第10話 地獄の日々
次の日からユーマの生活は悲惨なものだった。
まず、人とかかわろうとすることをあきらめた。
自分が疎まれていることを恐れたからだ。
訓練にはかろうじて参加できるものの、
それ以外の時間はあの部屋に閉じこもる。
食堂に行けず、三日ほど何も食べなかった。
流石に飢えで死なれるのは困るのだろうか。
同期の生徒が当番でも決められているかのように、
毎日朝夕の二回、違う生徒がユーマにパンを一つ持って来ていた。
持って来ていたといっても手渡しではなく、
声もかけず、部屋の前に盆にも置かず、床に置いていくだけだった。
それでもユーマは空腹に耐えきれず涙を流しながらそれを食べた。
風呂も洗濯もままならない。
夜に近くの川で誰にも見られないように体を洗い、服の汚れを落とした。
そんな生活が二週間ほど続いて、新たな出来事が起こった。
「ぐあっ」
「何をやっとるバカ者」
ユーマはペアを組んだ相手の不注意で剣で手を切られてしまった。
ケガ人を出したことに教官は相手を叱り飛ばしユーマに駆け寄る。
ペアを組んだ相手は魔王の息子に怪我を負わせたことに恐怖し腰を抜かす。
「ユーマ・サント、傷を見せろ」
教官がユーマの傷の具合を確かめる。
血が流れているがそれほどたいした傷ではない。
縫うほどではないが処置は必要な程度にとどまっていた。
「こりゃいかん、すぐ医務室へ――!」
教官が目を丸くする。ユーマの傷口が少しずつではあるが塞がり始めたのだ。
その光景を見ていた何人かの生徒も口を開けながら呆然と見る。
ユーマ自身もこれには驚いた。
魔王城で生活していたころは魔王の過保護さもあり、傷などおったことが無かった。
ユーマはその場に居づらくなり、教官の手を振り払い一目散に寮へと走り出した。
「待て! どこへ行く、ユーマ・サント」
教官の制止を振り切りユーマは自室へ駆け込んだ。
扉を閉ざし、そこにもたれかかりながら自分の傷口に目をやる。
「そんな……」
ユーマの傷口はすでに瘢痕だけを残して塞がっていた。
ここへ来てユーマは自分が人間と大きく違うことを実感した。
この事は学生の間で瞬く間に広がり、
もう一つ新たなる事実がユーマをさらなる地獄へと追いやった。
ユーマを傷つけても魔王は何もしてこなかったということだ。
初めはダルタスだった。
ユーマの怪我がすぐ直るということを利用して、殴る蹴るの暴行を始めたのだ。
その様子を生徒たちは見ていただけなのだが、
一人、また一人とダルタスのようにユーマへ叩く、
物を投げるなどからかう様な行動がとられだし、
それがだんだんとエスカレートして食事用の小さなナイフで切りつけられたり、
浅く刺されたりするまでになった。
普通ならば大問題ではあるが、
教官の目の届く訓練を始めるころには傷は治ってしまっており、
発見されることはなく、事態を知る教官は誰一人としていなかった。
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