第16話 俺はわかりやすいらしい

 杏奈に開放され、家に帰った時には8時を過ぎていた。


「ただいま」


「おかえり、お兄ちゃん。どうしたの、そんな疲れた顔して」


「あ、いや、杏奈に色々されてた」


「何されてたか気になるところだけど、帰ってくるのが遅いから、夕食もう作っちゃったよ」


「そうなのか、ありがとう。唯香」


 夕食中、杏奈の家で何があったのか、掻い摘んで話をした。


「それで、さっきの話だけで、そんなに疲れた顔にならないよね?」


「…杏奈に長い間、甘噛みされてた」


「へぇー、まあ、好き同士だからいいんじゃない。(杏奈さんは知らなかったと思うんだけど)もしかしてさあ、お兄ちゃん、杏奈さんに耳に『ふぅー』って息吹きかけられてビクッてしちゃったとか?お兄ちゃんわかりやすいし」


 と笑いながら言う。妹よ、何故わかる?


「…俺ってそんなにわかりやすく体や表情に出てるか?」


「逆に聞くけど、分かりにくいと思ってる?杏奈さんにもわかるなら、誰でも気づくと思うよ」


「えぇ…」


 そんな事を話しながら、入浴と夕食を終えて、自室に向かう、杏奈の家で何も勉強しなかった分、課題を早く終わらせなければ。


「はぁ、あれを学校でやられるのだけは避けないとな。それに、また違う意味でクラスの奴らに弄られるだけでは済まない」


(何とか説得しないとな…)


「とりあえず、さっさと終わらせて寝よ」


 結局、課題が終わった時には、0時は過ぎていた。


***

「ふぅあー、何でまた目覚まし時計より早く目が覚めたな…起きるか…」


 時計は、まだ6時前を指している。もうちょっと寝る事もできるが、中学の時やらかしたことがある俺としてはそれ以降、早く目が覚めた時は寝ない事にしている。まあ、『早起きは三文の徳』とも言うしな。それから、俺はいつも通り、朝食とお弁当の準備をして、唯香を起こす。


ピンポン! ピンポン!


とチャイムがなった。まだ杏奈が来るにしては早すぎる、誰だ?


「はーい、今出まーす」


「ただいま」


「おかえりって、鍵持ってるだろ、母さん。それに、最近、夜勤が多くないか」


「そうなのよ、はぁ…眠い。拓馬、時間ないと思うけど、お腹減ってるから何か作って、簡単なものでいいから」


「分かったよ、唯香〜、母さんにお茶とご飯用意してあげて」


と伝え、唯香は「はいはい」と二つ返事で準備してくれた。昨日の夕食の残り物とスクランブルエッグで何とかなるかな…と少し考えてから10分くらいで料理を完了させる。


「はい、ちょっと少ないかもだけど」


「ありがとう。そうそう、拓馬、唯から聞いたけど、杏奈ちゃんと付き合ってるって本当?」


「あぁ、本当だよ。今、お付き合いしてる」


「やるなら、ちゃんと__」


「わ、わかったから!これ以上は言わなくていいから」


はぁ…、油断も隙もあったもんじゃないな…


ピンポン!


「杏奈さんかな、私出てもいい?」



「いいよ」


と聞くと唯香はすぐ玄関まで向かって行った。

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