第9話 これからどうするの?


「まさかあんな事になってしまうなんて、お力になれず本当に申し訳ありません」

 

 牢獄の騒動の後、ホワイトキャット女王国の謁見の間へとやってきたJKたち。

 ミルク女王は三人に深々と頭を下げる。


「いやいや、頭を上げてくださいよ、あれはあなたの所為じゃないんだから」


 林檎が胸の前で手をブンブンと降る仕草をする。


「しかしこれでは事の真相を探ることが不可能になってしまったニャ」


 ちゃっかりシャノワールもここに来ていた。


「それでどうなんだレモン、お前なら何か考えがあるんじゃないのか?」


「ええ、当事者があんなことになってしまった以上これから私が言うことはすべて憶測になってしまいますけど良いですか?」


「別に構わないよ」


「リチャードさんとブルースさんを陰で動かしていた人物の動機を考えてみたのですが、現段階で二つ思い当たります」


 レモンが右手を拳を握った状態で前に突き出す。


「まずは怨恨の線………私たちの三人の中の誰か、もしくは全員に恨みにある者の犯行であること」


 握りこぶし状態から人差し指だけを立てる。


「怨恨ねぇ、でも異世界にアタイたちを恨んでる奴がいるのかい?」


「はい、林檎さんの言う通りいないでしょうね、でも可能性はゼロではないんですよ」


「え~~~っ? どうして?」


「みかんさん、私たちはどうやってこの異世界に来たか覚えてますか?」


「え~~~と、何だっけ?」


「馬鹿野郎!! お前が道に現れた怪しげな魔方陣を踏んだからだろう!! 忘れんじゃあねぇ!!」


「あばばばばば………!!」


 林檎がみかんの胸倉を掴んで激しく前後に揺さぶる。


「そっか~~~、あの魔方陣を踏んだのなら、あたしたち以外にもあっちからこの世界に来てる人がいるかもだよね~~~」


 目を回しフラフラのみかんが言い放つ、伊達に普段から漫画やラノベを読みふけっていた訳では無い。


「そうです、かといって今の時点ではまったく犯人の予測は付きません、以前に露骨な嫌がらせを受けていたのならば多少の予測は付くかもしれませんが、そうでなければ誰に恨まれていたか、嫌われていたか、私たちに分かる訳がないのですから」


 一瞬レモンの表情が苦痛に歪んだのを林檎に見逃さなかった。

 ただ、今その事について追及するのは何か違うと思い特に指摘はしなかった。

 現段階でレモンの関係者であるかは分からないのだから。


「そして二つ目、愉快犯の線………」


 二本目の指が立ちVサインになった。


「触れると異世界に転移してしまう魔方陣を無作為に別の世界に仕掛け、無差別に異世界人を召喚して、その人物にわざと困難を降りかからせ足搔く様を見て自身の加虐心を満たす者の犯行」


「あたし知ってる~~~!! 人が苦しんだり悩んだりするのを見て悦に入る変態さんだね!? 愉悦っ!!」


「そっ、そう言っても差し支えないですが………」


 みかんの言動に苦笑いするレモン。


「この場合、面識があるかどうかは問題ではありません……苦しんでいる姿さえ見られれば対象がだれであろうと関係ないのですから」


「ゲスい発想だな………そんな奴は許せない!!」


「そうだよ!! あたしたちでそんな奴、とっちめてやろうよ!!」


「そうですね、では早速行動に移りましょうか、二人とも出発の準備を………」


「おう!!」

「うん!!」


 腕を上に突き上げ声を上げるJKたち。


「レモンさん? この情報が無い中、どうするというのです?」


 ミルク女王が心配そうにJKたちに声を掛けた。


「情報が無いのならこちらから動くしかないと思いまして………もしも相手が私たちの動向を監視しているならきっと向こうから何かしらのアプローチがあるでしょう………何せ相手は私たちの一挙手一投足を観察するのが楽しくて仕方がないのでしょうからね」


「そうですか、ではわたくしとシャノワール王からあなた方の旅の安全を願う意味で贈り物があります」


 ミルク女王が目くばせすると彼女の配下の猫がお盆をもってJKたちの前に出てきた。

 そのお盆には白と黒の糸束をねじる様にして編まれたと思われるマーブルな輪っかが三つ、載っていた。


「これは一体………?」


「それはわたくしとシャノワール王の体毛を編み込んで作られたブレスレットです

 お守りとしてお持ちください」


「ありがとうございます!!」


 三人はめいめいにブレスレットを手に取り、腕にはめてみた。


「へぇ、中々お洒落じゃん」


「わ~~~!! まるで着けていないみたいに軽いよ!!」


「ほのかに香りがしますね、甘くていい香り………」


「魔除けの香で燻してあるニャ、きっとお前たちの道中の助けになるはずニャ

 気を付けていくのだぞ」


「ありがとーーー!! ミルクちゃん!! 黒猫さん!! またねーーー!!」


「じゃあな、ありがとうよ」


「大変お世話になりました、失礼します」


 両手をいっぱいに振り回すみかん、対照的に軽く片手を上げる林檎、深々とお辞儀をするレモン………三者三様にミルク女王とシャノワール王に別れを告げ王城を出た。




「ああは言ってたけど実際どうするんだレモン? お前のことだ、全くのノープランじゃないんだろう?」


 三人で草原を歩きながら林檎が問いかける。


「………地下牢でリチャードさんとブルースさんを子猫に変えたネズミさんが居ましたよね」


「そうだね~~~なんか忍者というか暗殺者というかなんというか………」


「みかん、あの汚らしい布をぐるぐる巻きにしたのがお前にはそう見えるのか?」


「林檎ちゃんにはそう見えなかった?」


「見えなかったな………」


 何言ってんだこいつといった困惑した顔でみかんを見つめる林檎。


「謎の存在が私たちを見ているなら必ず監視役がいるはず………恐らく、あのネズミさんがそうだと思うんです」


「じゃあ、そいつは今もアタイたちをどこからか見ているっていうのか!?」


「しっ………少し声のトーンを落としてください」


「悪い………」


 慌てて口を手で覆う。

 ここからはヒソヒソ声で話を始めた。


「恐らくは………ただ、私たちを常に監視するのは一人では無理でしょうから複数人、監視役はいるはずです」


「どこどこ?」


「みかんさん、あまりキョロキョロしないでくださいね」


「ごめん」


「ところでみかんさん、カバンの中にまだお菓子は残っていますか?」


「あるよ、食べる?」


「お前じゃあるまいし、レモンがそんな事するか」


「はい、私が食べる訳ではありません」


「えっ?」


「カバンの中、失礼しますね」


 みかんから受け取った学生カバンの中身を漁るレモン………すると出るわ出るわ、カバンからは大量のスナック菓子や紙パックの飲み物が現れた。


「お前な~~~、学校に何しに来てんだよ………」


 呆れる林檎。


「だって、頭を使うには糖分が必要っていうじゃん」


「糖分を摂ってる割には頭が働いてないじゃないか? この紙パックの乳飲料なんてパンパンに膨れて腐ってるじゃないか」


 いきなり異世界に飛ばされ冷蔵もせず半月が経つのだ、腐るのは当然だ。


「あ~~~あたしのいちごみるくが~~~!!」


 地面に手を付きがっくりと落ち込むみかん。


「あっ、待ってください、捨てないで」


「えっ? だって飲めないんじゃ………」


 紙パックの封を切ろうとしたみかんをレモンが制止する。


「いえ、むしろそれがいいんですよ………そう、腐っているのがいいんです

 あとはこのチーズがふんだんに掛かったこのスナック菓子なんてもう最高です」 


 レモンの手には、くるんと巻かさったスナックにチーズの粉がまぶされたお菓子、カーリーの袋が握られていた。


「え~~~と………どういう事?」


 首を傾げるみかん。


「まあ見ていてください、その紙パック飲料も私に貸してくださいますか?」


「うん」


 チーズスナックと腐った乳飲料………レモンは一体何をするつもりなのだろうか?

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