なにかを控えている日の前日にはなんだかたいていみるような、そのエレベーターのじゅうたんみたいなくすんだ赤がやけにくっきりはっきりとしていた、ゆめ。

 なにかを控えている日には、たいていそのできごとが起こっている場面の夢を見る。

 けど、場所も状況も、荒唐無稽だ。


 とあることでお電話いただいて打ち合わせする予定のある日の前、準備をして寝た夜だったんだけど、やっぱり、見た。


 自宅よりもけっこう遠くの駅だった。よくわかんないんだけどおそらく中央線の、それも立川寄りの、でも立川よりはもうちょっと小さめの駅だった。

 そこのチェーンの安居酒屋のお座敷で、父方の親戚会のような、でもそれにしては見知った顔が父方の祖母しかいなくてほかのひとたちは知らない、というふしぎな状況だった。


 私はなんだかなじんでなかった。

 席の端で、ぼそぼそと茶色っけの多い料理を食べて、でもそんなにすごくおいしいわけでもないし、食べ続けていたので、もうそのほかにはとくにすることがなかった。そういえばスマホをいじってなかったのはなんでだろう。


 ぼんやりと知り合いめいたひとにおそらくは気を遣って、言われる。


「なっちゃん、用事はいいの?」

「あ、そろそろ行こうと思ってて、これから……」


 私は笑顔に満たない薄笑いを浮かべると、冷え切ったスマホを手にして、立ち上がり、そのままエレベーターに乗り込んだ。

 じゅうたんみたいなくすんだ赤がやたらと自己主張の激しいエレベーターだ。

 スマホは再起動を繰り返していた。


 駅前広場は二階部分にあった。

 電話の来る時間の三分前。人が多い。慌てて建物の柱の陰に寄り、電話をできる態勢を整えた。

 駅前広場はあらためて見ても騒々しい。だいじょうぶかなあ、と白い息を吐いて、空を見上げた。

 空は奇妙につるりとした質感で、色もなんだか淡いグレーのような水色のような、だからつまり現実世界とは違った空だったのかもしれない。


 そして予定の二分後にお電話をいただき。

 後ろが騒々しいことを開口一番心配されてしまって、あ、だいじょうぶです、と片手のスマホをがんばって調整をして。


 そのとき私の頭上あたりにちらついていたのはなぜだかエレベーターのじゅうたんみたいなくすんだ赤、だった。

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