あの時の約束

勝利だギューちゃん

第1話

高校生の卒業式の後、クラスメイトの女の子が引っ越しをした。

彼女の希望で、見送りは僕ひとりだけだった。


新幹線のホームで、少しの間談笑したあと、列車が来た。


「じゃあ、元気でね。○○くん」

「△△さんも、お元気で」


また会おうと、指切りをした・・・


「またね」

「またね」


ドアが閉まっても、僕は走って行った。


やがて、列車は見えなくなる。


どうして、見送るのを僕ひとりに指定したのか・・・

彼女は、友達がたくさんいたので、何も僕にすることはないのに・・・


彼女なりの、気遣いだったのか・・・

それが、わからないまま、月日は流れる。


日本には四季がある。

それは、繰り返す。

何回巡ったかわからない。


僕も、いつしか彼女の事は、セピア色になっていた。


女の子が苦手な僕は、自分から声をかけるのは出来ない。

ウブなのか、シャイなのか・・・


気がつけば、歳だけを重ねていた。


やもめ暮らしをしてはいるが、食うには困っていない。

そんな感じだった・・・


彼女はどうしているのか、わからない。

でも、幸せな結婚をしているのは、まず間違いない。


彼女からの連絡はないし、僕からもしていない。


時々、ふと思い出す。

それで、よかった・・・


ある日、僕は体を壊して、入院することになった。

といっても、検査入院なので、命に別条はない・・・


「○○さん、305号室にお入りください」


アナウンスが流れ、指定された病室に行く。


そこには、女医さんがいた。

まあ、それはいいんだが・・・

初めて会う気がしない。


「○○さん、少し肥満ですね。ダイエットしてください」

「昔は、もやしっ子でがりがりだったんですけどね・・・」

「知ってますよ・・・」

「えっ」


女医さんの顔を見て驚いた。


「そうです。あの時、私の母はあなたに見送ってもらいました」


確かにそうだ。

面影がある。

彼女の娘さんで、間違いない。


「母は、あなたの事をよく話してました」

「どうせ、悪い事でしょ」

「ええ。鈍感な人だったと」


えっ、鈍感?


「母は、どうして、あなたに見送りを指定したか、わかりませんか?」

「はい」

「ですよね。母は、あなたと2人になりたかったのです」

「なぜ?」

「あなたからの、告白を待っていました」


そんなはずはない。


「でも、あなたには、それが出来なかった。でも、約束は覚えていますね」

「またねという、指切りですか?」

「そうです」


僕が病気になり、この病院に来た。

そして、その病院で彼女の娘さんが、女医をしている。


不思議な縁だ・・・


「母は、生前はあなたの事を、応援していました」

「というと・・・」

「昨年に、他界しました」


また会おうという約束は、果たせなかったのか・・・


「でも、母は毎日、あなたに会ってました。違う形ですが・・・」

「というと・・・」


「作家である、あなたの本を全部買ってました。

それで、いつも私に自慢していました」


確かに僕は、作家だ。

ベストセラーとまではいかないが、それなりの人気はある。


・・・て、病院でこんな話をしていていいのか?


「○○さん」

「はい」

「よろしければ、母に会いに来て下さい。待ってますので・・・」


遅くなったけど、彼女に会いに行こう。

そして、あの時に言えなかった事を言おう。


「ありがとう」


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あの時の約束 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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