ハマナスのせい


 ~ 九月五日(木) 10ヤード ~


  ハマナスの花言葉

   あなたの魅力にひかれます



 後悔は、先に立たず。


 数日間で半数。

 丁寧に説得して歩いたつもりだったのですが。

 もっと急いでまわるべきでした。


「秋山に騙されるな!」

「あいつは、主人公をやりたいだけだ!」

「シナリオのせいにして、藍川にちゅーしたいだけだ!」

「どさくさに紛れてなに言い出しました!?」


 ダンジョンゲーム派。

 VS。

 そうでない派。


 お昼休みにご飯を食べながら出し物会議をしていたところ。


 あれだけ釘を刺しておいたのに。

 柿崎君が口を滑らせて。

 俺が暗躍していることを話してしまったのです。


 そしてクラスを真っ二つに分けた。

 壮絶な舌戦が開始されると。


 次に行われた代表者同士の党首討論と。

 引き分けに終わった全員投票を経て。



 現在。



 …………フラッグ戦が開催されているのです。



「どうしてこうなった?」

「いいから、口じゃなくて手を動かすの」


 入り口に、机でバリケードを作りながら。

 偉そうなことを言うこいつは藍川あいかわ穂咲ほさき


 軽い色に染めたゆるふわロング髪を。

 急きょ、ヘルメットの形に結い直して。


 海岸に咲く椿のようなお花。

 ハマナスをそのてっぺんに乗せています。



 ……しかしまあ。

 何が起きてもおかしくない。

 変なクラスと知ってはいましたけれど。


 まさか、教室と家庭科室とに分かれて。

 相手陣地の旗を奪い取った方が勝ちとか。


 悪ふざけにもほどがあるのです。


 そして。

 俺はこれにも文句を言いたい。


「秋山の説得に馳せ参じた俺たちが!」

「秋山の魅力にひかれたあたし達が!」

「道久のために勝つぞ!」

「秋山のために、一致団結よ!」


 こちら、教室チームの本陣では。

 最終防衛メンバーが。

 えいえいおーと鬨の声。


 そんなことを言われては。

 涙が止まらないのです。



 ……だってこの人たち。



 A級戦犯を俺にしたいだけなのです。



「ねえ穂咲。この場合で言う俺の魅力ってなんでしょう?」

「決まってるの。この大騒ぎの責任を全部ひっかぶってくれることなの」

「ですよねー」


 分かっていたこととは言え。

 改めて確認すると、ぐったりでがっかり。


 こうなればもう。

 やけくそなのです。


「ええい! せめて、どんな手を使ってでも勝つのです! 通信兵! アルファチームはどうしていますか?」

「バッドバッド! 現在敵主力と交戦中! 八人を相手に奮戦するも旗色悪し!」

「男女比は?」

「半々みたいね!」

「六本木は?」

「そこはグッド! 攻め手に確認!」


 よし、狙い通り。

 敵は何としてでも劇をやりたいと頑張っていた六本木夫妻。

 となれば、頭の固いお二人の事です。


 攻めに半分、守りに半分。

 そんな配置にすること請け合いなのです。


 それに対して、ここのところ卑怯な手を考えてばかりの俺が打った一手は。


 攻めに、男子ばかり五人のアルファチーム。

 女子ばかり五人のブラボーチーム。

 そして守りに六人のチャーリーチームという布陣。


 一見、各個撃破されんばかりの数の不利。

 ですが、この狙いは……。


「バッドバッドバッド! アルファチーム、抜かれました! 敵寄せ手、こちらへ向かってきます!」

「ようし、今です! ブラボーチーム、突撃!」


 主力の交戦中に。

 家庭科室のそばへ寄せて。


 伏せさせていたブラボーチームを。

 敵の攻め手がこちらへ向かうタイミングに合わせて突撃させたのですが。


 その構成メンバーは。


 新谷さん(一位)。

 原村さん(二位)。

 日向さん(二位タイ)。

 坂上さん(四位タイ)。

 向井さん(ジョーカー)。


「わっはっは! 男子四人は無力化必須! 残りの半分は向井さん一人で楽に抑えることができる! これで勝ったのです!」

「グッドグッド! でも、なんでブラボーチームはあんなメンバーなの?」

「企業秘密!」


 バラすはずもない情報を握りしめ。

 椎名さんから告げられるであろう勝利の報を待っていると。


「……さいてーなの」


 俺の携帯をいつでも勝手に覗く穂咲が。

 半目でにらんでくるのですが。


「何とでも言うがいい! 俺は、勝つためには手段を選ばん!」


 そう叫ぶと同時に。

 敵の寄せ手が教室へなだれ込んで。


 机のバリケードと格闘していると。


「ブラボーチーム、敵、殲滅! 後は旗を取って勝利とのこと!」

「よし! 聞こえましたか皆さん! 無駄な抵抗はやめて矛を収めるのです!」

「なにくそ! 俺は最後の最後まで諦めん!」

「無駄な抵抗なのです六本木君。さあ、お聞きなさい。今、終戦の放送が流れるのです!」


 俺の宣言に合わせて。

 椎名さんが携帯をハンズフリーモードにして。


 まるで黄門さまの印籠よろしく。

 机を相手に奮闘する連中へ突き付けると。


 まさにその瞬間。

 終戦を告げる言葉が響き渡ったのでした。



『あー、テステス。現在校内で迷惑行為をしている者どもは、すぐに教室で大人しく席につけ。あと、代表者は職員室へ出頭しろ』



 ……勝利目前にして。

 まさかの国連による強制介入。



 こうして勝負は。

 一番厄介な人の預かりとなり。


 代表者は。

 肩を落として職員室へ向かったのでした。



 ……バケツって。

 思いのほかずっしりと来るのです。

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