第13話 交戦
家族の安全を考えてIFVの操縦と射撃管制を斉藤教官の部下がおこなった。斉藤さんと私と中村で90を動かしIFVを護衛した。防御力、攻撃力ともに90タンクより脆弱なIFVの操縦はプロの兵士に任せるのが妥当だった。急いで出発の準備にとりかかった。IFVはあっというまにエンジンを始動させ、砲塔を回転させながら、黒いディーゼル排気を残してその場を出発した。私の家族とその他の物資を積み込むためにIFVは先に行かせた。私は砲塔上部のハッチから砲手の座席にもぐりこみすぐにそばに置かれてあったタンク要員用のヘッドキャップをした。それは狭い車内で頭を保護するためのケブラー製の小型ヘルメットに耳の部分にヘッドフォンが内蔵されてあった。すぐに車内のコミュニケーション装置にコードを接続し、右側上部に着座している斉藤さんとの通話確認を完了した。続いて最前方にいる中村との通話を確認した。「たのむぞ、中村。あんたの操縦技術がどれほどかは僕は全然しらないけれど、やるしかないんだから。進む方向は戦車長の斉藤さんの指示に正確に従えばいいから。とにかく操縦を誤って谷底にまっさかさまとういことだけは勘弁してくれよな」少し間をおいて軽いエンジン音が体を通して車内に響き始めているのが感じられた。「やっとエンジンがかかった。ごめんごめん。なにか言ってたか。」私はほんとうにだいじょうぶだろうかと不安になった「とにかく、エンストをやらかしたり、田んぼに落ちたりしないようくれぐれも注意してくれよ。安全第一だ。スピードは二の次敵と遭遇したときは戦車長の斉藤さんの指示をしっかりと聞いてそのとおりに確実に操縦してくれ。わかったかい」「了解」今度はすぐに元気のいい返事が返ってきたが、なんとも先行きが不安だった。というものの、自分自身のことを棚にあげる訳にはいかなかった。「斉藤さん。砲撃管制の手順は斉藤さんから以前聞いてそのだいたいの段取りは知っているつもりですが、実際にやったことは一度もありません。」すぐに彼は答えた「だいじょうぶ。移動途中で一二度やってみればすぐにできる。君は飲み込みが早いからなにも心配はしていないよ」私はこのタンクの実際の攻撃力は自分自身が握っていることを再認識しながら、身が引き締まる思いがした。中村さんが発令した。「出発。前進用意前へ」ディーゼル発動機がうなりをあげた。16気筒のスーパーチャジャー付き1500馬力のエンジンが50トン近い鋼鉄の固まりをまるで乗用車のようななめらかさで引っ張った。すぐれた懸架装置のため後心地も乗用車並だった。すぐにスコープに目をつけた。画面が上下に激しく揺れていた。私はすぐに砲安定化システムのスイッチをいれた。油圧モーターのウィンウィンという音が定期的に聞こえはじめると同時に、画面がぴったと安定した。まるで列車の運転席から前方をみるかのようにまったく上下左右の揺れがなくなった。狭い山道をぐいぐいともときた道を引き返していた。両側から木々がおおいかぶさるように車体にあたりこすれた。通常視野で倍率0の光学モードのためほぼトラックの運転席から前方を見るような視野が広がっていた。両側のキャタピラーが路肩の外を走っているように感じた。とんでもなく狭い道をタンクは走っていた。「あんまりとばすなよ」私は思わず操縦席の中村に言った「戦車長は俺を信頼してくれているんだ。ねえ斉藤さん。戦闘になったら高速で機動しなければならなくなるんだから、今からそれになれておかないと。」私は右上の戦車長を見上げながら、「だいじょうぶですかね」と言うと。彼は左手でオケーサインを出しながら「彼に操縦を教えたのは私なんだ。知らなかったかもしれないが」私はなるほどと納得した。彼がコーチだっのなら中村の技量は十分把握しているわけだ。「じゃ我々二人は教官の愛弟子というわけですね。その二人がいよいよ実戦でその技量をテストされるわけだ。」「君たちといっしょなら必ず無事にここを脱出できる。IFVの兵士3人の技量は私が保証する。後は我々3人がIFVの盾になり、脱出路を切り開いたいくだけだ。僕の指示を忠実に実行してくれればそれは100パーセント可能だ。しかもそれは君たちには十分できる。自身を持って」彼は我々に自身を与えると同時に自らの強い決意を我々に伝えた。やがて幹線道路に出た。我々はさらに車速をあげた。とすぐに再び近くに砲弾が着弾し始めた。五月雨しきではあるためなんとかまだいける。家の前まできた。家の前では荷物を持った家族がIFVに乗り込むところだった。山陰になっているため幸いにも砲弾の直撃は防げそうだった。私は一端外にでて家族の荷物の積み込みを手伝った。「無事ここをでることができるかしら」彼女が息子を抱えて狭い車内に潜り込みながら言った。「だいじょうぶ。このIFVは最新型の車両だし、それを操縦している3人もすぐれた技量をもった人たちだ。それにタンクの乗車要員を訓練する立場にいた人がこの90タンクで指揮をとってくれる。地上で進撃する上でこの装甲車両と90タンクの組み合わせは最強のコンビなんだ。いっしょにのる中村くんも彼から教えてもらっている。僕も砲手を担当し、斉藤教官の指揮下ならこのタンクの攻撃力は十分に発揮さすことができる。なにも心配はいらない。」私はそれだけいうと妻と子供にキスして、車両に乗り込ませた。「砲撃が激しくなってきている。しかも正確だ。すぐに出発する。」戦車長が言った。確かにそうだった。今までは山肌や谷に着弾していた砲弾が幹線道路上に落ち始めた。しかもこの家に次第に迫っていた。「おそらくこの近くの山に着弾観測員がいて、我々を発見したに違いない。」私ははっと思いついた。我々はすでに非戦闘員ではないんだ。敵からみれば恐るべき兵器で武装した機甲部隊なんだ。やらなければやられる。敵はもはや容赦はしない。いっしゅんここにとどまり、敵に白旗をあげるとうい考えがよぎったがすぐに各地で繰り広げられていると伝えらる民間人への虐殺行為に思い至り、行くしかないこと決断した。ドカーン。自宅の裏の畑に砲弾が着弾した。ものすごい衝撃とともに土塊がやまのように降り注いできた。「前進用意前へ」90タンクを先頭にいIFVを従えて道路を東に向かって下り始めた。ドカンー、ドカーン、危機一髪だった。ものすごい衝撃が車体に響いた。砲弾の破片が車体にぶち当たる鋭い金属音が鳴り響いた。砲塔を旋回させ、後方を見た。つい先ほどまであった住み慣れた家が跡形もなく粉々に吹き飛んでいた。里を離れる感慨さえも感じる暇はなかった。すでに帰る場所はなくなった。現実はおそろしいまでに急速に展開し我々に現実を突きつけてきた。状況は急転直下で急坂を転げ落ち始めた。深くゆっくり考える余裕はなかった。次々と立ちふさがる現実に全神経を注ぎ込み対処しなければならない。「90よりIFV損傷はないか」斉藤教官が無線で問いかけた。「こちらIFV。至近弾を左側面にうけましたが、人的被害なし。かろうじて装甲版が耐えてくれました。ただ、右のりたいが一部損傷したもよう。車内に異音が聞こえます。今のところ走行には差し支えありませんが。」彼の部下はさすがに冷静だった。「速度はあまりあげられなくなったな」彼は私に向かって言った。タンクが先頭でその後にぴったりとついてIFVが時速40キロほどの速度で県道を主要国道に向かって下り始めた。砲撃は激しく続いていた。とても非装甲車両では走れる状態ではなかった。おそらく170ミリのガンハウザーだろう。西側で数多く使用されている兵器だが、朝鮮半島が席巻されてから西側の捕獲兵器が戦場で使用され始めたのだ。野砲の砲弾が直撃する可能性は極めて低いと思われるが、至近弾で被弾する可能性は十分にあった。これだけの激しい砲撃下では到底一般の軽装甲の軍用ジープでは突破は不可能だった。軍用ジープでは歩兵の持つ突撃銃程度の弾丸からしか防げない。砲弾があけた巨大な穴を注意深くよけながら2台のコンポイは砲弾の雨の中を移動した。次第に砲撃エリアから脱し始めた。着弾地点が後方へと去っていた。「停車」教官の号令とともにがくんというショックで車両が停車した。「松村、方位080を見てみろ。」戦車長がインカムで言った。私は光学スコープをのぞきながら、砲塔を旋回させた。谷川が見えた。その岸を縫うように今下っている道路が細く見えた。砲撃のためか白く煙りでおおわれよく見えなかった。倍率を拡大してみた。道の端の白いガードレールが識別できた。その道の上になにやら黒いものが並んでいる用に見えた。「道になにかいるように見えますが、ガスってそれ以上判別できませんが」彼は続けていった。「赤外線モードに切り替えてみろ」私はうなずきながら、熱線暗視モードに切り替えた。スコープの接眼鏡から目をはなし、目の前のディスプレーを見た。画面がちらついたかと思うと、白黒のコントラストのはっきりした映像が浮かび上がってきた。光学スコープでは白く写っていたガードレールが黒いはしご状に描写されていた。そしてその道路上にうっすらとみえていたものが、赤外線画像でははっきりと白い輝くようなシルエットで確認できた。「地上軍が進撃してきた。防衛ラインが破られたんだ。」斉藤教官が冷静な声でいった「今確認できるだけで、タンクが3両とAPCが2両だ。おそらく先遣隊だろう。少なくともその後方10キロ以内には主力がいるに違いない。我々が敷いていた防衛ラインの内側だ。ラインは破られたとみて間違いないだろう。敵は先遣隊でタンクを中心とした重装備の部隊を編成している。主力も同じ構成とみていいだろう。到底軽歩兵を中心とした我々の守備隊で太刀打ちできる規模ではなかったんだ。」「おそらく山岳部に一時退却したはずだ。かなりの損害はでたはずだが、徹底抗戦をしない限り、この地形だから撤退のうえ体勢をたてなおすことは可能だろう。」
「どちらにしても当初計画は変更だ。主要国道までは問題なくでれる途踏んでいたが、困難になった。一時脇道にそれるぞ」教官はそういうと中村に命令し、前方に見えた峡谷をわたる小さな橋に向かわせた。近づいてみると50トンのタンクがとおるように設計されているとは到底思えなかったが、わたるしかなかった。コンクリート製の橋ではあったが橋脚はかなり華奢にできておりしかも古かった。耐えてくれるよう祈った。冷や汗ものだった。無事わたりきるとすぐさま敵との距離を測った。距離はおよそ4キロ、残された時間は十分とはいえなかった。スコープ上で確認できた進撃速度は歩兵が後方で徒歩進撃していることから、極めてゆくりだった。「接敵までは30分といったところか」教官がこちらを向いて言った。「どうしますか。斉藤さん」私は彼にすべての判断をゆだねた。「正面突破は無理だろう。みたところ一世代前の旧式タンクだが、搭乗しているのは先遣隊の任務につくぐらいだから、極めて練度の高い兵士に違いない。」彼はしばらくの間虚空をながめながらなにか考えていたようだったが、やがてなにかを決心したようでこちらを見てしっかりとした口調で言った「少なくとも先遣隊は叩かなければならない。脱出経路を県道に変更するにしてもその分岐点に到達するには敵の進撃ラインを突破しなければならない。この先で停車し砲撃位置につく。側面からねらい打ちを行う。君の腕が試されるときだ」彼は上部ハッチを開けタンクからおり、双眼鏡を抱えて小走りで小道を先のほうに駆けていった。しばらくしてもどってくると、「この先50メートルの地点に絶好の射撃ポイントがある。射界が開けており、しかも緊急避難することができる古い隧道がある。IFVはそこで待機させておけば安全だ。時間がない。」彼はそういって、タンクの前方に立って中村を誘導しながら、ぎりぎり通れる狭い小道を射撃ポイントまで90を進めた。私は、大きく動揺したが、すぐに気持ちを切り替え、頭の中で射撃管制手順を反芻し始めた。自分ながら結構冷静でいられることに少し驚きを感じながらも、まだこのときは戦車砲でねらわれる立場になることがどれほどの恐怖を感じるか理解していなかった。「よーしストップ。」教官はタンクの被弾面積と装甲防御を増すため車体をゆっくり右に90度旋回させた。「IFVはそこの隧道に入れるんだ。」彼はすべての準備を整えると再び上部ハッチより車内に乗り込んできた。「いいか、私がいいというまで撃って撃って撃ちまくるんだ。そして号令とともに一端隧道に待避する。問題はその後だよく聞け。おまえたちは家族の乗るIFVに移乗する。変わっておれの部下がこのタンクを操縦する。いいな。」私は一瞬話の意味が理解できなかった。「どういうことですか。確かにIFVに乗っている兵士の方のほうが戦争のプロではあるでしょうが、90の砲撃システムには精通していないとおっしゃていたじゃないですか。私は移動しながらの戦闘射撃の訓練は受けていませんが、このように停止した状態で低速の移動車両を射撃することには慣れています。ちょうど今までテストレンジでしていたこととほぼいっしょです。絶対私が最後まで射撃を担当したほうが有利です。」私は一気にまくし立てた。彼は目をつぶって聞いていたが、私が言い終わるのを待ってからゆっくりと諭すように言った「実戦はあまくはない。いくら旧式といっても相手はタンク3両とAPC2両だ。こちらが有効な射撃を行える時間は長く見積もって5分だろう。やつらは応戦しながら、後退し下車戦闘のため歩兵を散開させてくるだろう。そうなるとやっかいだ。下車戦闘させる前にこちらから先手を打って前進する。君は十分活躍した。後は我々戦闘のプロの任せてくれ。」彼は私の目を見ながら続けて言った。「我々が進撃を開始した時点で、君たちはIFVでこの小道を通って敵の裏側に出るんだ。後は県道の分岐点まで突っ走れ、90より一回り小型のIFVなら県道の細い峠道を通って太平洋側に抜ける国道に出られる。そこまででれば安心だ。質問はなしだ。すぐに射撃準備に入れ。5分間が勝負だ。」彼はそういうと車長専用のスコープに額を押し当て、それ以上の会話を拒否した。私は事態が把握できないまま呆然とした。戦車長の号令が飛んだ。今までに聞いたことのないような気合いの入った声だった。「方位120。距離約1200。目標先頭のT80。射撃用意。」私は我に帰った。なぜか体が反応した。スコープ内に戦車長のマークした方位が下の右端に三角印で表示された。それが中央のレティクルにくるまで砲身を急速旋回させた。ウィーンという電動油圧モータの音が流れた。車内に張りつめた空気が流れた。目標をとらえた。目標をロック。砲身が自動追尾を始めた。光学スコープの倍率をあげた。視野いっぱいにタンクが映し出された。おおよその距離が光学ファインダー内に表示され、それに従ったレティクルが画面中央やや上に表示されていた。スティックをわずかに手間にひき、その中央にターゲットを合わせた。「レーザー測距します」「よーし。測距途と同時に発砲。」私はレーザー照射ボタンを押した。ピーという電子音とともにレティクルのすぐよこに距離が表示され、同時に自動的に照準が修正された。「てぃー」戦車長の号令とともにトリガーを引いた。いつもは感じるはずの激しい発射の衝撃はなぜか意識に上らなかった。額をスコープの接眼レンズの上のクッションにしっかりと押しつけたまま、ターゲットを凝視した。一秒若だろうか。非常に長く感じられた。先頭のT80の右上の崖が、まるでダイナマイトを点火させて岩を吹き飛ばしたかのように崩れた。大きな土煙が上がった。使用している弾丸の種類がサボーという筒に挟まれて発射されるタングステンの矢弾なので、それ自体爆発力はないため、はでな火柱は上がらなかった。「照準修正、続けて打て」戦車長の声が響いた。いわれるまでもなく、即座に今着弾した箇所に照準用レティクルを手動で移動させ、再び砲身を移動させレティクル内の十字線にT80の砲塔部分をとらえた。自動装填装置が次弾を装填している機械音が聞こえた。砲尾部分が閉鎖される、発射可能ランプがグリーンに点灯する間がとても長く感じられた。スコープ内の左上にグリーランプが点灯した。レーザー測距を待つ前にトリガーを引いた。スコープの上縁のぱっとに押しつけている額に汗がにじんだ。T80をまばたきもせずに凝視した。やや速度を上げ始めたように感じた。「まずい」速度変更を予測して、見越し照準すべきだったか。しかし次の瞬間、視野内の先頭のT80がはじけるような白い煙に覆われた。同時に真っ赤な火柱が十数メートル上に吹き上がった。「命中確認、続けて最後尾のAPC、方位131、距離同じ、」敵の車列ががくんと停止した。先頭のたんくが角座したため、続く2台のT80とAPCは停車せざる終えなかった。砲口を最後部のAPCに移動させた。視野が左から右に流れた。そのとき3台目のT80の砲口が目に入った。いままで前方を向いていたはずの砲身がこちらに向いていた。次の瞬間、真っ赤な炎と白煙が砲身から吹き出した。車長が叫んだ「急速後退、対衝撃体勢」エンジンがうなり声を上げた。体が前にがくんと折れた。ドーンバリばりばり。金属の巨大な鉄球でコンクリート製のビルを壊すときのような衝撃が走った。10メートル後退し、岩の遮蔽物を通り過ぎ、再び敵をスコープ内にとらえた。さっきの砲弾がどこに着弾したかはわからなかったが、かなり近くだったことは確かだ。岩の砕け散った破片がばらばらと車体に降り注ぐ音が響いた。歩兵の運用する小型対戦車ミサイルと違って、戦車砲は華々しく火炎と煙を砲口からまき散らす。現代の高速鉄鋼弾を発射するための宿命である。そのため初弾発射の瞬間にこちらの所在はしれてしまう。光学式の照準装置しか搭載していない旧式とはいえ、昼間の至近距離からの精鋭部隊の兵士による射撃だ。次はやられるかもしれない。心の中で腹をくくった。敵は煙幕を張ると予想していたがそうはしなかった。おそらく自らの視野もつぶすことになり、光学照準装置しかもたないT80では射撃照準ができないためであろう。作戦では、敵が発煙弾を発射して煙のベールをおろした時点で熱線暗視照準に切り替え、一台づつしとめていくつもりだった。スコープ内でAPCをとらえた。急速に後退していた。車体が停止すると同時に照準した。90の高性能自動射撃管制システムがターゲットをロックオンし敵の移動速度を自動計算し見越し照準をつけて追尾した。射撃緒元がでそろい、グリーンランプが点灯した。トリガーをすかさず引きしぼった。今度は最初からレーザ測距システムをオンにしていたため、すべてがオートマティクに進んだ。砲手はただ発射ボタンを引き絞るだけだった。すでに敵に位置を知られた以上レーザー監視システムを気にする必要はなかった。おそらく敵のタンクの車内ではびーびーとぶきみなレーザー照射警報音が鳴り響いているに違いない。こちらの車内でも当然鳴り響いているはずだが、攻撃にうつる時点で恐怖感をあおられないために私の判断でスイッチを切っていた。APCは後部エンジンの排気ノズルから真っ黒い排気を吹き出しながら急速後退していた。もう少しでカーブにさしかかり岩陰へと隠れようとしていたその瞬間、車体全体が真っ赤な炎に包まれた。成形炸薬弾をコンピューターが自動選択したため、ぎしっりと弾頭部に炸薬を充填された120ミリ砲弾が飛翔し、うすっぺらいアルミ合金製の車体をいとも簡単にそのジェット噴流で焼き切り、内部を火炎で満たした。炎上するAPCの後部ドアがあき数人の兵士が火だるまになって転げ落ちた。もがきながら数メートルほど這っていったが、やがた絶命したのか動かなくなった。前後に撃破されたAPCとタンクに挟まれ車列はその場で立ち往生した。作戦どおりだった。おそらく今度こそT80はスモークを出すだろう。複数の発煙弾が発射され頭上20メートルの高さで破裂し、真白い煙のカーテンがおりる光景をイメージした。そうすれば熱線暗視装置に切り替え、一方的なねらい打ちをするだけだった。ところが敵はまたもや意外な行動にでた。残された2台のタンクのうち前方の1台はなんと前方の炎上しているタンクに体当たりをして強行突破をはかり始めたのだ。さらにもう一台は車体を90度回転させ、装甲の厚い正面をこちらに向け攻撃態勢を維持した。残されたAPCからばらばらと兵士が降車し、道路手前の茂みに散開した。まさにいっぽも引かない体制だった。「散開している歩兵を先にたたけ、対戦車ロケット弾で応戦してくる前に」私はモニター右下に鉄鋼弾と表示されているのに気づいた。装填されているのは対戦車用の砲弾だった。これだはたとえ歩兵に向けて発射してもほとんど効果を発揮しなかった。急いで破砕弾に最装填するため操作をした。一度砲身が水平になり、再装填され始めた。「機銃で掃射しろ」戦車長の指示が飛んだ。私はあわててそれに気づき、ガンを選択した。レティクルの表示がシンプルな十字線に変わった。今まさに茂みにおりくだろうとしている兵士にむけて、トリガーを引いた。爆竹が道路上でいくつもはじけるように、小さな閃光と白煙がばちばちと上がった。ねらっているのは生身の人間なのに、なぜかその実感がわかなかった。かけおりようとした最後尾の兵士に火線が重なった。瞬間まるでスイカが破裂するかのようにばらばらに砕け散った。私の脳髄に上から下へと電撃が走った。胃袋が裏返り、全身がふるえた。すでにこの戦争が始まってから自らの身を守るために、幾人もの人間を殺してきた。しかし目の前で人間がグロテスクに重機関銃の弾丸を全身にあびてばらばらに砕け散るのをまざまざと見るのは初めてだった。次の瞬間ものすごい衝撃が走った。まるでタンクを大きな巨大なハンマーで殴りつけたみたいだった。釣り鐘の中に体をつっこんで、外からつき棒で連打されたかのようだった。我に帰ったときは、車内に焦げ臭いにおいと煙が充満していた。私は咳き込みながら、状況を確認した。どこもけがはしていなかった。火災もおきていないようだし、車内も見る範囲では正常だった。「だいじょうぶか、」右上に着座していた教官が、こちらにおりてきた。「被弾したんですか」私は尋ねた。「そうらしい。しかし一番装甲の厚い砲塔正面だったので貫通しなくてすんだようだ。90の複合装甲版でなかったら、我々は黒こげになっていただろう。」彼は続けていった。「もう、潮時だ。前方のタンクは障害になっていた角座していた味方のタンクをけおとして、前進してきた。歩兵も展開し、接近してきている。」そこまでいってから、インカムで前方の操縦席の相棒に隧道に後退するよう指示した。がくんというショックとともに車両が動き始めた。彼は片手で発煙弾の発射スイッチをおした。続いて手慣れた手つきでコンピュターの端末をたたき、その結果をちらっとみた。「君たちはやれるだけやった。後は予定どおりプロの我々に任してくれ。特に君は家族を守って、安全なところまで脱出させる使命がある。」私は彼の目を見据えていった。「私は期待どおりに働けたでしょうか」彼入った「十分すぎるほどだ。まもるべきものをしっかりともっている人間は強い。君にはそれがある。」私は涙でかすむ目をしかりとあけ彼を見た。ドーン、ドーンという戦車砲弾とは少しかるい着弾音がし始めた。以前聞いたことなる音だた。「RPGの攻撃がはじまった。煙幕がはれたらタンクもねらい打ちしてくるだろう。もう一台も橋を渡って詰め寄ってくる。なによりも既にやつらは援軍を要請しているはずだ。時間がない。」彼は戦車長の席に戻った。同時にタンクが停車し、上部ハッチがあいた「後は俺たちにまかせてくれ」そういって手をさしだし、降車をうながした。私はためらった。斉藤さんが言った「行くんだ。私は職業軍人としてその勤めを果たさなければならない。今がそのときだ。君は君の守るべきもののために戦うんだ。さあいけ」私は手をとりハッチを出た。車外に出て驚いた。タンクはぼろぼろだった。至近弾でいたるところがへこみえぐれていた。きづかなかったが重機関銃の弾痕が蜂の巣のうようについていた。特にひどいのは砲塔上部だった。砲弾が命中したらしく、頭から後ろまで深くえぐれていた。そこに装備されていた熱線暗視装置や光学監視装置はあとかたもなくもぎ取られていた。不安そうにタンクをみつめていた私を見て斉藤さんが言った「だいじょうぶ。90はまだまだ戦える。直接照準装置はやられていないし、120ミリ砲も射撃可能だ。それにこの機銃もある」彼は戦車長席にある外部設置の12.7ミリ機銃を叩いた。「時間がない。我々はいく。可能な限り時間をかせぐ。その間にできるだけここを離れろ。国道は使うな、うちあわせどおりこの先の県道を使うんだ。健闘を祈る」ばたんという音ともに上部ハッチが閉じられ、車体が後退し始めた。隧道の外に出る途同時に砲塔を旋回させ始めた。同時に車体もしんち旋回をおこない、向きを変えた。あっというまに90タンクの後ろ姿はまだ残る白い煙のカーテンの外に消えていった。そこに残された私は呆然としてその後を見つめていた。だれかが肩をたたいた。振り向くと妻が息子をだいてたっていた。「これからはあなたが戦車長よ。私たち家族の安全はあなたの手腕にかかっているの。さあいきましょ。斉藤さんや兵隊さんたちの意志を無にしてはいけないわ。」私はうなずいた。これほど力強い妻の言動を聞くのは初めてだった。確かに今が正念ばだった。中村も言った「奥さんのいうとおりだ。俺も一人ではなにもできないけど、君の指示に従えば少しは役にたてそうな気がする。少なくともこのIFVは十分に動かせるよ。さあいこう」私は唇をかんで決心した。住み慣れた地をまた再び離れなければならない。安全な地をもとめて2度もの逃避行が始まる。前回も運にもめぐまれてなんとか乗り切れた。今度も絶対似乗り切れるはずだ。いや乗り切らなければならない。「出発するぞ。」
90よりも半分以下の広さしかない砲塔エリアだが、通常ここには砲手が搭乗するので、一人分の広さは十分あった。搭載されている機器は90とほぼ同じだったが、幾分簡素化されたものだった。しかし一般的なAPCとは比較にならないくらい高性能な装備が施されていた。旧式のタンクとなら十分互角に戦える装備である。ただ主砲は30ミリの機関砲のため、タンクを完全に撃破するには力不足だった。キャタピラを破損させたり、照準装置を破壊して戦闘能力を奪うことは可能だった。「中村、操縦のほうはどうだ」彼は即座に答えた。「ほぼ、90と一緒だが、大型バイクと原付くらいの差はあるな。システムがシンプルな分、操作はらくそうだ。それになにより90より二回り以上車体が小さいので、狭い小道は操縦がしやすい。」「了解、とりあえずこの小道を下って、次の橋で川を再び渡って国道に出るんだ。敵のちょうど500メートルほど裏にでるはずだ。増援部隊がこないうちに急ごう」エンジンがごーという音とともに高鳴ったかとおもうと、軽く体が後ろに引かれ、IFVは山肌の小道を下り始めた。90よりはかなりのりごごちは悪かったが砲安定化装置はついており、走りながらでも射撃は可能だった。後ろを振り向くと、下の小型のアクセスドアがあいていた。そこから後部の兵員室の状況がかいま見えた。みんな不安そうにひとかたまりになって中央の座っている。周りには荷物がおしこめられてぎゅうぎゅうの状態だったが、むしろそれが緩衝材の役割をはたしており、ゆれる車内でみなそれにつかまっていた。「橋がみえたぞ」中村が報告してきた。私はスコープで確認した。木々の小枝がじゃまになり、上部スコープからははっきりとみえなかったが、赤い欄干がちらちらと確認できた。「わたれそうか。」私は不安を押し隠して彼に尋ねた。「だいじょうぶだと思う。少なくとも車幅はOKだ。後は重量にたえられるかだが、鉄骨製のようなのでおそらく問題ないだろう。」私はとりあえず手前で停車するよに指示した。ここをわたるときがひとつのポイントだった。さっきわたてきた橋がおそらくみわたすことができるだろう。ということは先遣隊の残存部隊の目にさらされる危険あるということだ。時間的にもそろそろ斉藤さんの90とが交戦を始めるころだった。それに合わせよう。そのときちょうど90からの無線連絡がはいった。「もう橋にさしかかったか。我々はこれから交戦にはいる。敵のタンクが橋の手前で停車し、退路をふさぎ、砲塔を西に旋回させ下流の橋に照準をつけている。おそらく援軍がくるのをまっているのだろう。散開した歩兵もこちらにわたり、左右にわかれて展開をはじめたのが確認できた。タンクの砲撃と後方に散開した歩兵に気をつけろ。以上」私はあわててマイクをとり、よびかけたが返事はなかった。通信をきったようだった。警告にしたがってすぐに砲塔を旋回させ、後方を確認した。小道のはしになにか人影が見えたような気がした。光学レンズの倍率をあげた。RPGだった。反射的にトリガーを引いた。発火炎が立ち上るのと同時だった。遅かった。白い尾を引きながら飛翔する弾頭がスローモーションのように見えた。視野いっぱいにそれは広がった。目をつむり照準装置にしがみついた。「ドーン」という鈍い音がした。ばらばらと小石が降り注ぎ、外部装甲をたたく金属音響いた。それた。助かった。発射直前の30ミリ機関砲の連射で射手の照準がずれたのだ。「バーン」遠くから90独特の主砲の発射音が聞こえた。斉藤さんが攻撃を開始したのだった。「急速前進。よーい前へ」私は号令とともに車体が動き始めるのにあわせて、さらに後方に向かって一連射したあと90度砲塔を回転させ、上流の橋からの右側面への砲撃に備えた。橋のたもとにさしかかると同時に視界が開けた。ごつごつした谷川の渓谷が見えた。およそ1000メートル上流に橋が確認できた。スコープの接眼レンズにしがみつき、倍率を最高倍率に上げた。照準システムを橋にロックした。安定した視野のなかですぐに敵のタンクを照準にとらえた。しかしまたもや遅かった。赤い発砲炎がぱっとあがった。被弾するかとみがまえた。幸いにも砲弾は対岸で爆発し、山際の杉の木立が周囲にとびっちった。90が応戦した。対岸の茂みから発射炎があがるのが見えた。同時にT80の脇の雑木林が頭上高く吹き上げられた。T80は即座に90の方向に砲身を旋回させた。国道のうえに陣取っていたもう一台のT80の砲身も火を噴いた。90が位置していると思われるあたりに次々に着弾し火柱が上がった。橋の側のT80もその砲列に加わった。90も負けてはいなかった。国道の上で110ミリ流弾を連射しているT80の前のガードレールが吹き飛んだ。90の放った120ミリの高性能炸薬弾は次第にその着弾位置を正確にしていった。次の瞬間崖上のT80の砲塔部分が火炎に包まれた。積載されていた戦車砲弾に誘爆し、巨大な火柱があがった。空高く吹き飛ばされた砲身がくるくると回りながら、谷底に落ちていく。空高く舞い上がった金属片が河床の岩にあたりかーんかーんと音をたてて転がっていく。友軍のタンクの被弾をものともせずやつらは反撃の手を緩めなかった。間髪をおかず茂みの中に隠れていた下車歩兵から90に向けてロケット砲が打ち込まれた。RPGの弾丸が引く白い尾が幾筋も対岸に向かって流れる。川を挟んで、90のいる側の山肌は白煙と土煙で何も見えなくなった。90の戦車砲が沈黙した。あのRPGの連射が一発も被弾しないはずはない。「もう十分だ、もし生きているならすぐに下車して後退してくれ。」私はこころのなかで念じた。次の瞬間しんじられない光景を目にした。90タンクが橋のたもとから姿をあらわしたのだ。砲塔正面が見にくく焼けて、炎がちらちらと上がっている。完全に大破していた。うごいているのがしんじられないほどの損傷だった。のろのろと橋の中央部まで出てきた。主砲のねもとから12.7ミリ機銃が撃ち出されていたが、橋の上のT80の主砲は火を噴かなかった。この至近距離で戦車砲は使用できない。被弾によって120ミリ砲が損傷している90にとっては幸いだった。まさに玉砕戦法だ。90タンクの正面装甲部分に火柱上がった。国道上からのT80の砲撃が再びはじまった。がくんとスピードが衰えたが、止まりはしなかった。正面のT80の砲塔部分から発砲炎が見えた、敵も同軸機銃を使用していた。私は主砲をうってきたT80に向かって30ミリ機関砲を応射した。90への攻撃をなんとかそらせようとしたのだ。よろよろと橋の上を進んでいた90はついに向こう岸にたどりつき、T80に激突した。90はそのままずるずるとタンク押しつづけ、ついに欄干を破って2台はそのままもんどりうって谷底へと落下していった。「斉藤さん」私は心の中で絶叫した。涙が頬を伝って流れた。最初から玉砕を決意していた。我々を救うために彼らは犠牲になったのだ。それを無にしてはいけない。泣くことは後でいくらでもできる。私は鬼になり砲塔を旋回させた。すぐにスコープ上から橋は過ぎ去り、国道が見えた。「絶対に生き延びる。斉藤さんたちのためにも。家族のためにも」私は心のなかで何度も念じた。道路上にAPCの残骸がまだくすぶっているのが目に飛び込んできた。周辺を警戒したが、兵士らしきものは確認できない。「ばりばり」。外部の装甲版に弾丸が跳ね返るすごい音が響いた。「後ろはだいじょうぶか」私はインカムで叫んだ。「すごい音がしたけど、だれもけがはしていないわ」私は即座に砲塔を旋回させ、後方をみた。数人の兵士が国道の縁から這いだし、立ち上がりながら小銃を発砲していた。30ミリ機関砲がうなりをあげた。一瞬にしてその兵士たちの周囲は砲弾の着弾炎と煙におおおわれ見えなくなった。かろうじてIFVのアルミ合金製の防弾装甲は敵歩兵の機関銃弾の貫通を防いでくれた。「速力をあげるんだ」私は中村に行った「了解。これだけの道幅があれば100キロだってだせるぜ」私はあわてて付け加えた。「谷底におちたらなんにもならないからな」彼は心配するなとでもいわんばかりに、「OK」と大きな声で短く答えた。実際には最新型のIFVといえども50キロぐらいが限度だった。県道への曲がり道が見えた。彼は速度をゆるめることなく急カーブを切った。遠心力で車体が右におおきくかしいだ。後部で悲鳴が聞こえた。サスペンションがキーと金切り声をあげる。私は上部ハッチのとってをつかみからだを支えながら、砲塔を後方に旋回させた。曲がり終えたと同時に後方が観測スコープ内に入った。今曲がり終えたばかりの三叉路が次第に遠ざかっていく。ほっと胸をなで下ろした。とりあえず敵本隊との接触はこれでさけれそうだった。この先の道は大型のタンクが列をなして走行できるほど整備された道ではない。また10キロ以上南に下ってから国道とつながっているため、前方から敵が進撃してきて鉢合わせとなることはなかった。後は追撃だけ心配すればよかった。スコープ上で次第にさきほどの分岐点が遠ざかっていった。みえなくなる寸前、なにかちらっと黒い影のようなものが写ったような気がした。目をこらして確認しようとしたときにはすでにつづら折れのカーブには入り、見えなくなっていた。私は気になりながらも、この先のルートを確認をするためそれ以上考えるのをやめた。私は砲塔内のボックスを開け地図を探し始めた。後部キャビネットに軍用の地図が運良く見つかった。記憶どおり、この道は約15キロ走ったところで、高知へぬける国道に接続している。ちょうど一山超えたところで、川沿いを走る国道につながるようになっていた。途中見晴らしのひらけた高原を抜けることになるが、さして問題はないだろうと考えた。ゆれがひどいためうしろの妻たちもかなり疲労しはじめているようだった。中村に少し速度を落とすよう指示した。かなり横揺れは収まったが、それでもキャタピラーの懸架装置は装輪式とは比較にならないくらい、堅かった。砲塔部分から狭い連絡ドアをくぐって、後部兵員室にいった。「もうだいじょうぶなの」妻が尋ねた。「追撃もいないようだし、この先は敵の侵攻エリア外だがら後30分も走れば、安全な国道に合流できるはずだ」妻はほっとしたような表情でほほえんだ。義父が尋ねた「この先は確か広い高原を抜けるはずだが、空から敵にねらわれる心配はないのかね」まとを得た質問だった。「私はもそこは気になりますが、わずか2キロくらいの区間です。策敵している航空機が偶然に見つける確率は極めて低いと思います。もちろん我々を待ち伏せして空中で待機しているなら別ですが」義父はそれ以上は何も言わなかったが、やはりなにか心配しているようだった。私もさっき見た黒いかげがやはりきにかかった。息子のほほにキスをしながら疲労はしているものの特に体調をくずしているものもいないことを確認して、すぐに砲塔部分にもどった。光学スコープをのぞいて、再度後方を監視したがキャタピラーが巻き上げた土煙で視界が遮られよく見えなかった。インカムで後部乗員室の義父に連絡をとった「おとうさん、もうしわけないんですが後ろの監視窓から後方を時々チェックしてもらえませんか」義父はすかさず「わかった。私も彼らがあきらめたとは思えないんだ」私は砲塔を前方にもどし、そろそろ到達するこのルートでの最大の危険ポイントに備えることにした。先ほどの交戦では使用する余裕のなかった、このIFVの最大の武器である有線誘導式の対戦車ミサイルを発射準備状態に起動した。整備テスト施設でなんどか発射直前まで操作したことがあった。左右に1発づつ合計2発搭載している対戦車ミサイルは後ろからワイヤーを繰り出しながら飛翔する。射手は照準器でターゲットをねらい続けているだけで、ミサイルはワイヤーから送られてきた信号に従って経路を修正しながら、最終的に目標に命中するシステムになっている。対戦車ミサイルをスタンバイ状態にすることができた。ペリスコープの接眼レンズに再び額を押しつけた。次第に前方の山が左右に開けてきた。いままで覆い被さるように生い茂っていた木々がまばらになり、木々の背丈も低くなった。左右に石灰岩の岩が点在しはじめ、ここが小さなカルスト高原であることを示していた。前方の中村に言った「そろそろ高原にさしかかる。ここだけは全速力で走り抜けてくれ。」了解短く返事が帰ってきた。彼も十分危険性を承知しているようで、緊張している様子が声の調子でわかった。次第に道の傾斜が緩やかになり、やがて平坦になった。中村が言った「高原にでるぞ」私はスコープに額を押し当て、全神経を前方に集中した。右手は30ミリ機関砲のトリガーに、左手は対戦車ミサイルの発射装置の上に置いていた。そのときだった。「後ろからなにかくるぞ」インカムの中でするどい義父の声がした。私は一瞬迷った。林をぬけ高原にでるすぐ脇に大きな石灰岩の岩がちらっと視野にはいった。私はインカムをつかんでどなった「中村、あの前方の岩の影には入れ」車体はきしみながら左にするどく旋回した。体がものすごい力で壁に押しつけられる。金属と金属がこすれあう甲高い音が鳴り響いた。後ろからも悲鳴が聞こえてきた。砲塔を旋回させて後方を確認しようと監視用のスコープをのぞいたとたん仰天した。巨大なヘリがまさに目の前でホバリングしていた。昆虫の複眼のようなおおきな上下2段式のキャノピーが不気味な曲線を描いていた。防弾ガラス製のそのキャノピーに太陽光が反射し、まるでこちらを凝視しているようだった。次の瞬間目もくらうむような火炎に視界が覆われたかと思うと、ものすごい音とともに車体がばりばりという轟音に包まれた。車内は煙と配線がショートする火花に包まれた。私はインカムで叫んだ「後退しろ、後退するんだ」ギヤが悲鳴をあげる音がした。車内には煙が充満し、ものの焼けこげるにおいが鼻をついた。続いて車両は急停車し、私は前にのめった。大声で後ろに向かって叫んだ。けがはないか。義父の声がすぐに帰ってきた「こちらはだいじょうぶだ。」私はしっかりつかまるようにみんなに伝えると、砲塔を180度旋回させ後方に向けた。「そのまま直進」無理矢理シンクロされたミッションはがりがりという異音をたてながらもキャタピラを前進から後退へと逆回転させた。エンジンがうなりをあげた。後輪に直結したドライブシャフトが動輪を逆回転させはじめた。軽いとはいえ、30トン近くあるIFVの車体を前進から後退に反転させるため、りたいは地面をとらえられずスリップしながら空回りした。私は無意識に30ミリ機関砲の引き金を引いていた。車体をたたく弾丸の音と機関砲のうなり声とが重なり、すさまじいい轟音に包まれた。気がつくと弾丸がきれトリガーが薬室をからうちする音が響いていた。金縛りのように硬直した右手を機関砲のトリガーからひとつひとつ引きはがした。インカムからは怒鳴り声が聞こえていた。「おいだいじょうぶか、返事をしろ」操縦室の中村からだった。「ハインドヘリだ。旧ソ連製の大型対地攻撃ヘリだ。アフガニスタンで山岳部でのゲリラ戦でイスラム戦士からおそれられていたヘリだ。」私は本の中ではそのヘリの恐ろしさを知っていた。中村が続けて言った「けがはないか。おれの判断で、林の中にもどった。上空からは見えないはずだ。」私は彼のすばやい判断と行動に感謝しながら、いそいで車内の状況を確認した。幸いなことに後部乗員室にけが人はなかった。弾丸は砲塔部分にのみ命中していた。しかも運のいいことにヘリが地上すれすれの位置からねらってきたため、弾丸が装甲版上ではねてほとんどが貫通せずに、後ろにそれていた。もしまともに命中していたら、すでに私と家族の命はなかっただろう。しかしながら物的損害は甚大だった。衝撃で電子装置の大部分が損傷を受けていた。あちこちで電線がぶすぶすと煙りをあげながらスパークを飛ばしていた。やむなくマスタースイッチを切って、電源を遮断した。上空ではぶきみなヘリのローター音とともに、ときおり機関砲で地上を掃射するばりばりという射撃音が聞こえている。「しばらくここに隠れて、燃料か弾薬ぎれでやつらが引き上げるのを待つしかない」私は彼らが熱線暗視装置を装備していない幸運に感謝した。「エンジンはかけたままにしておいてくれ。」私はそういって、上部ハッチをあけ、ゆっくりと周囲を確認しながら外にでた。ときおり木々の木の葉のすきまから、青空をバックに巨大なヘリの影がかいま見えた。まるで怪鳥が横切るかのようだった。パタパタというヘリ特有のローター音を響かせながら不気味に飛行していた。私はゆっくりと周囲を確認した。ちょうど袋小路になっており、動けるのは今入ってきた高原からの小道と右側の今まで上ってきた道側の2カ所だけだった。状況としては逃げ場のない状態であり、決して油断できる状況ではないことがわかった。ハッチを閉めて中にはいろうとしたそのときだった、耳のすぐそばを高速で何かが通り過ぎるシュという音がしたかとおもうと、ドーンという腹に響く砲声が谷間に響きわたった。それがなんの音なのかすぐにわかった。心臓が凍り付いた。後ろの林の木々が上空高く吹き上げられた。無意識で、車上の12.7ミリ機銃を音の下方向にむけて連射した。薬莢がバラバラと音を立てながら、車体の上をはねながら下に落ちていった。同心円状の照準器の向こうにさきほどまで交戦していたT80が不気味に砲塔をこちらにむけているのがはっきりと見えた。きにかかっていた影の正体はこれだったのだ。直前に義父がペリスコープでみたものの正体もこれで判明した。生き残りの1台なのか、隠れていた1台なのかわからなかったが、どちらにしても、絶対絶命の状況だった。地上からはタンク、上空からは武装ヘリの挟み撃ちだった。ハッチを閉め、中にはいると同時に中村に言った。「すぐにスタートさせろ。高原にもどれ。」「しかし、ハインドヘリの餌食にされるぞ。なにがあったんだ。」彼はまだT80に気づいていないようだった。私は怒鳴った。「T80がすぐそこまで追撃にきている。すでに我々を照準内にとらえている。搭載している30ミリ砲はすでに使用不能だ。機銃で対決するならヘリしかない。」中村はIFVを後退させながら言った「進路を指示してくれ」私は答えた「とにかく突っ走るんだ。私が叫んだら近くの岩のかげにもぐりこむんだ。いけ」「ドーン。」すぐそばで戦車砲弾が着弾した。この距離で命中しないのが不思議だった。おそらく弾丸の飛翔経路にある木々によって弾道がまげられているのだろう。速力だけはT80よりもこちらのほうが勝っていた。後はハインドヘリを振り切れるかだ。対地攻撃専用の重装備ヘリだ。私にはある考えがあった。急いで、後部アクセスドアをくぐりぬけ兵員室に言った。「だいじょうぶ。心配しないで。かなりゆれるのでしっかりとつかまるように」私はそれだけ言うと、床のパネルを一枚めくった。思った通りだった。そこにはオリーブ色の2メートルくらいの長さの金属のケースが納められていた。ゆれる車内で私はそれを床の上まで引きずりあげた。箱の表面には黒色のステンシルでスティンガーとかかれていた。IFVには歩兵の携帯する対戦車兵器や対空兵器が標準仕様で積載されていることを整備の課程で知っていた。「高原に出たぞ。ヘリからは丸見えだ。このまま道路を突っ走る。上空をよく見てくれ」中村がインカムで叫んだ。義父が言った。「わしがこの小窓からみているから、近づいてきたら大声で叫ぶ」私はうなずきながら答えた「おとうさん、だいじょうぶ。僕らに任せておいて。」私はそういいながら、自分でもおどろくくらいのなれた手つきで、車内の側面に立てかけてあった小銃を手にとり、上部ハッチを開けた。すぐ目に前にそれはいた。私は大声で叫んだ、「左前方の岩陰には入れ」ヘリの巨大なローターがぶんぶんという独特の音をたてて空気を切り裂いた。両脇のスタブウイングに目をやった。一番おそれていた、誘導式の対戦車ミサイルの影はみえなかった。対処すべきは正面に装備されている固定式の30ミリ機関砲だけだった。車体が大きく右にかしいだ。こちらに気づいたハインドはその巨体からは想像もつかないくらいに身軽にその機体をくるりと旋回させて、こちらにその機首を向けた。遠心力で胸をハッチの縁に押しつけられながら、小銃に弾倉を装着し、レバーを引いて一発目を薬室に送り込んだ。あたっても重装甲のハインドヘリはびくともしないことはわかっていた。運良くキャノピーに命中させれば、貫通はしなくてもひびわれで視界を不良にさせることはできるだろう。照準したヘリの機首の30ミリガトリング砲が火を噴いた。ものすごい弾幕が正面から近づいてくる。私も夢中で引き金を引いた。耳元でうなる小銃の発砲音が恐怖をかき消してくれた。危機一髪だった。こちらにむかってくる弾幕とかさなる寸前に、車体はおおきな石灰岩の岩陰にはいった。一瞬砕け散る真っ白な石灰岩の破片で視界が遮られた。顔を伏せながらも、腹をこすらんばかりの超低空で後ろに抜けていくハインドヘリの機体底部が見えた。中村にどなった。「出すんだ。突っ走れ。」相手は航空機ではなかった。上空でホバリング可能なヘリだ。すぐにくると反転して攻撃が再開できる。エンジンがうなり、キャタピラが地面をかきむしった。後ろをふりかえるとすでにヘリは向きを変えつつあった。おもったとおりやつはホバリングにはいっていた。距離をつめるよりも静止した状態で照準し発砲するつもりのようだった。ヘリの搭載する機関砲の射程はゆうに1000メートルはある。私は前方に目をこらした。あった。やはり記憶は正しかった。そこには今はほとんど廃屋とかしている、山小屋がだった。廃屋ではあったが、しっかりとしたコンクリートづくりであり、遮蔽物としては最適だった。「中村みえたか」私はインカムでどなった「OK」彼は答えた。私は、ハッチから再び兵員室にもぐりこんだ。「いいかよく聞いてくれ。」私はみんなにみむかって手短似説明した。「この先に廃屋になった山小屋がある。そこでみんなをおろす。できればやつらにきづかれないようにおろしたい。降りたら、すぐに中にはいって、物陰に隠れるんだ」妻が言った「あなたは」私は答えずに「息子はたのむぞ」とだけ言って、すぐに義父のほうに振り返った「後はよろしくたのみます」義父は「うん」とだけいってうなずいた
車体が急停止した。「おりるんだ」私は緊急解放レバーをひいて、後部扉を開いた。義父を先頭に計6名が降車し、廃屋の中へと消えていった。後部ドアを閉めながら、「出せ」と短く中村に言った。その間わずか数秒だった。気づかれないといいが、私は心の中で思った。再び車両は全速力で走り始めた。ハッチから顔をだすと、ヘリはホバリングしながらその頭をこちらにむけて旋回させていた。どうやら気づかれていないようだった。「我々も車両をすてるぞ、外にでて戦う。」中村が答えた「了解、100メートル先の岩陰で停車する」降りたら後部ドアにまわってくれ。おろしたいものがある。「了解、まかして・・・」その後は轟音でかき消されてしまった。その後の記憶はなかった。気がついたときには、車内は火に包まれていた。耳が聞こえたない。自分の声が頭の中でがんがんと反響する。ぼやけた視界の中で天地がぐるぐると回った。インカムのコードは引きちぎれ、その先はスパークを飛ばしながらくすぶり燃えていた。見上げると天井のパネルにピンポン球ほどの穴がいくつも開いている。30ミリ機関砲弾に被弾したのだ。弾丸は貫通市、床へと抜けていた。足のうえに金属パネルが倒れていて動けなかった。足の感覚がまるでない。私の頭の中で時間が停止した。天井の弾丸貫通穴をとおして青空が見えた。とても美しかった。真っ白な雲が左から右へとながれているのが並んだ穴を通して見えた。これまでかと観念しかけたとき、後ろの観音式の乗降扉が開いた。「だいじょうぶか、すぐにだしてやる」そこには中村のたのもしい姿があった。彼は私の両脇から手を差し入れ、外に引きづり出してくれた。彼自身もケガをしているのか、右腕から赤黒い血を流していた。「中村、おまえ腕から血が流れているぞ、だいじょうぶか」彼は自分の腕を見ながら「あ、ほんとだ。全然気がつかなかった、ははははは」その豪快な笑いに安堵しながら、私は続けて言った「ヘリはどこだ」「山小屋の方に向かっている」私は一瞬青くなった。やつらはあの山小屋に我々が伏兵をおろしたと見たに違いない。私は叫んだ「中村、車内にもどって床に転がっているオリーブ色のコンテナーをとってきてくれ。できるか」中村はぶすぶすと白い煙を出しながらくすぶっているIFVを見ると、「了解」と言うが早いか、車両に向かってかけだしていった。弾薬に引火しないでくれと祈りながら彼の後ろ姿を目でおった。扉の中に彼の姿が消えた。そのとき砲塔部分から爆竹がはじけ飛ぶようにばりばりという音とともに真っ白い煙がもくもくとわき上がり始めた。たちまちのうちにその煙に覆われて車両全体が見えなくなってしまった。積載している機関砲弾に引火したのだ。私は大声で叫んだ「中村、おい中村、早くもどってこい。早く逃げるんだ、コンテナはいい。はやくにげろ」私は声の限りに叫んだ。なんの返事もなかった。引火した30ミリ砲弾のちょうだんにやられたのか。私は渾身の力を振り絞って、立ち上がりよろよろと白煙をあげるIFVにむかって歩き始めようとした。そのとき、白煙の中から人影が浮かび上がった。そして次第にその姿は形をはっきりさせ、やがて中村の顔がうかびあがった「あぶないところだった。もう少しで蜂の巣になるところだった。中にはいる直前に機関砲弾がはじけて、その弾頭がこっちへ向かって飛んできたんだ。かろうじて後部ドアの手前にいたから、扉が遮蔽物になって助かったが、一歩タイミングがはやければずたずたに切り裂かれていたところだった。」彼は生死の境をくぐりぬけたにしては、脳天気な顔で担いでいたコンテナをゆっくりと地面におろした「ありがとう」私は礼をいい、すばやくコンテナのふたをあけ、中のものを取り出した。ドカーン。そのとき轟音とともにIFVがはじけ飛んだ。ディーゼル油に引火したのだった。コーヒカップがまうように砲塔部分が上空にまいあがり、20メートル先の地面に転がった。「まさに危機一髪だったな」私はいった。彼はそれをみて本当に青くなったようだった。私はちらっと山小屋のほうを見た。ヘリは山小屋を射程距離内にとらえ、照準姿勢にはいっていた。私は彼に向かって叫んだ。「肩をかしてくれ」彼は片膝だちになって、私に背を向けた。私はとりだした地対空ロケット弾ノスティンガーのチューブの前方を彼の左方に乗せた。車内で簡単に組み立てておいたので、発射には時間はかからなかった。私は整備基地で教えてもらった発射手順を思い出し復唱ながら操作した。「パワーユニット接続」「キャップクリアー」「IFFアンテナ自立」「ターゲットスコープオープン」そこまで手順を実施したあと私は躊躇した。次がなかなか思い出せなかったのだ。「フロンボンベ接続」中村が横から言った。そうだ、赤外線シーカを冷却するための小型のガスカートリッジを接続しなければならなかったのだ。ケースからちょうどキャンプ用のランタンのガス缶のような冷却ボンベを取り出しながら中村に感謝した。「よく知っていたな」「偶然そこだけやらせてもらっていたんで覚えていたんだ。」私はなるほどと納得しつつ、赤外線シーカが起動するのをまった。ほんの数秒なのに、何十分にも感じた。もどかしかった。ターゲットスコープ内のハインドヘリがホバリングを完了し、次第に機首を前傾させはじめた。時間がない。スコープ内に緑のレディーランプが点灯した。赤外線シーカーが起動したのだ。後はシーカーがハインドをとらえてくれるのを祈るしかなかった。射角は申し分なかった。ちょうど背中に2基搭載されてあるガスタービンエンジンの排気口がともにこちらを向いていた。正面からでもロックオンできる第三世代の高性能シーカを搭載している。そのためヘリの後方から、その高温の排気ガスを吹き出すエンジン部分を認識することはたやすかった。レディーランプの点灯とほぼ同時にロックオンの電子音が鳴った。「ターゲットロックオン」「IFF識別」「応答なし」「発射」私は一連の手順をまるでいままでなんどもくりかえしたことがあるかのように、無意識に行った。ぽーんという音ともに発射チューブからミサイル本体が前方に飛び出した。一瞬の間をおいてミサイル後部のロケットモーターが点火した。白煙を引きながら加速し、ハインドめがけて飛翔した。ハインドの機関砲が火を吹き始めたそのとき、スティンガーミサイルはちょうど右側のガスタービンエンジンと上部の巨大ローターのひんじ部分との境目に着弾した。ぱっと白い白煙があがった。意外なほど小さかった。落ちてくれ。心の中で祈った。歩兵の携行する地対空ミサイルであるため、弾頭の炸薬量に限りがある。相手は20ミリ機関砲弾を数発うけても30分は飛行可能に設計されている重装甲の巨大へりだ。一瞬不安がよぎった。なにもなかったかのように、ローターは回り続けていた。しかし、右エンジン部分は破壊された装甲版がめくりあがり、タービンブレードがむき出しになった。作動油かジェット燃料に引火したのか、ぱっと炎が上がった。同時に高速回転する銀色のタービン部分からいくつもの金属片が四方に飛び散り始めた、そしてその一部がメインロータにあたり、5枚あるローターブレードの一枚を吹き飛ばした。回転バランスをくずしたローターはがたがたと不規則にゆれはじめ、その振動はローターヒンジの設計限界を超えた。被弾により損傷をうけていたメインヒンジはばらばらとくだけちり、同時に機体はきりもみ状態となって地上に落下していった。丘の向こうに隠れたのち、一呼吸おいて真っ赤な火柱があがり、黒煙がふきあがった。「やった」中村がつぶやいた。私も半ば放心状態で「そうだな」とうなずいた。それがが精一杯だった。しかしすべてが決着したわけではなかった。すぐにまだもうひとりの追撃者がいることを思い出した。「T80は」私は叫んだ。答えはすぐにもどってきた。ヒュルヒュルヒュルという砲弾が空気を切り裂くするどい音が聞こえた。「ふせろ」私はどなった。いままでに体験したことのないほどの轟音と振動だった。熱風と金属片が嵐のように襲いかかった。「うわー」うめきともさけびとも聞こえる中村の声が絶叫した。焼けるような痛みが全身に走った。ヘルメットの縁からすぐそばにあったIFVがあとかたもなく吹き飛んでいるのが見えた。全身の力を振り絞り反対側の道を見た。ぼやけた視野の中でこちらに向かってくるタンクの影がゆらゆらと網膜に写った。そばに転がっていた小銃を引っ張り上げ、よろよろと構えた。ほとんど無意識の動作だった。バーンバーン、バーン三点バーストで何度か引き金を引いた。当たっているのかどうかもわからなかった。たとえ命中していたとしても、かすり傷もつかないだろう。しかし無我夢中で撃ちまくった。最後のカートリッジがうち尽くされた。万事休すだ。打つ手はなかった。意識が遠のき、気を失いかけた。そのとき信じられないことが起こった。100メートルほどまで近づいていたT80が突然目の前で突然爆発した。空中高く舞い上がった120ミリ砲身はまるで電信柱のようにくるくると空中に舞い、我々すぐそばに落下した。砲塔上部の乗降ハッチが爆風で吹き飛び、そこから火炎が上がった。キャタピラーは両輪ともはずれ、軸からはずれた動輪がころころと左右の草原に燃えながら転がっていった。私はしばらくあっけにとられ、ぼうぜんとその光景を見つめていた。すると右の草むらごそごそとゆれ、二人の兵士が道にはい上がってきた。懐かしい人影だった。紛れもなく陸自の戦闘服だった。ヘルメットに擬そうの草を絡ませたその兵士は対戦車ロケット砲弾を肩に担ぎ、こちらに向かって手を振った。私は痛む体に鞭をうち、小銃を杖にして立ち上がり、手を振って答えた。そばの中村が薄目をあけ弱々しい声で尋ねた「ここはあの世かい」私は彼らのいるほうを指さし、「救援がきた。助かったぞ」彼はそれを聞くと安心したようにうなずき、再び目を閉じた。私は彼の体をチェックし、多数の傷はあるものの致命傷になりそうな怪我はしていないことを確認し、再び立ち上がった。「だいじょうぶか、君たち」迷彩服をきた二人の屈強な兵士がかけよってきた。彼らは我々を遠くから確認したらしい。装備や体格からして通常部隊の一般兵ではなさそうだった。「あぶないところでした。ありがとうございます。私たちはここから20キロ北の第12整備大隊から避難してきたものです。あそこに見える山小屋の中にも6名ほど私の家族が隠れています」私はその後簡単にいままでのいきさつを説明した。「たいしたものです。よく一民間人のあなたたちがそこまでやれたものです」彼らは感心しながら、緊急に治療を要する負傷者はいないか聞いていた。私は同僚の一人が設備の整った場所で早急適切治療を要する怪我をしていることを伝えた。彼らはすばやく彼の体をチェックすると、と兵士の一人が背嚢から小型のトランシーバーのようなものを取り出し、なにやら専門用語を使用ししつつ、どこかに連絡をとりはじめた。「もう心配いりません。ここから安全な後方基地まであなたがたをお送りいたします。そこでならこの負傷者の治療も十分におこなえます」そうこうしていると200メートルほど西の石灰岩の岩陰から小型のサンドバギーが2台土煙をあげながらこちらに向かって走りよってきた。指揮命令系統の確立された複数の専門部隊が機能的に展開しいていることを私は確信した。「我々は第7偵察中隊第2小隊のレンジャー部隊です。ここから10キロほど下ったところに臨時ヘリポートが作られています。そこまでお送りします。その後は輸送中隊のヘリが高知の第7師団本部まで輸送してくれるはずです。」兵士はときおろ笑顔をみせつつ自信をもってわたし達に伝えた。わたしはやっと心底安堵した。そこから先はあっけないくらいほどスムーズに展開した。わたしを含めた数人はフレームだけでくみ上げられた戦闘的な偵察用バギー車に乗車して、高原を30分ほどくだった。少し開けた谷川沿いにでると、小さな山村が見えてきた。「あそこの公民館のグランドがヘリポートになっています。」バギー車の運転をしている兵士が言った。小さな橋をわたり、路地を通った。人影はなかった。日陰の谷間に廃校になった校舎がぽつんと見えた。ほんとうにこんな人っ子ひとりいない場所に支援部隊がくるのだろう「ご心配なく。だれもいなのはすでにここの住人たちも避難させてあるからです。」私の感じている疑問に気づいたのか、彼はこちらを振り返りながら言った。速度をおとしハンドルを大きく左にきってグランドに入った。車両をフェンス脇にとめると、車載無線でまた再びどこかと連絡を取り始めた。5分としないうちに聞き慣れたパタパタというローター音が聞こえ始めた。山々に残響して方向がよくわからなかった。彼は小さなグランドの中央にHとかかれたランディングゾーンの脇に向かって歩いていった。胸の兵装ホルダーから発煙筒をぬきとり着火した。「あそこを見てください」兵士が指さす方向をみると、最初は山肌にとけ込んでわからなかったがローター音がちかずくにつれて、その機体のシルエットが浮かんできた。「低空で接近してきますので、危険ですから車からまだおりないようにしてください」私は制空権が完全に確保されているのかとふと不安がよぎった。見る間におおきくなったヘリは、ホバリングをすることなく一発でグランドにすべりこむようにランディングした。それは空自の展示式典でもみたことのあるUH-60だった。陸自仕様のため、オリーブ色に塗装されている。双発のエンジンによって力強く駆動されている大型ローターを回し続けながら、ヘリの側面のスライドドアがあいた。航空機搭乗員用の軽量ヘルメットにサンバイザーをつけた兵士の姿が現れた。「急いで乗ってください。ここはまだ最前線のフロントラインです。長居は無用です。」彼は車にかけよってきてそういった。私は彼に手伝ってもらいながら中村を最初にヘリに運び入れた。中にはすでに担架が固定されており、そこに彼をよこたえさせた。搭乗員兵士はなれた手つきで担架にベルトで彼を固定した。つづいてい私の妻と子供、二人の両親が乗り込んだ。「それじゃ幸運をいのります」ここまでつれてきてくれたレンジャーの兵士が言った「ありがとうございます。あなた方の健闘を祈ります。お世話になりました」「離陸します」黒いサンバイザーの兵士がすばやく機体の乗降ドアを閉めて叫んだ。ヘリのローター音が一段と高くなったとおもうと、ふわっとした浮遊感を感じた時にはすでにグランドは後方に流れ去っていた。山々や木々が後方に飛ぶように流れていった。機体が右左に交互に傾きを繰り返した。「前戦をぬけるまでは、現の高度のまま飛行します」私は妻や義父そして父母に気分はだいじょうぶかと尋ねた。父母は高齢のためかなり体力を消耗しているようだった。搭乗員兵士はバイザーをあげて、そばの医療器材ボックスから点滴ラインと点滴バッグをとりだし、セッティングをし始めた。左右にゆれる機体の中で手際よく中村の左うでから輸液ラインを確保した。窓の外では左右の山肌が機体にふれんばかりにせまりながら後方に流れていった。まるでテーマパークの大型アトラクションの遊具にでも乗っているようだった。「ピーピーピー」前方の操縦室からするどい電子音が鳴り響きだした。「ご心配なく単なる地対空ミサイルの索敵レーダ警報音です。低空で回避します」室外マイクからパイロットの声が流れた。言い終わるか終わらないうちに体がどーんと床に押しつけられた。強烈なGだった。まさにジェットコースターでコースの最下点から登りはじめるときに感じるそれと同じだった。妻がさすがに悲鳴をあげた。私は子供を抱きかかえながら、シートにしがみついている妻を必死で支えた。軍用へりのおそるべき機動力だった。突然いままで感じていた、圧力がうそのように消えた。次に訪れたのは、贓物が腹の中で浮かびはじめたのではないかと思うような、気持ちの悪い浮遊感だった。髪の毛が逆立ち、体はその重量を失いささえどころなくシート上を滑った。対空レーダーを回避するのにこれほど激しい機動飛行が必要なのかといぶかった。再び、妻が悲鳴をあげた。長男も火がついたように泣き始めた。ちらっとかいま見えた外に、ひと筋の白い煙の尾が下から上へと流れていた。単なるレーダー警報ではなく、発射されたミサイルに対する警報だったのか。わたし達を心配させないためとはいえなんとか回避できたことを神に感謝した。「上空のF-15に対地攻撃を依頼しました。すぐにかたづけてくれるはずです。」搭乗室の兵士が言った。窓に近づいて、上空を見た。ゆうぐれのあかね色の空がみえるだけで航空機の姿はなかった。「上じゃありません。前方を見てください」私は顔をすりつけるように風防ガラスに頭を押しつけながら、前方を見た。キラと光る金属状のものがみえたかとおもうと、きーんという轟音とともにすぐ目の前を後方に過ぎ去っていった。左前方に閃光があがった。ドカーン、ドカーン大きな爆発音が2度聞こえた。みるまにもうもうと黒煙が立ち上り始めた。一旦後退していたヘリが大きく旋回して、コースをもとの進路にもどした。上空にたちのぼる煙のただなかを通り過ぎた。油の燃えるすすくさいにおいが機内に流れ込んだ。後方に爆弾の爆発による黒煙が流れ去り、視界から消えようとした。危険な相手は始末できたと私は一安心したときだった。かんかんかんというまるで金槌で機体を外からたたかれたような音が機内にこだました。同時にぎゃーという悲鳴がコックッピトから聞こえた。あの落ち着き払った同じパイロットの口からでた声かとうたがわんばかりに絶叫だった。本当の戦場はこれから展開していく号令にもにた悲鳴だった。ぐらっとヘリが右に大きく傾いた。とそのまま機体は右斜め前方へとダイブしながら今度は左下へと滑るように降下し始めた。「だれか、機長のからだをどけてくれ」副操縦士らしい兵士の声だった。私は隣の搭乗室の兵士を見た。頭から血を流していた。死んでいるように見えた。機長がやられた。私はもうだめだと目をつぶろうとした。「おい、はやくだれかきてくれ。墜落するぞ」悲痛な叫び声がこだましその声に私の意識は現実にひきもどされた。私は無意識に前方に操縦室に駆け込んだ。「機長のからだを操縦桿から話してくれ、」必死の形相で操縦桿を両手でひっぱている服操縦士の顔が見えた。彼もバイザーが割れ、額から血を流していたが、なんとか操縦はできるようだった。私は左の操縦席の後ろに回り込み、両脇の下から手をいれて上半身を抱き上げるようにして、後ろに引きづり出した。機長の飛行服の胸部分から赤黒いシミが大きく広がっていた。機体は複操縦士の努力でやっと水平飛行を取り戻した。機長の傷はみるからにひどかった。はかろうじて意識はあったが、多量の出血のためすでに混濁し始めてる。私は医療器具のはいっているケースを見つけると、中から、モルヒネと止血剤のアンプルをとりだした。滅菌包装の袋をやぶってディスポシリンジを取り出すと、ニードルキャプを急いではずして、アンプルの注射液を吸った。彼の飛行服の袖をまくり腕に立て続けに2本うった。続いて、大型のガーゼとバンテージをとりだし、出血しいている胸に巻いた。モルヒネが効いたのか、うわごとのように言っていたうめき声が収まった。「だれでもいい、だれかこっちにきてくれないか」私は妻に彼の様子を見るように伝えた後、家族全員にけががないことを確認して、再び前方の操縦室にもどった。「腕がもたん。機長席に座って自動操縦を入れてくれ」見ると、先ほどは気がつかなかったが、彼の両肩の飛行服が破れ、焼けこげていた。私はいわれるがままに、機長席のシートに体を滑り込ませた。かぜが左下の足下からまきこむように吹き込んでくる。みるとおおきな穴がぽっかりとあいている。そのそばから無数の赤や白の電線がたれだがりその何本かはショートをしつつ火花をはなっている。きな臭いにおいがコクピットに充満していた。「その中央前方にあるふたつのトグルスイッチを上にあげてくれ」私はちょうど前方の風防と計器パネルの境にある白いスイッチをみつけ、上にあげた。すぐそばの発光パネルにアルファベットでAの文字がグリーンに浮かび上がった。前方から夕日が差し込んできた。まぶしかった。副操縦士が高度をあげたのか、山々がかなり下のほうに見えた。「ありがとう。助かった。」彼はだらんと両腕を操縦桿から離した。オートパイロットが奇跡的に機能したた、えヘリは一定の高度を維持しながら、北へ向かって100ノットで自動飛行した。「とりあえず手当をしないと」私はそういって副操縦士を後ろに連れて行こうとした。「いや、その時間的余裕はない。」彼はそういってコックピットの計器板をチェックしはじめた。「ううう」彼は腕をあげようとしてうめき声をあげた「モルヒネだけでもうちましょう」私は再度彼にすすめたが、彼は首を横にふって言った「自動操縦装置の2台のコンピュターのうち1台が機能していない。残りの1台がいつまでもつかわからない。オートパイロットが切れてしまえば、そく墜落だ。その前に緊急着陸させなければ・・・・」彼は出血は止まっているものの、飛行服がやぶれどす黒く血のかたまりでよごれている腕をなんとか自分の意志でうごかそうと悪戦苦闘した。「私がやってみます」彼はおどろいたようにこちらを振り返り言った「君はパイロットなのか」私は首をふりながら「整備基地にいるときに、2,3度飛ばしたことがあります。ただし、シュミレーターですが」と彼に向かっていった。副操縦士はいっしゅんとまどいの表情をみせ、考えていたが「手伝ってもらえるか、それ以外君たちを無事に地上におろせる手段はない」「わかりました。」「今、計器をチェックしたところだが、さらに問題が発生している。さっきの銃撃で燃料タンクが破損したようだ。燃料が漏れている。このままだた後15分ぐらいしか飛行できない。幸いなことにフロントラインは超えた。下は安全だ。問題はどこに着陸するかだ。完全に開けた土地で、しかも下が柔らかい場所がいい。横転してローターが地面をたたいても、衝撃が少なくてすむ。」私はふと思いついた。「現在位置はどこですか」彼はコックッピトのデジタル飛行マップのディスプレをちらっと眺めたあと、周囲の地形を確認した。「ちょうど、南国インターまで後3キロの地点だ。」私は彼に提案した。「ゴルフ場はどうでしょう」彼は即座に了承した「それはいいアイディアだ。すぐ近くにあるのか。」私は指さした「既に前方に見えています」
「可能限りオートパイロットを使う。すでに今ホバリングモードにいれてある。これから序助に設定高度を下げていく。非常にコンピュター、エンジンともに付加のかかる状況になる。いつオートパイロットが切れてもおかしくない。また損傷しているエンジンがその付加で悲鳴をあげるかもしれん。そのときはわたしがペダルを操舵するから、君がハンドリングしてくれ。」私は彼の目をみながらだまってうなずいた。風防ごしに深い陰が落ちる山肌が後ろへながれていく。この景色はプロジェクターに投影された仮想世界ではない。私はふと現実逃避的になる感覚を必死でリアルな世界に踏みとどまらせた。「高度700,高度650、高度600・・・」彼が小さな高度設定ノブをかちかちとまわすたびに、すこしずつヘリは高度を下げていった。エンジンがひときわ高い金属音をあげながら、フルパワーでローターを回転させている。ローターピッチを少しずつゆるめながら、揚力を減少させることにより、高度を落としていく。通常の固定翼機とはことなり、ヘリ着陸のときでもエンジンパワーはほとんど落とさない。着陸態勢から緊急に上昇体勢に移行しなければならない事態にいたったときは、ローターピッチをかえるだけで、すぐに上昇揚力をえることができるからである。がたがたの機体が妙に揺れ始めた。気のせいか、きーんというガスタービンエンジンの回転音にくすんだがりがりという音が混じり始めたような気がした。「エンジンの排気温度が上昇している。潤滑油温もだ。」彼は痛みをこらえながら、いくつかの計器パネルスイッチをぱちぱちと入れた。計器パネルの警告灯が1つ2つとつき始めた。「もう限界だ。オートパイロットもきれるぞ。手動操作準備をしろ」私は明滅しはじめたオートパイロットのブルーのランプを横目にみながら、右手で操縦桿、左手でコレクティブピッチレバーをにぎった。手があせばんでいるのが自分でもわかった。下にはちょうどロングホールのフェアウエーとグリーが見えていた。「きれるぞ」彼が叫んだ。急に右手の中の操縦桿が動き始めた。と同時に機体が右へ傾いた「傾いたほうと反対に操縦桿をたおすんだ」私は即座に反応した。機体はすぐに反応し今度は逆に左に大きくかたむいた「レバーへの入力はほんの少しだ。」彼が叫んだ。「はい」私は再びレバーをほんの少し右に傾けた。肩の力を抜くんだと自分に言い聞かせた。副操縦士がペダルを操作してくれているため、きりもみ状の回転運動にはいるのは避けることができた。次第に姿勢が安定し始めた。「いいぞ。その調子だ。左手のレバーを下すこしづつさげて、高度を落とし始めるんだ。空中でのながいは無用だ。」私はちょうど自動車のサイドブレーキのレバーのようなコレクティブピッチレバーを下げ始めた。次第に高度が下がり始めた。「下はみなくていい。前だけをみて水平を維持しろ」彼はそのかわり声をあげて高度を読み始めた「500、450、400」次第に視界のなかに遠くのスタートホールのグリーンが見え始めた「下の様子はいいですか」私はたずねた「ちょうどベントグリーンの真上だ。そのままおろせ」そのときだった、ぱーんというすごい音がしたかとおもうと、エンジン計器パネルがまるでクリスマスツリーのように一斉に赤く輝いた。エンジンストールだった。「オートローテーションに入れるんだ」副操縦士が叫んだ。私はいっきにコレクティブピッチを下にさげ、ローターのピッチをフラットにした。急速に高度が落ちていった。「衝撃にそなえろ、」操縦士が叫んだ。彼は高度を必死で読み上げ続けた「300、250、200」彼が叫んだ「100で操縦桿を引け」「150、100、いまだ」私はおもいっきりレバーを手前に引いた。すると動力もないのに一瞬ふわとした浮遊感が生じ、降下率が下がった。軽い衝撃があったあと、次の瞬間ばりばりという音とともにローターが地面に接触し、横転した。
機内に煙りが充満し始めたが、私は急いで機内の消火装置で消し止めた
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