第8話

「瑞希!今度カラオケ行こうぜ!」



「優斗ほんと好きだねカラオケ。でも今日は海のことも連れてってもいいかな?」



「え、逆に来ないつもりだったの?いつも来てんじゃん!!」



「そっか、そうだよね。うん、行こう!カラオケ!」



僕らの存在が見えなくなっていたことは全てなかったものにされていた。売地をあとにして学校へ行けば、遅刻だぞと普通に怒られたし、なんなら反省文も書かされた。

今までも幾度となく学校をサボって図書館にいた僕らの欠席日数はゼロだ。


おまけに元々僕らは付き合っていたことになっている。

一体どこからどこまでの記憶が書き換えられたのだか、不思議でしょうがなかった。


陽キャたちのグループに入れられてしまった僕は、瑞希含めた5人でこれからカラオケに行く。


歌は下手な方なのだが、そこの記憶はどうなっているだろうか。上手と言われても困るし下手と言われても困る。



「広野今日何歌うのー?」


「喉の調子悪いからパスー」


「おまっ、このやろ」



まあ適当にゲームのOP曲でも歌っておくか。


放課後一直線に帰らなかったのは初めてだなあと思いながら、少し楽しんでる自分がいた。

気付けば見ていないスマホが寂しそうだったが、そんなことはどうでもいい。連絡先に新しい名前

が増えただけできっと十分だろう。



「カラオケまで競走しようぜ」



「おぅ、帰宅部舐めんな?」



「お前それサッカー部に言うことか?」



松居くんのツッコミを受け、佐藤さんと瑞希の話し声を背に僕と天宮くんは走る。


カラオケの存在するこの世界を、走っているんだ。

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