第7話
シロツメクサはいわばどこにでも咲いている花。
道端の雑草にすぎない。
しかしその花でさえも、現代化したこの世で見つけるのは難しかった。
住宅街に位置していた高校のグラウンドにはなかったし、もちろんその住宅街にもなかった。
だが、公園。僕が彼女と話すことのできたあの公園にはシロツメクサが確かに咲いていた。
しかしながら、あの時には僕らを待つかのように咲いていたそのシロツメクサは、小学生に踏み潰されてしまっていた。
「こんな所じゃロマンチックも程遠いね。」
「いいじゃないか。会えた時点でこれはもうロマンチックを超えたロマンチックだよ?」
「何それ。」
笑う瑞希は昔のままだ。
結局僕らは今、草のおいしげる売地の中にいた。ここは誰も踏み込まないし業者も草刈りを怠っている。本当にロマンチックとは程遠いが、たくさんのシロツメクサが風に揺られる姿は僕が1番望んだものだ。
「どのシロツメクサにする?」
「どれも一緒だよ」
「いいじゃん。一緒に選ぼうよ。」
彼女は一つ一つ見ていき、恐らく1番大きなそれを選んだ。いつも欲張りなんだからと心の中で思う自分が照れくさかった。
切るのが可哀想と、シロツメクサにごめんなさいという彼女もまた彼女だ。
「はい、海。いいよ。」
シロツメクサを口の前に持って僕を待っている瑞希には、どこか小野田さんを感じて。少し寂しさを感じた。
昔目のよかった僕は今眼鏡だし、走り回って怒られていたあの時とは考えられないくらいゲームが好きだ。
僕はこれから、カイのと広野海の双方を受け入れなければいけないし、同様にミズキと小野田瑞希を受け入れなければいけない。
そう思うと寂しかったのだ。
今もシロツメクサ片手にずっと待っている瑞希の健気さはきっと、小野田瑞希の親譲りだろうから。
待ちきれなそうな瑞希にキスをした。
シロツメクサに当てた僕の唇は、瑞希の唇の端へも当たった。
これは、カイとミズキのただいまのキスでもあり、広野海のファーストキスでもあった。
___そう!実はね?シロツメクサって「約束」とか「幸運」とか「私を思って」とかそんな意味があるの。
__え?それだけ?だったらシロツメクサじゃなくたっていいじゃん。
___違うの。シロツメクサは、クローバーとも言うでしょ?英語で書いてclover。それを読み替えると、「She lover」になるの。ほらロマンチック。
___彼女は恋人、か。確かにロマンチックかもしれないね。僕にとっての恋人は他でもない君だけどね。
思いだしたこの会話も。
なにもかも。
結局は僕らでしかなかった。
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