にんにくで死にかけた話
松生 小春
これは昨日の話
ようやく病床から起き上がってこれを書いてる。昨日は救急車を呼ぼうかとまで思った。今まで経験した体調不良のなかでダントツの酷さだった。本当に死ぬかと思ったよ。
苦しすぎて気を紛らわそうと、過去における一番酷い体験を考えたけれど、それでも今回の事件が最も突き抜けていた。けたたましいサイレンと共に頭の中で救急車が疾走したのは人生でこれが初めてだ。というか孤独死さえ覚悟するべきか、最終そこまで思考が到達した。
グースカ寝ているであろう相方にダイイングメッセージ的【ワタシの死にゆく過程】の実況中継を一方的に送りつける余裕はあったのだが。
救急車、と言っても、ノーブラによれたTシャツ、汚い短パン、髪を振り乱して顔面蒼白の般若のような顔に、ゲロとにんにくとサンマ臭にまみれた醜態を晒すことには一瞬気が引け、というかそのうちそんな思考力すらも喪失し、駆け込んだトイレで数回の嘔吐のあと、気がつけば便座で鼻水と涎を垂らして気を失っていた。
のたうち回りながら、朦朧とする意識の中で、持病の眩暈から来る体調不良かなとも思ったけれど、厭なんだろう野生の勘というか、生存本能というか、なんだか違う気がした。どっちかってと、過去の食あたりに酷似している気がする、と。そうして考えている内に意識は遠退いた。
さて、こんなお下品極まりないお話を書くのもどうかと憚られるが、ネット上にも殆ど情報がなかったので
、健康食と誰もが信じて疑わない大蒜に於いての、【にんにくにおける注意喚起】もしくは【にんにく情報】のひとつとしてここにこれを記したい。
うん。すごく品のない下世話な表現が続くと思われるので、そういった趣向のない方はここから先は閲覧しないことを強固にお奨めする。厭すでにお下劣な表現満載だって?如何にも、そこはしっかりと謝罪させていただきたい。すまぬ、滅相もない、大変、面目ない。えっとそれからなんだっけ遺憾?
…いい?さて話は以下に続く。
此の事件が起きる前の食事は下記の通りだ。
●味噌鰹ニンニク1パック。
まあここからしてあかんかった。生にして20粒近くあったんではないか。だって知らんかったのよ。
●冷ややっこ
●さんまの味煮缶詰
●レモンビネガー割上善如水
独り暮らしアラサーの侘しくも慎ましい夜食であったことが窺えるであろう。ちょっと咽び泣いてもいいですか。
しかもそれをぼりぼり食い散らかしながら、大好きないつもの習慣アマ★ンプライムで「万引き家族」を鑑賞中だった。食事も一段落し、ソファーにだらしなく寝っ転がりながら、万引きもクライマックスに入ったときだった。其の異変は突如起こり始めた。ほんのりと、しかし確実に眩暈を感じる。徐々に呼吸のリズムが取れなくなり、頭部から血の気が引くのが分かる。それから程なくして突き上がる激しい胸焼け。そのあとはダッシュでお花を吐瀉摘みにいく。
パニックから過呼吸を起こし痺れ始める手先を見つめ、ああ、ワタシこのまま死ぬのね、と便座でさめざめ泣いた。そして間髪入れず継続嘔吐した。もっと私としてはその状況をつぶさに、事細かに微細に明記したいところなのだが、松生の美的センスと趣味・趣向性癖を疑われるのでここいらでやめておく。トイレの前の廊下で、風呂場の使い古した足拭きを枕にしばらくの間失神していたことも伏せておこうか。
それから少し意識が戻った頃にちょうど同僚からLINEが入る。混濁した頭で、もちろんしっかりと死にかけの状況を送信。
「そっちいく?やばかったら私いつでもいくから教えてね!」
彼女のその言葉に安堵し、スマホを持ったまま、またもや意識を失う独身一人暮らしアラサー松生。
一方、相方からのリプライは無い。いつものように酒でも飲んで寝てるのか。お前本当に使えないなと言いたいところだが、たまに私の書いたものを読んでいるようなので、これはもちろん脚色ですよっと言っておくか。
そして目覚めると、全身にものすごい量の脂汗をかいている。拳で額を拭う。…ああ、私、生きてた。ヨロヨロと冷蔵庫を漁り、2リットルのペットボトルを持って定位置へ。茶を口に含み、次は意識して出せるだけ、胃の内容物を押し出す。むっちゃ噴出。
一旦それが収まったところで、虚ろな死魚の目で症状をGo★gle。
【にんにくの食べ過ぎで胃壁崩壊入院】
どうやらこれが一番近いようだ。身体はまた、食したものを体外に戻せ戻せと断続的に訴えてくる。勿論それに従う。これを固形物がなくなるまで繰り返せば、孤独死を覚悟したまま目を瞑らなくて済むのではないか、機能の著しく低下した脳細胞なりにそう思案した私は、思い切り茶を口に含んでは飲み下し、且つマーライオンするという一連の作業を、喉が痛くなるまで繰り返した。
体調不良が始まってから約三時間。【げっそり】と言う音がする。まだ私はトイレの廊下に倒れている。もう水分しか出ない胃はよくやく空っぽになったようだ。もう此のまま寝ても死ぬ事のない旨を確信した私は、死にかけのティラノサウルスのように両腕をダランと垂らし腰を折ったままペットボトルを持ち、そのままどうにかソファーに突っ伏した。
そしてふと目を覚ましたのは午前5時。無意識に歯磨きも済ませている。思い返せば胸焼けと頭痛がするが、にんにく口臭でたまらず歯磨きしたんだっけか。水分を多めにとる、トイレに行く。便器の中に内容物は残っておらず、しっかり流されていて、トイレの床にはトイレ洗剤と消臭材が散乱している。我ながら感心して用を足す。まだ気分は優れない。電気を消し、やっと本格的な就寝に入る。
朝8時。汚れた顔を洗い、水分を取り、相方に乳酸菌飲料、胃に優しいもののリクエスト(買ってこい)を送信。同僚にはしっかりと無事と感謝の念を伝える。
10時、起床。横臥のままGo★gle。
えっと、生のにんにくの1日の適量摂取は・・・。
一片?え?もしや致死量食ってたんじゃねーか!それからサンマと食べると癌になる?!おーい!
正午、相方は未だに未読。私が死ぬときは、きっと死ぬまでの実況中継とサヨナラの遺書を遺して死ぬことになるんだろうなーと、ボーッと考え、そのうちそれが怒りに変わる。「彼氏が病気なのにかまってくれない」や「旦那が体調不良に無関心」などのトピックを漁り、同じ気持ちの書き込みを見てgood心を落ち着かせる。その後相方からリプライあり、結構なじる。
午後3時頃。取り敢えず連絡しといた両親のうち、父親がコールバック。乳酸菌飲料と栄養ドリンクを持参して来てくれる。とーちゃん素敵。早速、にんにくの強力な抗菌殺菌作用により壊滅したと見られる乳酸菌を胃腸に補給。少しだけ水溶便が出る。軽くシャワーを浴びる。清潔な服を着て、栄養ドリンクを恐る恐る流し込む。そろそろ立ってもふらつきが消失しているようだ。
…ということでこちらを書いている。しばらくの間、にんにくは見たくない。皆様はにんにくを食すときは用法、容量を守ってお楽しみくださいませ。
まつお。
にんにくで死にかけた話 松生 小春 @STO11OK
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