第16話 ミリア

 学業でユーマは優秀な方であった。

 元々、本を読むことは苦ではなく、騎士として必要な教養を身に付けていった。

 しかし、上には上がいる者で、三か月に一度行われる筆記試験で一人の女生徒に全く敵わなかった。


「ユーマ、今回も私が一番ね」

「ああ……今回もミリアに負けた」


 ミリアはユーマに満点の答案用紙をチラつかせながら勝利を掴みとったことに上品ながら高飛車に笑う。

 彼女はユーマと勉学で一、二を争っていた。


 争っていたといっても、ユーマはこれまでの試験で彼女に一回も勝っていない。

 額が広く、目鼻立ちのきりっとした美しい顔で、

 肩よりも長い綺麗な黒髪を笑うたびに揺らす。


「残念だったわね。例え満点を取ったとしても私と同点じゃ勝ちはないわ。せいぜい引き分けね」


 天井を見上げるほど反り返り胸を張るミリアをユーマは悔しそうに見る。

 そんな二人に、ふらっとルギナスが近づいてきた。


「ミリア、胸を張るな。貧乳がバレるぞ」

「うるさい、黙れルギナス、人が気にしていることを!」


 ルギナスはミリアを無視してユーマの前に立ち手を合わせ拝む。


「そんな事よりユーマ、頼みがある」

「そんな事って何よ! 重要なことよ」


 ミリアがルギナスにキーキー喚くが耳には届いていない。


「なんだよ。頼みって?」

「追試に引っ掛かった。勉強を教えてくれ」

「なっ!」

「フフフッ、ざまーないわね。ルギナス」


 ミリアはルギナスの崖っぷちの状況に口元を緩める。


「追試って……同じ部屋だから勉強一緒に見てやっただろ。それで落ちたのかよ……どうしようもねーな」


 ユーマは苦虫をかみつぶしたような表情をするが、ルギナスは必死。


「頼む、三日後に再試が迫ってる。お前が頼りだ」

「うーん、たぶん教え方の問題だろうな。僕は教えるの苦手だから上手い人に頼めば何とか」


 ユーマは目線をミリアに向ける。

 それを追うようにルギナスもミリアをいつになく真っ直ぐ射るように見る。

 それに対してミリアは嫌な予感に後ずさる。


「何よ……」

「ミリア様、勉強を教えてください」

「嫌よ!」


 ルギナスは態度を一変させ、滑り込むようにミリアに土下座し懇願するが、

 先ほどの悪口の件もあり、それを拒否する。


「お願いします。お願いします。もう貧乳なんて馬鹿にしませんから」

「それは当たり前でしょ! 絶対教えるもんですか。さっさと留年しろバカナス」


 ミリアは鬼の形相で吐き捨てると、勢いよく二人に背を向け、

 頬を膨らませながら廊下を歩いていく。


「待ってくれ、ミリア様、ミリア様」


 ルギナスは後を追いながらゴマをすり、ミリアに頼み続ける。

 ユーマは二人が廊下の曲がり角で姿が見えなくなるまでその様子を見送った。


「ミリア、怒ってたな。でも毎度のことだ。ミリアは優しいからな。なんだかんだで結局ルギナスの面倒見てやるんだよな」


 ユーマの予想通り

 三日後のテストではミリアのおかげでルギナスは留年せずに済むことになる。

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