第90話 それ速さじゃなくて数字だよ?

 よう、古城ろっくだ。今日は……そうだな。君が前回ドラムを叩いてくれたので、それをBGMにしながら話をしようか(笑)


 さて、本題。前回はドラムの基本的な8ビートの話をしたけど、今回はその応用だ。みんなの憧れでもある16ビートを叩いてみようと思う。

 ……と言っても、いきなり『ドカチャカツカチャカドカチャカツカチャカ』みたいなものすごく手が忙しいやつをやる気はない。こないだの8ビートの応用だ。もっと言うなら、そこに1音くわえただけで8ビートを16ビートにする。

 この辺の理屈が分かると、自称音楽通の連中にマウントを取れるぞ。特に「最近の若者はタイパを重視するからテンポの速い曲が~」とか言っている老害どもに効果的だ。何も楽曲の速度とは、BPMだけで決定する者じゃないんだよ。


 前回やったのは、まあ、だいたいこんな感じだったよな。


『ドン ツッ タン ツッ ドン ドン タン ツッ』


 これを右手と右脚と左手の3行にわけて考えるマルチタスクの話と、1拍ずつに分割して8段で組んだ高速シングルタスクの話をしたと思う。今回はちょっとそこに違いを出すぞ。

 こうだ。


『ドン ツッ タン ツタ ドン ドン タン ツッ』


 ちょっと分かりにくかったと思うので、比較として並べたうえで、さらに理解しやすいように傍点を振ってみよう。


8ビート『ドン ツッ タン ツッ ドン ドン タン ツッ』

16ビート『ドン ツッ タン ツ ドン ドン タン ツッ』


 そう。新たに一か所だけ『ツタ』という謎の音が入った。

 これを前回同様、マルチタスク的に書くと、こうなる。


右手『ツッ ツッ ツッ ツッ ツッ ツッ ツッ ツッ』

左手『―― ―― タン ―タ ―― ―― タン ――』

右脚『ドン ―― ―― ――ドン ドン ―― ――』


 この真ん中あたりにある『―タ』という奴が曲者だ。コイツは8ビートに対して裏裏拍で入ってくる。つまり、『タン』じゃなくて『ンタ』だと思ってくれると分かりやすい。

 ちなみに、これを高速処理のシングルタスクで書くと、どうなるかというと、だな……

 恐ろしい事に、たった一小節が16行になる。前回の8行でも大変だったが、それを超える行数になるわけだ。

 まあ、実際に書いてみるか。

 いいかな?右手でハイハットシンバル。左手でスネアドラム。そして右足でバスドラムだぞ。

 前回同様、僕が『手足』と言ったら、右手と右脚を動かす。ちなみに左手は休みだ。

 そして僕が『右手』と言ったら、右手だけを動かす。僕が『両手』と言ったら、右手と左手を動かす。

 そして、ここにもう2種類の追加要素だ。僕が『休め』と言ったら何も動かさない。そして僕が『左手』と言ったら、左手だけを動かす。

 この5パターンだ。じゃあ、やってみよう。


足『ドン    ツッ』

休み『        』

手『      ツッ』

休み『        』

手『   タン ツッ』

休み『        』

手『      ツッ』

左手『   タン   』

足『ドン    ツッ』

休み『        』

足『ドン    ツッ』

休み『        』

手『   タン ツッ』

休み『        』

手『      ツッ』

休み『        』


 こ、こんな感じになる。ちなみに、速度は前回の2倍で考えてもらう。つまり、超高速だ。

 一部に傍点を打ってみたが、これは1拍ごとに分けて書いた方がいいと思って、読みやすいように隙間を開ける役割である。ので、無視してくれていい。

 ここまでくると、さすがに高速シングルタスクでものを考えるのが限界に近くなってくるなぁ。ちなみにマルチタスクで考えられる人にとっては、そんなに難しくないはずだ。


 あ、そうそう。

 これ、『God knows...』のイントロのフレーズなんだよ。そう聞くとなんかやる気出てくるよな。――僕だけか?




 そもそも、16ビートっていうのは『16分音符の存在を強く感じられるビート』の事なんだが、何もずっと16分音符を連続しないといけないルールなんか無くてな。

 こうして効果的に一部にだけ16分音符を仕込むだけで、曲全体をコントロールする力を持つ場合がある。これも立派な16ビートだ。


 ……で、先ほど「マルチタスクで考えた方が、高速シングルタスクで処理するより簡単だな」という話をしたと思うんだが、これは『人間ならば』という制限が付く。

 そう、『コンピューターは』高速シングルタスクで打ち込んでもらった方が手っ取り早いのだ。

 例えば、God knows...は、BPM=160で16ビートを刻んでいる。BPMとは曲の速度で、『BPM=160』とはつまり『1/160分に一回手拍子する』という意味だな。この数字が大きくなるほど、速度が上がる


 うん。何となく気づいただろう?

 この曲も、16分音符を感覚で感じ取れる人間だからこそ『BPM=160』で計算するのが楽なんだが、コンピューターに打ち込むとなるといちいち8分音符と16分音符を使い分けるのが面倒くさくなってくる。

 すると、すべて8分音符で入力した方が楽になる。ちょうど、僕が16行の文章でタスクを説明したのと同じだ。あれは読者には分かりにくいだろうけど、コンピューターに指示するなら楽になる。

 ので、本来なら『BPM=160の16ビート』であるはずのこの曲も、全部8分音符にしようとしたら『BPM=320で8ビート』と記載される。

 これをBPMだけ見ると、なんと2倍速まで上がったように見えるのである。実際に聴くと何も変わってない。


 これをもってして、一部の自称音楽通の方々(笑)が

「今どきの若者はタイパを重視するからBPMが速い曲ばかりが売れる」

 と勘違いするんだが、ヒット曲の平均BPMが上がるのは別にリスナーが求めたからではなく、クリエイターの事情とパソコンソフト(MIDI)の都合によるところが大きい。

 まあ、最近のお菓子とか、値段はそのままで内容量が減っていることがあるだろう?あれは今時の若者が小食だからではなく、原材料の価格高騰や消費税率の引き上げが原因なんだよ。

 でも多くのクリエイターは自分たちが認められないのを、自分たち都合ではなくユーザーの都合にしたがるんだよな。『今時の若者は~』ということで、「俺って若者の文化にも柔軟に理解を示せるんだけどさ」ってPRも出来て一石二鳥だ。

 そこから「若者の文化に合わせた自分の、BPM300を超える曲を聴いてくれたまえ」とコンボを繋ぐこともできるし、「こんなことを続けていては音楽は廃れてしまう」と伝統芸にシフトすることもできる。

 ああ、小賢しい論法だぜ。


 みんなも、そういう「俺って若者音楽もよく聴くんだけど、BPMがさー」って話を吹っ掛けてくる奴がいたら、逆にマウントを取り返してみよう。




 さて、次回は初音ミクのおへそをくりくりするならどの衣装がいいか。ってテーマについて語るか。

 アペンド衣装のあの謎の力でハッチオープンする隙間を、上の方から指でなぞっておへそに到達するのも一興なんだが、個人的には……つみ式ミクさんのネクタイを持ち上げずに、あえてネクタイの上からくりくりするのも素晴らしいと――

 え?普通にキッショい?


 うるさいなぁ。真面目に音楽の話をした時って、何か知らんけど恥ずかしいんだよ。文章越しだから見えてないかもしれないけど、こちとら顔真っ赤だからな。

 だから二次元の少女にセクハラをするくらいの照れ隠しは許せ。僕は『音楽大好きおじさん』になるくらいなら、『二次元美少女だいすこおじさん』になる!

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