第15話 ルギナス(2)
「どうだ、初めてのケンカで負けた気分は?」
「良いわけないだろ。バカかお前は」
「そりゃそうだ。だが悪くもないだろ。一対一でケンカするのは」
「どうかな……ただ、なんだかすっきりしてる」
仰向けのまま答える。
ユーマ自身、なぜそう思うのか説明はできなかったが、
ここへ来るまでずっと頭で片時も離れなかった不安や戸惑いを少しの間忘れたれたことは確かだ。
「そりゃよかった。ところで聞きたいんだが、お前を殴り倒したオレはやっぱり魔王に殺される? てか、王都自体消される?」
自分でも心配になったのか。
急に落ち着かない態度でユーマに恐る恐る尋ねる。
それは教室にいる誰もが気にしている事であり、ユーマに視線が集まる。
「子供のケンカに親が出てくるかよ。カッコ悪い」
ユーマの言葉に生徒たちもちろん、教官も胸を撫で下ろす。
その返答に何よりルギナスが喜んで先ほどの調子にすぐ戻った。
「そりゃよかった。いやー、オレは昔から後先考えねーから、助かった」
「お前、絶対早死にするぞ」
「かもな。そうならねーようにオレの事を今後助けてくれ」
「はぁ?」
助けろと言われてユーマはルギナスをただ見る。
「ユーマ、知ってるか? 人間ってのはケンカした後で友達になれるんだ。オレとお前はもう友達だ」
「……」
ルギナスがユーマに背を向けケンカの様子をずっと見守っていた教室の仲間たちに胸を張る。
「皆見てたろ。ユーマは魔王の息子だが、もうオレたちの友達だ。これから教えてやろうぜ。人間は悪いやつばかりじゃねー。友達に魔族も人間も関係ねーってことをよ」
無鉄砲な行動をとったルギナスのおかげで張りつめた空気だったが、その空気を変えたのも彼だった。
生徒たちの表情も次第に明るくなり、苦笑いを浮かべる者もいたが、ほとんどの生徒はユーマとルギナスに微笑みを向ける。
生徒の反応を確認するとルギナスは再びユーマに向き直る。
「ユーマ、お前は今まで一人だったかもしれねーけど、これからはここにいる全員がお前の友達だ。一人で生きようなんて思うな」
ルギナスはユーマの前にしゃがみ込み、手を差し伸べる。
「今度は握手してくれるよな」
ユーマは上体を起こし、出された手にしっかりと答える。
手に取ったと同時に生徒たちから温かい言葉が飛び交う。
「ユーマ君、これからよろしく」
「こっちの事色々教えるからさ。魔族の事、色々教えてくれよ」
「勉強大変だけど、一緒に頑張ろうな」
「ここの食事おいしいぞ。きっと気に入るから」
「放課後、王都を案内するわ。勝手がわからないでしょ」
次々と出る優しい声掛けに、ユーマの目に涙が溜まり、抑えきれずに声を上げて泣き出す。
「おいおい、泣くやつがあるかよ」
ルギナスがユーマの背中をバシバシと叩く。
「だって……僕……僕……」
「わかった、わかった。ったく、しばらく世話がかかりそうだなこりゃ」
ユーマがこの状態ということもあり、授業はしばらく再開することができなかったが、
その姿に、ユーマも自分たち人間と同じであることを生徒たちは感じることができた。
「フフフ、良かったわね。ユーマ」
水晶に映る自分の息子がうれし涙で顔をぐしゃぐしゃにする様子を眺めながら、魔王は優しい母のまなざしで眺める。
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