アロエのせい
~ 九月十一(水) 16センチ ~
アロエの花言葉 苦痛
ダンジョン攻略・体感型RPGゲーム。
なんだか途方もない物を作るために。
夢中で走り回る俺たちなのですが。
その協力を得るためには。
こちらからも手を貸さねばなりません。
「だから、劇自体をこっちの物語とリンクさせるイメージね」
「はい! 世界観が面白くなって、笑いが増えました!」
「七人の小人が、元・世界最強のパーティーとか!」
「あれ面白くなったよな~! さすがセンパイ!」
シナリオのアドバイスを褒められて。
恥ずかしそうにする坂上さん。
優しいお姉さんは。
一年生にも大人気。
……さすがは五票なのです。
「面白そう。ぜひこの劇、見たいのです」
「ん。その気持ちは分かる、けど」
「見れるはずないの。道久君は出ずっぱりなの」
そしてこちらの三票さん。
俺にだけ冷たいお姉さんの名前は
軽い色に染めたゆるふわロング髪を頭のてっぺんでお団子にして。
そこに花の咲いたアロエを植えているのですが。
見慣れているのであまり気にならないアロエのトゲも。
こうして花が咲くと。
ずいぶん怖く見えるのです。
さて、今日はかなりの人員が。
一年生の教室で作業を手伝っているのですが。
「お手伝いしてあげるのに反して、実入りが少ない気もします」
「そんなこと無いの。一年生の力だって大したものなの」
穂咲は一年生の肩を持ちながら。
衣装のサイズ調整を続けます。
「今の段階で、結構手伝ってくれてるの」
「……穴掘りとか?」
「そう! その大問題をどうするかって話よ!」
俺が口にした単語を拾い上げて。
野口さんが、いいんちょと相談を始めたのですが。
蓋の外れる音が。
涙をそそります。
「……穴はまだ、あんな調子なの」
「では、具体的には何を?」
「今は小道具を大量に作ってくれてるの」
なるほど、言われてみれば。
教室の隅に剣が積まれていましたっけ。
「そう、剣がいりますからね、たくさん」
「頼れるの」
「確かにそうなのです」
「歩が強いのと一緒なの」
ん?
ふ?
穂咲はドレスの脇のお直しを終えると。
首に下げた水筒からお茶を飲んで。
一息つきながら言うのですけれど。
「……将棋の?」
「将棋の」
「一番弱いじゃないですか」
「そりゃウソなの。なんだっけ、金の底の歩っていう言葉を聞いたの」
ああ、はい。
知っていますけど。
でも将棋なんかできないこいつの事です。
間違って覚えたに違いない。
「どういう意味か言ってごらんなさい」
「金色に輝く人は、歩のような誰かに支えられているという名言なの」
「なんですそのいい話。違いますよ、ただの将棋の格言ですって」
手持ちに残り。
意外と使い道のない歩ですが。
金の下に張ることによって堅固な守りに役立つという妙手のことなのです。
「……違うの」
「違いません」
「違うの」
「頑固ですね。……では、その例えが本当だとして、俺たちは金ですか」
そんな言葉に。
こいつは急に肩をすくめると。
窓の外を見つめながら。
落ち着いたトーンで。
ぽつりとつぶやきます。
「……あたし達だって、きっと今は、歩」
「じゃあ二歩です」
「一年生に支えられて、いつか金色に成るその日を夢見る、ただの、歩」
「その日は永遠に来ないのです」
なんで反則手を打ちますか。
俺は呆れながら穂咲の相手を切り上げて。
教室を見渡します。
そして今更気付いたのですが。
こちらの応援に来ているの。
女子ばっかりじゃありませんか?
「あれ? そこそこ力仕事もあるのに、なんで女子ばっかり?」
俺が、すぐそばにいた五票さん、小野さんに話しかけると。
「う~ん……。なんか~、男子~、がっついてる感じ~?」
「は?」
すると小野さんと一緒に背景のベニヤへ色を塗っていた六票さん、原村さんも。
「最後の文化祭だからって、ワンチャン狙ってる雰囲気がいやよね!」
頷きながら。
同意するのです。
……いやはや。
主にあの三人だとは思いますが。
避けられてどうします。
俺が憐れな戦友へ。
心の中で敬礼していると。
「だからこっちに逃げて来たのよ!」
「はあ。……こちらには俺と瀬古君がいますけど」
「二人は~、落ち着いてるから平気~」
「そうそう。見え透いた手伝いしようとしたりしないしね!」
「うん~。自分の仕事~、ひたむきにこなしてる姿がカッコイ~」
「か、かっこ!?」
小野さんが。
いつもののんびりペースで火種を投げ込むと。
あっという間にかっかと燃え上がる。
面倒な三票ちゃん。
「……モテ久君、鼻の下が伸びてるの」
「伸びてませんって」
「伸びてるの。こーんなに」
「今、君がやってるゾウさん。鼻の下は短いと思うのですが」
面倒な絡み方をする穂咲を見て。
一年生が、妙にハラハラとしています。
ほら、怖がらせてはいけません。
とっととその風船顔をやめなさい。
俺があの手この手で機嫌を取っていると。
ようやくちょっぴりしぼんだ風船。
それを見て、笑顔になった一年生が。
変なことを聞いてきたのです。
「あ、あの! お花ちゃん先輩と、パッとしない先輩さん!」
「待とうか」
「どうやってお付き合いを始めたんです?」
この質問で。
一年生は総員俺にロックオン。
三年生は。
全員が苦笑いという有様。
「何を言っているのです?」
「え?」
「俺とこいつは、付き合っていないのです」
「え?」
「え?」
「え?」
「え?」
「え?」
「すごい。三十チャンネルサラウンド」
ありとあらゆる方向から。
俺を取り囲む『え』という声。
それが穂咲のため息と同時に。
一斉発射されました。
「「「「えーーーーー!?」」」」
ああうるさい。
でも、この教室の事は。
君たちより熟知する俺なのです。
こんな騒ぎが耳に入らない特等席へ。
俺はエスケープしたのでした。
「「「「えーーーーー!?」」」」
ああうるさい。
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