岡という子供みたいな女は愛嬌たっぷりのウインクを、それぞれ俺に贈った。

 「今夜は君たちのお手並みを拝見しておきたくてね。組の若いので一番のケンカ好きをけしかけてみたんだが敵ではなかったようだ」

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