第48話 マーケティングとターゲット

 よう、古城ろっくだ。……この代わり映えもしない挨拶が、いつまで続けられるんだろうな?

 あらゆることが変化する。

 例えば僕の決め台詞と言ってもいい「そんなことよりチャリチャン読んでくれ」も、だんだん廃れてくるというか、そろそろ僕の看板作品を挿げ替える時期なのかと思ったりもする。

 エッセイのタイトルに「すげーどうでもいい」ってつけることも無くなったし、サブタイに「○○ってさ・・・」と書くことも無くなった。

 こうして自分の作り上げてきたキャラクターも変わっていくんだな。今までずっとジーパンを穿き続けてきた僕が、来年にはなにも穿かないで歩いているかもしれない。


 さて、秋の寂しさを最後の一言で台無しにしたところで、今日はフルチンのまま執筆していこう。来年の今頃「よう、古珍ろっくだ」って挨拶していたら、つまりそういう事だと思ってくれていいぞ。


 今日の本題は、マーケティングの話だ。

 世の中には、明らかにターゲットを間違えたマーケティングと言うのが存在するよな。

 例えばイラストレーターに対して宣伝してしまったタイツメーカーとかな。最近話題だ。タイツメーカー主催のイラストコンテストみたいなやつがあって、そこに女性の脚をエッチに描いたイラストが集まったんだってさ。

 まあ、そうだな。そもそもタイツなんて女性しか履かないのに、男性が興奮するようなイラスト大会にしても意味が無い。そういう絵が好きな奴はタイツなんか使わないからな。

 ……まあ、それって『女性は美少女イラストなんか描かない』『美少女イラストを好むのはおっさんだけだ』って偏見の元に成り立っている、非常に差別的な内容だと思うんだけどさ。もしかして、コスプレ趣味でコミケできわどい格好している人は女に含まれないのかもしれない。

 果たしてあのイラスト大会が女性を性的に搾取したのか、それともメーカーを叩いた女性たちが女性の自由を搾取したのか、それは不明だ。


 まあ、そんな話はさておき、今回僕が言いたいのは、

「ターゲット以外に宣伝することに意味はあるのだ」

 ってところかな。


 釣りの仕方で、針に餌をつけない方法がある。僕が爺さんと一緒に釣りに行ったとき、爺さんが教えてくれた仕掛けなんだがな。本当に針には一切、餌が付いてないんだ。なのに魚が釣れる。

 では餌は要らないのか?

 いやいや、そんなわけないじゃん。

 針の前に餌を入れておく網があってな。そこに練り餌を入れてリールを巻き取ると、網の目から無数の餌がこぼれていく。それを必死で食おうとした魚が、近くにある針にうっかり引っかかるって寸法だ。なんていう仕掛けだったか……名前は忘れた。

 もちろん、大半の餌は魚の口に入らないまま水に溶ける。つまり無駄撃ちのように見えるんだが、それでも20ほど付けた針のうち、2匹も引っかかればそれでいいのだ。別に高級な餌を使っているわけじゃないので、それで元が取れる。充分だ。

 逆に言うと、いちいち20もつけた小さな針に、ひとつひとつ手作業で餌なんか付けてたらそっちの方が時間的なコストがかかる。


 さて、これが宣伝でも同じだったりする。

 例えば、パチンコ屋がポケットティッシュに広告を仕込んで、駅前で配るという手法で宣伝をすることがある。あれは誰にでも配っているのだが、それを見てパチンコ屋に来てくれるのはほんの一握り。パチンコに興味のある人だけだ。

 では、ティッシュを配るときに「あなた、パチンコに興味はありますか?」と訪ねてから、興味あると回答した人にだけティッシュを配っても同じ効果が得られるんじゃないか?と考える人もいるかもしれない。

 おそらくだが、そんな街頭アンケートみたいなことをやってたら、回転率が落ちる。本来ならいきわたったはずの人に広告が届かなくなり、宣伝が広がらない。

 結局、無差別に数だけ大量に配っても、きちんとターゲットを絞り込んで配っても、来てくれるのはパチンコに興味のある人だけ。なら、あとは時間的コストや人件費を考えて、無差別で配った方がコストが安くなるならそっちのほうがいい。ただそれだけってわけだよ。

 宣伝するときってのは、その辺のコストとかを計算しないといけないわけだ。客の数が同じでも、その客を呼び込むためのコストを抑えられれば大成功なのさ。


 今回のタイツの話だが、ツイッター上で「イラストコンテストをやるよー」と呼びかけただけという、ほぼゼロ円での宣伝だった。

 これで捕まる客はほんの一握りだろう。そのメーカーを知らなかったという人で、さらにタイツを欲しがっていた人。その二つの条件に当てはまる人など、非常に数少ない。……のだが、コスト0円で利益が極小でも出るなら、上出来なのである。

 一部ユーザーは「失望しました。もうタイツ捨てます」みたいなツイートをしているみたいだが、そいつらもどうせ捨てないだろ。あるいは捨ててもすぐ買い戻すだろ。そこにマイナスなんか出てないと思える。

 かの会社の売り上げ成績を見ることが出来ないのは残念だぜ。今月は上がると僕は予想するが、さてみなさんの予想はどっちかな?


 あ、そうそう。僕の決め台詞も言っておこう。

「そんなことよりチャリチャン読んでくれ」

 これも「自転車好きにだけ届くように宣伝すればいい」とか言われることがあるんだが、そうじゃない。むしろ自転車に興味なさそうな市場である小説界隈だからこそ、宣伝する意味があるんだ。

 なにしろ、自転車好きに自転車のPRをするのは僕の仕事ではなく、ショップやメーカーの仕事だからな。

 もちろん読者の全員が自転車に乗ってくれるとは思わないが、それでも知ってくれるだけでいいんだ。そこから1割でも乗ってくれる人がいれば……あるいは乗らなくても自転車に理解を示す人が何割かいてくれれば、僕の勝利なのさ。

 あるいは、理解力のない人間が印象だけで「古城ろっくが嫌いだから自転車捨てます」みたいなことを言い出したら、それもそれで僕の勝利だ。たかがその程度の事で自転車捨てるような考えなしを業界から追放するのも、自転車乗りの民度向上につながるからな。

 ……おっと、いけね。一言余計だった。

 じゃ、僕はそろそろパンツを穿くぜ。また次回フルチンでお会いしましょう。

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