第9話 絡んでくる嫌いな先輩
授業も放課後の部活も終わり、後は帰るだけとなった。
「たっくん、一緒に帰ろ!」
と杏奈が駆け寄ってきた。本当は、俺から誘うつもりだったんだけど、まあいいや
「いいよ、杏奈。校門まえでいい?」
「うん、すぐ行くね」
先輩や同級生、さらには先生にも生暖かい目で見られている。
「「お疲れ様でした!」」
と俺と杏奈は言って、アリーナを出て、校門で待ち合わせをするのだった。
***
杏奈たちがアリーナを出た後、七海と女子部員のみんなで杏奈と拓馬のことについて話していた。
「まさか、杏奈があそこまでベタ惚れとはね」
「うんうん。確かに鈴木君がいい子なのはわかる」
と拓馬がいい男のような感じになっているのは、杏奈が聞かれると嫉妬して怒るので杏奈が居ない時にしか話せない。
「七海は彼氏欲しくないの?」
「私はまだいらないよ」
だって、杏奈のことを支えることの方が私にはちょうどいい。それに私には…ううん、今は関係ない。
「勿体無いな〜」
とその後も恋バナに華を咲かせ、帰路に着くのだった。
***
俺が校門に行くと、杏奈はまだ来て居らずゆっくり待っていると、杏奈は三年生の二人の男子にやたらと絡まれていた。
「すいません。彼氏が待ってるので…」
「誰? そんな奴のどこにいるの? ww」
と杏奈が嫌がっているのを楽しんでいるかのようにも見えた。だから咄嗟に
「先輩方、杏奈に何してるんですか?」
「コイツ、一年坊主じゃん。杏奈ちゃん、コイツのどこが好きなの?」
イラっ! めっちゃムカつく! と思っていると、我慢の限界だったのか杏奈が凄く怒ったオーラを放ちながら
「先輩たちより100倍たっくんの方がカッコいいし、みんなに頼られる、私の一番好きな彼です! これ以上バカにしないでください! それに気安く名前で呼ばないで、その名前で呼んでいいのはたっくんだけです!」
と校門にいる生徒、先生、そして地域の住民が杏奈の声に驚きと同時に視線が集まった。杏奈の言葉に先輩たちは目立つのが嫌なのか、苛立ちを露わにしながら去っていった。それで俺たちはというと、恥ずかしさのあまり二人揃って顔を赤くしていた。
「か、帰ろうか、杏奈」
「う、うん。そうだね」
気まずい、それもそうだ。あれだけ多くの生徒、先生、地域の人々に聞かれてしまったのだから。
帰り道、他の生徒たちがほとんどいなくなったところで
「ごめんね、たっくん。でも、我慢できなかったの。私の大好きなたっくんを悪く言われるのは嫌だよ…」
と涙目になりながら杏奈が言った。そんな杏奈に俺が出来ることは何か、考えてもわからないけど
「杏奈がそう言ってくれて嬉しいよ。ありがとう」
そう言って、強く抱きしめた。それしか思いつかなかった。すると、杏奈も強く抱きついて、少しだけ泣いていた。
「ありがとう、もう大丈夫」
と言って、いつも通りの二人に戻った。よし、ここで聞かないと
「話が変わるんだけどさ、杏奈は今週の日曜日は空いてる?」
「日曜日? うん、空いてるよ」
「よかったら、デートしない? ダブルデートになるんだけど」
「そのデートには行きたいんだけど、ダブルデートってことは、もう一つのカップルは?」
「あ、それは、裕也と侑芽だよ。俺のクラスメートなんだ」
「へえ〜、もしかして、中学の時にたっくんとよく一緒にいた男子?」
「そうだよ。よく知ってたね」
「だって…たっくんに話しかけたくても、いつも隣にいて、ずるいって思ってた」
あ、なるほど、あの時、感じた視線は杏奈が裕也に向けて放った嫉妬のようなものだったんだ。まあ、それは裕也が悪いことにしておこう。
「それで、行けそうかな?」
「うん、いいよ。たっくんからデートに誘われたのに断るなんて出来ないよ」
と嬉しそうに答える。これで今週末、人生初の彼女とのデートに行けることになった。そして、知る由もなかった。初デートであんなことが起こるとは…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます