想い出の中へ
勝利だギューちゃん
第1話
俺は今、電車に乗っている。
ローカル線を、のんびり走る電車。
ローカル線なので、塗装でごまかしてはいるが、
かなり車齢は高い。
そのボックス席に、腰を下ろす。
乗客は、まばらで、殆ど貸し切りに近い。
(久しぶりだな・・帰るのは・・・)
今、俺は同窓会に向かっている。
小学生の頃の同窓会。
住んでいた村には、中学までしかないので、
たいていは、高校へ進むために、都会へ出る。
そして、便利さになれてしまい、帰郷しなくなる。
俺も、その1人だが・・・
電車の揺れ具合に、舟をこぐ・・・
「相変わらず、とろい列車だな・・・」
思わず声が出る。
「これでも、新しくなったんだけどね」
女の子の声がする。
顔をあげると、そこには懐かしい顔があった。
「楓?」
「久しぶりだね。武雄」
楓は、隣に腰を下ろす。
楓、同じ歳の女の子。
彼女も、俺と同じ田舎の出身。
俺と同じく、中学卒業と同時に、村を出た。
その時以来か・・・
「武雄も、同窓会だよね?」
「まあな。でも、同じメンバーだしな」
「確かにね。でも、初めてでしょ?」
「楓は、参加してたのか?」
「うん。毎回来てたよ。」
確かに、好きな人は好きだな。
「この車両は、古いとは言え、JR化後に作られたから、まだそんなに経ってないよ」
「それでも、30年は過ぎてるよね?」
「鉄道車両にしては、若いんだよ」
確かに、自動車よりは、寿命が長い。
「武雄は、今何してるの?」
「俺か?広告関係だよ」
「そうなんだ。がんばってるんだね」
「楓は、何をしてるんだ?」
「私?専業主婦だよ」
「結婚したのか?」
「うん。おかしい」
よく貰い手があったな・・・
まあ、見かけはいいからな・・・
旦那さん、苦労をおかけします。
「相手は訊かないの?」
「楓の、プライベートなことだろ?」
「ありがとう。でも、武雄も知っている人だよ」
そうなのか・・・
候補者の顔が思い浮かぶ・・・
だめだ・・・
絞れない・・・
「じゃあ、私は行くね。旦那と子供が待ってるから」
「わざわざ、挨拶に来てくれたのか?」
「うん。じゃあ、同窓会の会場で、会いましょう・・・」
「わかった。また後で・・・」
こうしてまた、俺は舟をこいだ・・・
目が覚めた。
寝てしまったか・・・
楓か・・・
どうして今頃・・・
列車は、駅に到着した。
駅舎を下りる。
変わっていない。
憎たらしいほどに・・・
「武雄」
俺を呼ぶ声がする。
同級生の男子、順平だ。
「久しぶりだな。武雄」
「ああ、元気そうだな・・・というのも変か・・・」
「気にするなって」
俺が同窓会に参加したのには、もうひとつわけがあった。
武雄・・・
20歳を過ぎてすぐに、同村出身の同い年の女の子と、結婚した。
学生結婚なので、金はなく式は挙げていない。
で、今日の同窓会でするはずだったのだが・・・
「すまないな、わざわざ」
「いやいいよ。お前の奥さんには、電車の中で挨拶をした」
「そっか・・・来てくれたか・・・」
「まあな・・・行こうか・・・」
「ああ。先に待ってるよ」
順平は、走っていく。
そしてその姿は、見えなくなる・・・
もう少し待ってくれ。
いつかは、そっちに行く。
でも、俺の足では、時間はかかりそうだ・・・
想い出の中へ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu
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