第64話 弱者の存在意義

 よう、古城ろっくだ。今日はちょっと濃いかもしれない。

 あ、話の内容の濃さじゃなくて、飲んでるアルコールの濃度だ。三ツ矢サイダーとウォッカの対比が7:3だよ。このくらいの濃度になると、酒を飲んでるって気分が出てくる。

 ただ、飲食店で酒を注文して、もし薄かったとしても、店員にグラスの中身を浴びせてはいけない。本社にクレーム自体は入れていいと思うんだが、やり方は重要だ。

 ……僕が最近好きになりかけているVtuberがいるんだけどさ。そいつが祖国にいたころ、飲食店のバイト初日に「カクテルにテキーラが入ってない!」って言われてグラスの中身を浴びせられたらしい。ひでえ話だと思ったよ。


 さて本題。

 7:3で思い出したんだが、働きアリと呼ばれる虫たちは、その3割ほどが働かないアリなんだそうな。

 これ自体は個性の問題とかではないらしい。例えば100匹いるアリの中から働かない30匹を間引くと、残った70匹のうち20匹くらいは働かない。そいつらもリストラして残り50匹の精鋭を選出すると、そのうち15匹ほどが働かなくなるんだとか。

 まあ、そのメカニズム自体は知らないんだが、人間社会にも似たようなところがあるよな。って思ったりする。

 あの役に立たない連中は、増え過ぎると困るんだが、減りすぎても困るんだ。程よく3割くらいいる状態がベスト。

 え?「そいつらは何の役に立つのか?」って?

 そりゃもちろん、士気の向上や、新しい需要の確立だ。

 一例を出そうか。




 僕が高校2年生の頃の話だ。学園祭が毎年開催されてたんだけどさ。僕らAクラスはたしか、お化け屋敷を出した。

 このお化け屋敷も充分なクォリティを発揮したが、今回はその話ではない。僕は軽音楽部の活動で忙しかったのでクラスのお化け屋敷にさほど貢献できなかったが、それも今回はどうでもいい。

 正直、僕らのクラスは大成功だったんだが、それと同時に隣のそのまた隣のクラスも、大成功だったと思う。何の表彰もされなかったそのクラスだが、僕たちを凌駕したと、個人的には思っている。


 そのクラスの出し物は、『休憩所』だった。


 もしも「ああ、休憩所か。毎年どこかのクラスは学園祭で出して来るよな」とか思った人がいたら、ぜひ教えてほしい。少なくとも、僕の知る限りこのような出し物を申請するクラスは少ないし、申請が通るケースも少ない。

 いや、まあ空き教室が出てしまったり、部活で出し物にトラブルが発生したりして、やむを得ず休憩所という名目になる場合はよく聞くんだけどさ。


 学園祭というと、生徒の大半が浮かれていて、「どう楽しもうか」と準備期間から本気になるものだ。しかし、このクラスは「どうサボろうか」を重視し、結果として『休憩所』なるものを作り出した。

 要するに、自分たちの使える教室を、普段の教室の状態そのままにして自由に出入りできるようにしておくだけ、である。つまり何もしていない。


 これが人気スポットになり得たのか?と言えば、ぶっちゃけ大人気だった。

 もともとは、そのクラスの大半が「学園祭なんか面倒くさい」と言い出した結果なのだが、これが意外な汎用性を持つ。

 学園祭と言えば、一定数「めんどくせーし、だりー」とか「一緒に回る友達いないし」とか考える人たちはいるものである。そんな人たちにとって、『学園祭なんだから楽しめよ』というような無言の同調圧力から解放される時間は、どれほど貴重だっただろうか。

 この「いつもの教室」でひっそりと過ごせる時間は、一定の人たちを救ったのは間違いない。

 え?僕?

 僕は当日も忙しかったんだよ。午前はクラスでお化け役を演じなきゃいけなかったし、午後は軽音部の方でライブと、その前のリハーサルがあったからさ。当日は休憩所に立ち寄る時間なんか無かったね。

 とはいえ、僕もここには大いに世話になった。

 お化け屋敷の作業や、部活での音楽性の違い。そういったことで疲れた時、逃げ込むのはここと決めていた。普通に居心地がよかったんだ。

 準備期間となれば、どこの教室も自分の出し物で忙しそうだったからな。そんななか『何もしていない教室』が一室でも存在するというのは、他のクラスの士気を向上させた。

 ちなみに、その『休憩所』を設営したクラスの一部生徒だが、やることが無くて暇になったので、準備期間中は他のクラスを手伝っていた。特に人手が欲しかった僕らのお化け屋敷は、とても助かったよ。

 なんなら、部活とクラスのどっちもやる気満々だったため板挟みにされた僕よりも、自由の名目のもとに沢山のクラスに手を貸していた彼らの方が、学園祭への貢献度が高かったかもしれない。

 それもこれも、彼らの出し物を『休憩所』で決定した人たちの活躍があってこそだ。




 と、まあ、何が言いたかったのかというと、

 一見すると役に立たないような人でも、実はその怠ける癖が、誰かを救っているって話だね。

 もちろん先に話した通り、この黄金比は7:3だ。この比率が崩れると、そりゃ上手く行かない。

 でも、この3割はいなくなってはならないんだ。もちろん、増えても減っても困るけどね。

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