天空の中心が点ではなく三角形となって、立体の五角形が空となり、その下に私たちの世界がひろがっている、そんな夜空の、きらめく藍色のゆめ。

 夜の空を見上げたら、その頂点には三角形が銀色にひかっていた。あれなんでだろう、私は科学やなんであれ理系的な知識というものにはとんと疎いが、空というのは天体の運行が見渡せる程度にはまるみを帯びたものではなかったか、と思った。

 きっとそのときには眠りのはじめだった。まだ、現実と違うその空のことを、疑っていたから。

 けれどもすぐにいいやと思った――「そうか、空がまるみを帯びているように見えるということすら、偶然のことだったのだな、たまたま、私たちの世界がそのような理屈でできあがっていただけなのだな」と。


 そう、その三角形部分はやはり銀色にひかっていた。なんど見ても。金属質な、それでいて北極の氷のような、人工的めいてるけども極限に自然的みたいな、ふしぎないろだった。

 きれいだったのでしばらく見ていた。


 秩序だった夜空だな、と感じた。



 しばらくして、寒くて室内に入った。

 そこは蛍光灯の白色の眩しい中学校の教室で、私はボール紙で立方体を折っていた。これが、なかなかうまいこと折れない。あの空のまんまに折りたいのに。

 だれかが笑顔の仮面でにやにやしながら話しかけてきて、塗れ羽ガラスのジャンパースカートの制服を着たそのひとはクラスメイトのはずなのにとても年上に見えた。驚いて、自分の服装を見てみれば、ジーンズにオレンジ色のセーター。小四のときによくしていた服装で、あ、私だけ子どもなんだな、と思ったらなんだか一気に興が醒めた。


 だから私はさっきひとりで三角形の空の銀色を見上げていたのだな、と。

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