第78話 専門家よ。それは誤解を生む

 よう、古城ろっくだ。今日はメーカーズマークのお馴染みレッドキャップをハイボールで飲もうと思う。

 これ、以前も飲んだよな。今日はサントリーから発売されたバキバキのストロング炭酸水でキメていくぜ。

 おお、じゅわぁって泡立って、そこから立ち上るアルコール臭が……ごほっ、げほっ!?

 いや、キッツイわ。これちょっと泡が落ち着かないと飲めない組み合わせかもしれない。あ、でも美味しい。わりと飲みやすくて、それでいてメーカーズマークらしさは消えてないな。

 いや、でもなんとなくだけど、あの日のファーストインプレッションが失われたような気がするのは気のせいだろうか?

 もっと癖の強い味わいだったように記憶しているんだが、香りもクセもマイルドに感じる……


 さて、今日はギターの話でもしようかな。

 ちょっとエレキギターの仕組みについて話をしよう。なーに、難しいことでも専門的な事でもないさ。簡単に説明するから、初心者でも付いて来れると思う。

 エレキじゃないと出ない音ってのがあるよな。あの『ズギャーン』って感じの音だ。あれは主にエレキギターに『ひずみ』をかけることで発生させることが出来る。つまり、エレキなら何でもあんな音が出ると思ったら大間違いだ。

 いや、要は歪みを加えればいいだけなので、そういう意味ではエレキなら何でもそういう音は出るんだけどさ。


 この歪みってやつは、いくつかの方法でかけることが出来る。主にアンプでかけるのと、エフェクターと呼ばれる追加装置でかけるのが一般的だ。

 今日はその、エフェクターの話。


 歪みには大きく分けて、『オーバードライブ』と『ディストーション』の2種類がある。この違いは何なのかと言うと、厳密には決まっていない。

 よく言うのが「オーバードライブは弱い歪み。ディストーションは強い歪みです」っていう説明だな。

 ……僕、この説明の仕方が大っ嫌いなんだ。

 なんなら、この説明をするギタリストが本気で嫌いだ。彼らはそもそも、オーバードライブとディストーションの違いを訊ねるほどの初心者が、どんな気持ちで質問をしているのか分かってない。

 あえて言うぞ。別にオーバードライブは弱い歪みでもないし、ディストーションは強い歪みでもない。なので、そんな説明をする奴らは信じるな。耳を貸すな。


 え?「古城ろっくの方が間違ってる」「俺もギターを弾くから詳しいけど、今回は古城ろっくが違うことを言っている」だと?

 よし、じゃあ実験をしよう。自称ギターに詳しいお前さんよ。手元にディストーション系のエフェクターを用意してくれ。BOSSでもMXRでもbehringerでも何でもいい。

 そのディストーションの歪みコントロールツマミ(呼び方は様々だが、今更お前さんたちに説明はしない)を、思いっきり下げてみてくれ。弱くしてみてくれ。

 ……どうだ?弱く設定したディストーションエフェクターから、オーバードライブの音はしたか?

 いや、しねーだろ(笑)

 だからよ。ディストーションの弱いやつがオーバードライブなわけじゃないんだって。あの二つの違いは強さじゃない。

 言うまでもないが、オーバードライブペダルをいくつ直結してもディストーションにはならんからな。


 さて、そこまで理解してもらったうえで、「じゃあその2つの違いは何なのか」というと……

 僕なりに答えるなら、それは「切れ味」だ。

 オーバードライブは、まるで鋭く研ぎ澄まされた刀のような、滑らかで自然に切れる鋭い切り口を持つ。その音は耳に途切れない綺麗な音を、どこまでも澄み渡るように聴かせてくれる。

 一方、ディストーションはまるでチェーンソーだ。バリバリと弦の振動周波数で削っていき、荒く耳を刺激するザラザラした音を聴かせてくれる。破壊的だな。

 オーバードライブのほうがナチュラルで、プレイヤーの意思をそのまま受け継ぎやすい。ディストーションの方が繊細さはないが、わざとらしくすらある力業が特徴になる。と言えば分かりやすいか。


 まあ、こんな話は既にエレキギターを散々弾いてきて、いろんなエフェクターを試した人には言うまでもないんだが、な。


 ただ、これからギターを習い始めようとする人に「ディストーションだけ買っておけば、あとは弱くしてオーバードライブにもできるから一石二鳥でしょ」みたいな誤解を与えるのはよくない。

 なので、他の適当な話ばかりするギタリストに変わって僕が言っておく。


「ディストーションを弱くしたら、弱いディストーションになるだけだ。オーバードライブにはならない」


 もしこの中にギターを始めたい人や、始めて間もない人。あるいはギターを誰かに教える人がいたら、気を付けてくれ。




 まあ、そうは言ったけど、

 感覚的な話をするなら、ディストーションの方がより鮮明に印象に残り、強烈にわざとらしく『エレキギターらしさ』を演出できるのは間違いないんだよなぁ。

 そういう意味で、自称上級者の人たちは『ディストーションは強い』なんてことを言うんだろうとは思う。実際、ある程度の知識を持った人同士だと、その雑な説明でお互いに理解し合える。

 僕だってこのとおり、実は「言いたいことは分かる」程度には、彼らの意見を理解しているんだ。ただ、僕以外にとっては語弊が大きいと言っただけでさ。


 僕も時々、似たようなことを教えてしまうことがあるんだ。そして話し合っているうちに、どこか噛み合わないことに気づくことは多々ある。

 自分でも気を付けないとな。




 ……え?「古城ろっくは何を使ってるのか?」って?

 聞いてくれるか。僕はファズだ。

 先ほど「オーバードライブは刀。ディストーションは電気のこぎり」と例えたが、その理屈で言えばファズとは「レーザーブレード」みたいなサウンドだな。

 意識して聞いてみると、意外と面白いぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る