マンションかホテルかみたいな高いところの部屋で、小説を書くこととかその師みたいなことについて、勝てないわけだ、とひっそり宣告された、グレーがかった水色のゆめ。
その部屋は地上十何階にあるようで、いつものごとくひとの気配はほとんどなかった。
おそらくホテルだったと思うんだけど、高級ホテルでもないしかといってラブホテルでもなく、
近いのはビジネスホテルだろうけど、というにはもうちょっとしっかりしていて、
つまりしてなにが言いたいかというと、私はその高いフロアの手ごろな広さの一室で、グレーがかった水色のカーペットのうえに地べたで座ってしかも異性であるそのひととふたりきりだったけど、ぜんぜん、そーゆーんじゃなかった。
ただ、私たちは、穏やかに小説のはなしをしていた。
知らないひとだった。
五十歳前後の男性で、穏やかなかただった。髪の毛は濃い茶色に白髪混じりだったけど、ねじまきみたいにぴょんこと立ったつむじは、ほとんどちゃんと鮮やかな茶色で、木のうろを思わせた。
共通の知人、小説家の知人がいるということで、そのひとの声のトーンがすこし、変わった。より、ひそめるかのように。
「そうか。それでは、○○さんと知り合いなのだということかい?」
「はい、そうですね。高校生のときからで、それからも○○オフに行ったり、お世話になったり、いろいろ……」
そのひとは、そして。
「そうか。それは、勝てないわけだ」
冗談めかしてそのひとは言ったけれども、表情はほんとうにひっそりかげっていた、私よりずっと年上であろうあのひとはいったい、なんだったんだろう、だれだったんだろう、いつどこでなんのおもいの、その、残滓だったのであろうか。
そして、いったいなにに、勝てなかったのだろうか。
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