第20話

 先に攻撃を仕掛けたのはリゾ。

 足元に転がる石を右手で素早く拾い、投げてきたのだ。

 先ほどよりも速い。

 疾風を格段に上回る勢いで、左斜め前方から恭司めがけて正確に飛んでいく石。

 常人どころか、ガードのメンバーでも大抵の者は見切れないだろう。

 だが恭司は驚異的な動体視力で難なく捉え、リゾの投擲よりも遥かに速いパンチで瞬時に石を粉砕した。


「……」


 そして彼が冷静な表情で左へ跳躍した瞬間。

 隣を何かが神速で通り過ぎ、数メートル前方で急停止した。

 エドだ。

 少しでも跳躍が遅れていたら、鋭い爪が恭司の肉体に叩き込まれていただろう。


(リゾの投擲は囮か)


 恭司は両者から目を離さず、落ち着いて分析した。

 圧倒的な勢いの投擲で注意を引いて、右斜め後方から神速の奇襲を仕掛けるという作戦だったようだ。

 古参魔獣達の壮絶な身体能力でこれを実行すれば、大抵のガードメンバーは確実に殺せる。

 相手が恭司でなければ、間違いなく今の一瞬で勝負は決まっていた。


(強いな……大した奴らだ)


 内心警戒を強めながら恭司は構え直した。

 エドとリゾ。

 どちらも単独では恭司に劣っているが、二体同時に向かってくるなら侮れない。


「……」


 今、古参魔獣は二体共、前方にいる。

 しかし、無策に突進するようなことはしないはずだ。

 そんなことを考えながら構えていると、エドとリゾは同時に動いた。

 もちろん、正面から一直線に突っ込んでくるわけがない。

 途中で左右に分かれ、挟み撃ちを仕掛ける両者。

 エドが力強く踏み込んで爪を振り回すと同時に、反対側でリゾがパンチを放った。

 双方が恐ろしく速い上に正確。

 しかもエドは後頭部、リゾは左脇腹と、それぞれ違う方向から異なる位置を狙った超高速同時攻撃。

 普通なら対処は難しいが、恭司は見切った。

 仕掛けるタイミングこそ同時でも、攻撃自体はエドの方が速い。

 まずその場で素早く屈み、彼の爪を回避。

 それから百分の一秒も間を置かずに後方へ跳躍し、リゾの拳を空振りさせる。

 少し離れた位置で着地すると、恭司は即座に立ち上がり、構え直した。


(先にリゾを倒すか)


 今の攻防で、リゾはエドよりも弱いと確信した。

 二対一の戦闘なら実力で劣る方から叩きのめし、数を減らすべきだ。


(このまま二体同時に相手し続けるのは、少々骨が折れる)


 連携に慣れているのか、二体のコンビネーションは抜群。

 恭司だからこそ、無傷で彼らの同時攻撃をかわせているのだ。

 一瞬たりとも気は抜けない。

 恭司がそんなことを考えていると、エドとリゾが再び動き出した。


「はっ!」


 先に仕掛けてきたのはリゾ。

 今度は正面から超高速で駆け寄ってくるが、恭司は簡単に捉えた。

 冷静に動きを見切り、反撃の手刀を叩き込もうとする。

 だがその前にリゾは横へ動き、彼の背後に控えていたエドが入れ違いに突進。

 大きく開かれた口が猛烈な勢いで迫ってくる。

 鋼鉄をも軽々と噛み砕けるであろう牙を、恭司は一瞬で横へ動いて回避。

 直後に、側面へ回り込んだリゾの爪が脇腹へと襲いかかる。

 恭司は自分からそれに当たりに行く形となったが、すぐに踏みとどまった。

 間を置かずに素早い動きで左腕を伸ばし、リゾの手首を掴む。


「うっ……!」


 冷や汗を流して振りほどこうとするリゾだが、間に合わない。

 彼とエドが何か行動を起こす前に、恭司は左腕を神速で振り回し、手を開けた。


「うぉぁっ……!」


 手首を掴まれたままだったリゾは宙に投げ出され、エドめがけて飛んでいく。

 恐ろしい勢いだ。

 何とか受け止めようとするエドだが、それを果たすことはできなかった。

 激突音が響き渡ると同時に、彼はリゾと共に吹っ飛んでしまう。


「あぅっ……!」

「がはっ……!」


 十数メートル後方の地面へ背中から落ち、土煙を上げて転がる二体。

 隙だらけだ。

 もちろん彼らが立ち上がるまで待つわけがなく、すかさず恭司は動いた。

 

「くっ……!」


 やはりエドの方がリゾよりも強く、戦いなれているようだ。

 彼は転がりながら右手で地面を叩き、その反動で大きく跳躍して、恭司の攻撃範囲から逃れた。

 だがリゾは、咄嗟の判断力という点でもエドに及んでいない。

 すぐその場で立ち上がろうとしたため、無防備な姿を単独で恭司の前へさらすことになった。


「!」


 状況に気づいたのか、青ざめた表情で横へ跳躍しようとするリゾだが、もう遅い。

 既に恭司が彼の眼前まで到達し、左拳を神速で右脇腹に叩き込んだからである。

 激烈な轟音と共に吹っ飛び、呻きながら大量に吐血するリゾ。

 そのまま数十メートル先の地面へ落ちて転がり、動かなくなった。


「リ……リゾ……!」


 恭司から少し離れた位置でそれを見つつ、エドは冷や汗を流して叫んだ。

 予想外の事態だったのか、声が震えている。

 そんなエドに視線を向けると、恭司は静かな口調で言った。


「手加減しておいた。死んではいない」


 肉体が溶解し始めないことが、まだリゾが生きている証拠。

 と言っても、ダメージは甚大であろう。

 右側の肋骨が全て砕け散り、パンチの衝撃が内臓まで浸透した感触は拳に伝わっている。

 しばらくは目を覚まさないはずだ。


「お前達にはダズの居場所を喋ってもらう必要があるからな」

「俺達を拘束して尋問するつもりか。だが、そうはいかん」


 相変わらず冷や汗を流しているものの、エドの口調は冷静だ。

 早くも落ち着きを取り戻したらしい。


「ここでお前を殺し、リゾを連れて帰れば済むこと」


 そう言いつつも、エドは襲いかかってこない。

 右手の爪を構えたまま、隙をうかがうように恭司を見ている。

 

(一撃に賭けるつもりか)


 エドの意図を察し、恭司は真剣な表情で身構えた。

 凄まじい眼光を放って睨み合う両者。

 周囲が異様なほどの静寂に包み込まれ、緊張感が高まっていく。

 やがてエドが地面を蹴り砕き、大量の土砂を巻き上げながら突っ込んできた。

 今まで見せてきた中でも、最速の動きだ。

 疾風をも遥かに超えるスピードで迫るエドに対し、恭司は右拳で殴りかかった。

 直後。

 エドの左脇腹に恭司の右拳が深々とめり込み、強烈な打撃音と呻き声が同時に響き渡った。

 しかも単純に当たっただけではない。

 リゾを一撃で気絶させるほど強烈なパンチの威力が、エド自身の速さで倍化された形である。

 耐えられるわけがないだろう。

 エドは口から大量の鮮血を吐き出して吹っ飛び、数十メートル先の地面へと落ちて転がった。


「……」


 無言でエドを見る恭司。

 間違いなく、左側の肋骨は全て粉砕した。

 衝撃が内臓まで浸透した感触もあるため、今すぐ目を覚ましたりしないはずだ。

 しかし古参魔獣相手に、用心し過ぎるということはない。

 恭司はエドやリゾに歩み寄り、両者が気絶しているかどうかを確認。


(どちらも意識はない……か)


 入念に調べて確信すると、すぐに彼は両者の肩、肘、膝の関節を外し始めた。

 古参魔獣を拘束できる道具は皆無なので、こうするしかないのだ。

 慣れた手つきで関節を外しながら、恭司は思った。


(尋問するのは後回しだな……今は中へ加勢に行くことが先決)


 基地内では、まだ他のメンバー達と魔獣の群れが戦っているはずだ。

 放っておくわけにはいかない。


「これでよし」


 肩、肘、膝の関節を全て外し終え、両者を近くの物置へ放り込んでから呟く恭司。

 直後に基地を見上げ、続けた。


「みんなの加勢に行くか」


 言うなり、恭司は基地内へ通じるドアめがけて駆け出した。

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