世界が滅亡しかけているというのに銭湯の過剰通いをつづける、淡いベージュの、ゆめ。

 そこは淡く優しく終焉を迎える世界だった。人間は、笑ってもいなかったけど、絶望してもいなかった。

 終わりのなかでも、ただ日常はあった。


 世界が、滅亡しかけていた。なぜだかははっきり覚えていない。ただ人口は十分の一以下となり、あるいは百分の一もいないかもしれないと言われていた。そのような統計的数字のことは確かめようがないくらい、人のすがたは、なかった。

 文明的な街はほとんどなくなり、店舗単位で生活感が残るのみ。一面、でこぼこに、まるで火山のようなクレーター。ぷしゅぷしゅと紅い炎が悪魔の舌のようにところどころで燻っていた。


 私はそんななかで、銭湯に通っていた。銭湯が、好きだった。

 でこぼこのクレーターのなかにぽつんと建つ銭湯には、いくらかのひとがいた。おもにおばさんたちが、なにも言わず、もくもくと身体を洗っていた。


 その日もなにかを済ませた私は、緑色の自転車で戦闘に向かった。

 入場料は三百円から四百円。なぜかぶれがあり、その日は四百円だった。

 無口で顔のぼやけた番の女性に、小銭を払って、直通する細長い脱衣所へ。


 こないだも来て、さいきん来すぎだなあ銭湯、と思った。

 ああでもそういえばきょうは家のお風呂で黄色いあひるを浮かべてピンクの花びらといっしょに入っても、それはそれでよかったかもって――


 そこではっとした瞬間の感情がすさまじくリアルだった。

 ああ、家のお風呂で、よかったじゃんって。


 でも、仕方ないからそのまま銭湯でお風呂に入った。

 お風呂を上がったら、家族のひとりがドラクエのルーラで休憩所に来ていて、不倫のことについて知らないひとと三人でいっしょくたになって揉めていたけれど、私は、無視して、バスタオルできゅっと濡れた髪の毛を、拭いた。

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