第4話 世界

 魔王との話し合いを終えた勇者たち三人は無事帰還することはできた。

 彼らの帰還をすべての国王が喜び、こぞって自分の国へ招待した。

 その時に勇者と賢者が主だって、それぞれの国王に魔王と取り決めた内容を話した。


 初めは当然のように、魔王を倒すことは叶わなかった彼らを罵倒し、批難したのだが、

 王都への危険がないという内容を聞いた途端、全ての国王が手のひらを反し、その功績を褒め称えた。


 人間すべての命が救われることよりも自分たちの生活に支障がないことが納得した主な要因であろう。

 国民のためとは言いつつも、結局は、自分の地位が保障されることが国王たちにとっては何より優先されることであったのだろう。


 その反応をされるたびに、賢者はどことなく悲しい気持ちを募らせていく。


 勇者の旅での成果にに最も反発したのは第三民として指定された弱い立場の者たちだ。


 実質、彼らに王都や街のような平和な暮らしをいつまでもすることはできない。

 以前でさえ、いつ襲われるか分からない日々の不安の中を生きていたというのに、

 明確に魔族の食事になることを宿命づけられたのだ。


 だが、そんな声は権力者には届かない。


 立場が上である者たちはその特権に胡坐をかき、自らのための必要な犠牲としか認識しなかったのだ。


 この制度が世界中で制定されるのにそれほど時間はかからなかった。

 同時に、勇者が魔王と夫婦の契りを交わしたことでより強固で確かなものとなった。


 また、魔王と勇者が夫婦となったことで思いもよらない影響が起こった。


 制度上は捕食者と獲物の共存関係であった魔族と人間であるが、魔族と人間の間にも対等な関係を築く面が少なからず見られるようになったのだ。


 オークなどの力の強い魔族は人間の耕作を手伝ったり、

 人を食うはずの魔族が魔物に襲われている人間を助けたなどの報告も上がってきている。


 中には、吸血鬼やサキュバスなどの人間の血などが必要な魔族に対して自ら提供したり、

 罪人を差し出したりする人間も現れ始め、

 良好な関係を気づくことができる地域も存在するようになったが、

 それはまだまだ少ない。


 そう言った地域では、勇者や魔王のように種の壁を越え、夫婦の契りを交わす例も稀ながらあるようだ。


 それから勇者と魔王が出会って七年の月日が流れた。

 全ては想定の範囲内で世界は回り始める中で、魔族と人間がこれからも対等であるという保証が確約される出来事が起きた。


 そう、魔王と勇者の間に子供ができたのだ。


「オギャーッ、オギャーッ」


 そこには、すっかり母親となり、我が子を愛おしい目で見つめる魔王と、

 その母子を側で見守る父親となった勇者の姿があった。


「フフフ、ユート、とうとう生まれた。私たちのかわいい息子が……いや、それだけではないか。この世界の象徴たる者か」

「ああ、でも今はそんなこと考えなくていい。そんな重い使命を背負うには、この子はまだ幼すぎる」

「そうだな。この子が自分の役割を果たすにはまだ時間がいる。しかし、我が子とはこれほど可愛い物とはな。お腹を痛めて産んだかいがあったぞ」


 魔王は赤ん坊に頬ずりをする。

 母親との距離が近いことに赤ん坊はより一層安心した様子ですやすやと眠る。


「全くだ。結局この子が産まれるまでお腹に五年もいたのだからな。マーデルは頑張ってくれたよ」

「なんてことはない。本来ならば十年だからな。むしろ、その半分で済んだのはラッキーだ」


 勇者の労いに、魔王は照れを隠しながら強気な態度をとる。


「そうか。でもこれからが大変だぞ。ある程度は人間の子供と成長速度が同じだからと言ってすぐ手がかからなくなくなるわけじゃないからな」

「分かっている。私は両親に育てられなかった。いつも召使が私の身の回りの世話をしていたからな。寂しい思いをしたものだ。だから、私はこの子にたっぷり愛情を注ぐつもりだ」


 勇者は魔王の母親らしい発言に驚く。


「マーデル、この七年一緒に過ごしてきてずっと思っていたんだが、キミは人間らしいな」


 勇者の言葉に魔王は少し不貞腐れる。


「ユートは相変わらず何もわかってないな」

「えっ、何がだよ?」

「母親に魔族も人間も関係ない。もっと言えば、魔族も人間も同じ生き物だということだ」

「……そうだな」


 勇者は自分の失礼な発言に後悔した。

 そして、目の前にいる魔王を、自分の妻であり、自分の子供の母親であることを改めて認識させられた。


「ところで、この子の名前だが、私が決めてもよいか?」

「あっ、そういえばまだ決めてなかったな。何にしたいんだ?」

「『ユーマ』でかまわないか? ユーマ・シルバー・アラサルト」

「えっ、何で!」


 勇者は少し納得できなかったようで由来を魔王に尋ねる。


「ユートの『ユー』とマーデルの『マ』で『ユーマ』だ」


 名前のできる経過を聞いて勇者は胸を撫で下ろす。


「何だ。そうか……オレはてっきり、勇者の『勇』と魔王の『魔』を合わせたのかと」

「フフフ、それでもよいな。どっちにしろ同じだ。この子は、勇者と魔王の子で私たち夫婦の子だからな]

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